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【イノベーション】イノベーティブな行動を促進する要因とは!?(Scott & Bruce, 1994)

今回もイノベーションに関する文献を紹介します。本稿を記載している、2023/8/26時点のGoogle Schalorで約9200もの引用がなされている、イノベーションの原典の1つともいうべき文献です。

Scott, S. G., & Bruce, R. A. (1994). Determinants of innovative behavior: A path model of individual innovation in the workplace. Academy of management journal, 37(3), 580-607.


どんな論文?

この論文は、イノベーションの先行要因、つまりイノベーションを促進する要因に関する多くの研究をレビューし、統合した上で、個人のイノベーティブな行動(革新的行動)に関するモデルを開発し、検証したものです。

著者らは、イノベーティブな行動に影響を与える要因を、リーダーシップ・職場・個人に分類し、それらの要素が「心理的なイノベーションの風土」に影響すると考え、以下のような仮説モデルを構築しました。

リーダーシップ要因で扱われたのは、リーダーとメンバーの交換関係、いわゆるLMXと、リーダーによるメンバーへの役割期待の2点です。

LMXは以前の研究からも、イノベーションとの関連性が示されており、リーダーからの役割期待は、ピグマリオン効果(期待により行動を変えること)を想定してモデルに組み込んだようです。

続いて、職場要因として扱われたのは、チームメンバー内での交換関係です。
論文では、「個人的な非難を受けずに アイデアを導入できると個人が考える度合いを決定すると示唆」があり、また「アイデアの創出には仲間同士の共同作業が重要であるという意見もある(Amabile & Gryskiewicz, 1987; Sethia, 1991)」と紹介され、職場内での関係性が影響するのでは、と想定されました。。

最後に個人要因ですが、以下、2つの問題解決スタイルが変数として投入されました。

  • 直感的問題解決スタイル:既存のルールや分野の境界を気にせず、イメージや直感を重視するという特徴をもつ。直観的な問題解決者は、異なるパラダイムからの情報を同時に処理する傾向があるため、斬新な問題解決策を生み出す可能性が高い(Isaksen, 1987)。そのため、正の相関が想定される。

  • システマティックな問題解決スタイル:合理性や論理を重視する志向で、問題を解決する際に、フレームワークや型を重視するため、新しい発想としてのイノベーティブな行動が生まれにくい可能性があり、負の相関が想定される。


研究結果

このモデルを検証すべく、ある企業の研究開発チーム・172名の回答をもとに統計的な分析を行ったところ、以下のような結果が導かれました。

P598

まとめると、

  • イノベーションへの支援は、イノベーティブな行動と正の関係がある

    • 一方、リソースの支援は、イノベーティブな行動と正の関係がない

  • リーダーとメンバーの交流(LMX)とイノベーティブな行動には正の関係がある

  • LMXとインクルーシブな心理的風土の各次元には正の関係がある

  • リーダーからの役割期待とイノベーティブな行動との間には、正の関係がある

  • システマティックな問題解決スタイルと、イノベーティブな行動との間の
    有意な負の関係がある

  • 一方、以下の関係は関係がみられなかった

    • 役割への期待と、イノベーションに関する心理的風土

    • チームメンバー同士の交流と、イノベーティブな行動

    • チームメンバーの変化と、イノベーションに関する心理的風土

    • 直観的問題解決スタイルと、イノベーティブな行動


イノベーティブな行動の尺度

本文献がここまで参照されている理由の一つに、イノベーティブな行動の測定尺度を開発したことがあげられます。

尺度は、イノベーションの段階に関するKanter (1988)の研究と、研修対象企業の取締役と副社長とのインタビューに基づいて、本研究で使用するために特別に開発したもののようです。

尺度を構成する設問は、上司が部下一人ひとりに対して記入する6つの項目で構成されており、5件法でアンケートに回答が求められたようです。

(上司が部下に対して評価をするパターンは珍しいですね・・・)

興味深いのが、イノベーティブな行動尺度の妥当性検証のプロセスです。
論文では、各回答者が実際に提出した発明の件数を、組織への在籍年数で割った指標を用いて、アンケートの回答と突き合せたとのこと。

そして、この指標を用いて表された数値と、上司が回答した部下のイノベーティブな行動の数値の相関を調べています。その結果、有意な0.33程度の相関係数がみられ、イノベーティブな行動尺度が妥当であると判断された、と説明されています。

こうしたプロセスを経て作成された「イノベーティブな行動」尺度は、測定指標におけるスタンダードとして、今日にいたるまでよく使われています。

感じたこと

先行研究を芋づる式にさかのぼり、源流を見ていくのは、大変ですが興味深いものがあります。過去の研究をレビューしながらモデルを作成するのはもちろんですが、見たいパスを調べるために、新たに尺度を作成するのは、クリエイティブな作業だと感じます。

今はまだ、過去の研究を参照して尺度を活用する段階ですが、いつか、尺度を新たに作るといったクリエイティブな研究にも挑戦してみたいものです。

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