行政としての児相の葛藤(手帳編)

今日は児童相談所の話など。


児童相談所の業務

児童相談所と言えば「虐待→保護」が頭に浮かぶかもしれませんが、その業務は多岐に渡ります。主なものは以下です。
①児童に関する問題について、家庭や学校からの相談に乗る。
②児童及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を行う。
③児童及びその保護者につき、前号の調査又は判定に基づいて必要な指導を行なう。
④児童の一時保護を行う
なるほど、多岐にわたっていますね。

①相談
児童「相談」所なので、もちろん相談していいのです。子育ての悩みや関わり方の相談をされる方も多いです。③と合わせて親御さんや子ども自身への指導や療育のようなことをする場合もあります。

④一時保護
皆さんご存知の一時保護。
虐待されているケースなどでは、危険な親元から一時的に隔離して子どもの安全を確保します。その後、家庭に戻すのか施設や里親への処置となるのかは様々な調査の結果次第です。


療育手帳(愛の手帳)の判定

そして②の「判定」です。
児相では療育手帳(東京都では『愛の手帳』)の判定を行なっています。手帳があると、知的障害のある児が必要なサポートを受けやすくなります。具体的には、公共交通機関や美術館・博物館・レジャー施設の割引、公共料金や税金の減免などが受けられます(度数と自治体によって内容は様々です)。

また、将来的に福祉枠での就労を目指したり、あるいは公立の支援学校高等部(知的)に入学するためにはやはり愛の手帳が必要な場合が多いです(身体や精神の手帳もあるのですが、ここでは割愛)。

その児が手帳の対象に該当するかどうかを判定するのが我々児相に勤める医師の仕事です。児童福祉司や児童心理司さんが調べたこれまでの経過や検査結果をもとに、医師が最終判定をします。

手帳の判定の切り口

概ね検査結果と現在の生活状況に矛盾・違和感がなければ、スムーズに判定が決まります。
問題は、生活が困っているのに検査の数値が低くなかった場合です。
療育手帳は基本的に「知能」の度合いを判定するものであって、生活の困り感を判定するものではありません。なので、ポテンシャルの知能が高いのに、発達の偏りや養育が原因でそれを発揮できず生活が荒れているケースなどは、困っているのにサポートが受けにくいという結果になってしまいます。

僕が病院にいた頃は、こういう理由で非該当になって帰ってくるケースについて、不満を感じていました。
「困ってんねんから手帳出してくれたらええのに…」と。

ただ行政の側の立場になってみて、判定の難しさを感じます。愛の手帳の判定のがシンプルに能力だけを評価する、というルールである以上、それ以外の方法を使うことができないからです。
車で言うと、走れるかどうか、速いかどうかはさておき、エンジンのスペックだけで評価しますということです。

ルールと支援したい気持ちの狭間で

現場で働く方たちと話していると、必ず「出してあげたいけど…」という話になります。ただ、生活が困るから、かわいそうだからという理由で手帳の判定が歪むのはルール違反だし、それをやっていると本当にキリがなくなってしまいます。

そういう方には別の方法でなんらかのサポートを受けてもらえるよう提案はしますが、ケースによってはやはりがっかりして帰られることもあります。
ただ、規模が大きい自治体としては浪花節でルールを曲げることが危ういということもよく分かりました。

児相の現場では、そういう葛藤が渦巻いています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?