見出し画像

【12話】小春麗らか、希(ノゾミ)鬱

第四話 生活

4-1 夏休み



 それからしばらく。



 一学期が終わって、夏休み初日。




 学校が終わったのに、休みになったのにもかかわらず、部活でもないのに学校の屋上に集まっていたのは彼の呼びかけのせいである。神祐希に呼びされた俺達は、暑い暑いと言いながら屋上に集まった。太陽が頂点に達したお昼ごろだったと思う。



「今日は初日からありがとう。みんなにお願いというか、言いたいことがある。夏休み明けの学校祭、一般生徒枠で出場したいと思う。やるのはロックバンド。もちろん俺達四人がメンバーだ。曲は『生活』。シロップの名曲だ。これなら咲、お前に一度教えたことあっただろう? ギターなら俺の余ってる安いやつを貸してやる。もちろんエレキだ。俺もとっておきのエレキを披露してやる。夏休みに練習すれば十分間に合う。あとはベースとドラムだ。しかし、ベースは今からやったんじゃなかなか厳しい。だからベースは無しのギター二本のスリーピースにする。そこで、小春ちゃんか麗ちゃんのどちらかにドラムをお願いしたい」


「ちょ、ちょっと待てよ。いきなり。いきなり……だな。まあ、前々から考えて決めていたのかもしれないけど、俺にはいきなり言い出したように聞こえたから、すまん。でも、俺ギターなんて弾けないぜ?」


「ギターソロとかは俺がやる。コード弾きだけでいいんだ。教えたことのあるやつのはずだ。夏休みいっぱい練習すれば間に合うさ。なに、なんなら、ギターは持ってるだけで、歌だけでも良い。なあ、だから頼む。この通り」



 祐希はそう言って頼み込んだ。頭を下げた。こんなに頼み込む祐希を見るのは、初めてに近かった。俺は戸惑い、小春を見た。小春も困っていた。麗を見た。麗はどうするべきか本当に悩んでいた。仕方ない。俺はそれに対して答えを言うことにした。


「わかったよ、お前も学祭でバンド組むって言う夢に近いものを諦められないんだろ。憧れるような、やりたいような。その気持ちはなんとなくだけどわかるよ。だから、少しならギターをやっても良い。やらないで後悔するのは、もう増やしたくないからな。歌は麗に任せよう。俺はギター弾きながら歌うなんて器用なことはたぶんできないよ。できたら最高にかっこいいだろうけどな。ドラムは小春に任せよう。叩くだけ、あるいはバスドラを蹴るだけのどっちかならできるだろ。難しくドンドンシャラシャラ叩きまくるのは無理だろうからな」


 

 二人に目線を投げる。なんとか頷いてくれる。できるかどうかはともかくとして、なんとか協力してやりたいという気持ちはあると、そう小春と麗は言ってくれた。つまり、やることは決まった。今年の夏は音楽に捧げる。ロックンロールサマーの幕開けだった。



next第十三話↓


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?