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【読書メモ】自発的離職者が出ることが組織に好影響を与えることを明らかにした研究群:『組織論レビューⅢ』(組織学会編)

自発的な離職者が出ることはその組織にとって望ましくない、という言説は、実務家も研究者も共有している感覚と言えます。backfill採用とexit interviewに追われていたHRBP時代のトラウマ(?)のせいか、私も同じです。しかし、本書の第3章では、自発的な離職が在籍元の組織にとってポジティヴな影響を与えることもあるよ!という刺激的で興味深い研究群が紹介されています。昨今のalumni networkの効用とも関連して読めるので、ご関心のある方はぜひ本書を読んでみてください。

まず誤解がないように書いておきますと、離職率が高まると組織目線での成果にネガティヴな影響が出ることは現在でも検証されています。そのため、自発的離職が望ましくリテンションは不要だというわけではないことは、著者も紹介しておられます。

その前提に立った上で、自発的離職は必ずしも組織にとってネガティヴな作用をもたらすだけではなく、ポジティヴな影響も与えているという観点に立った研究群を三つ紹介しています。

①リバース・ナレッジ・フロー

Aさんが、X社を退職してY社に入社するというケースを考えてみます。従来の研究の多くはこの事象を人的資本の観点から捉えて、Aさんの知識・スキルをX社は失い、Y社は獲得するというように解釈されました。もちろん現時点でもこのような捉え方はできますが、社会関係資本の観点から捉えと別の解釈もできますよ、というのが2010年頃からの研究蓄積で明らかになってきています。

古巣の組織に残る既存成員と退出した元成員の間につながりが残っているのだと考えれば、それにより生じる交流を通じて、元成員が移動先で知り得た知識がある程度元組織に流れ込むことがあるのだと解釈することが可能ということである。
P64-65

コンフィデンシャル情報を除いてもやりとりすることで価値のある知識や情報というものは多いものです。社会関係資本から捉えると、離職者が新たに所属する先=新たなネットワークと捉えて知識の還元が起きるリバース・ナレッジ・フローは興味深い現象と言えるのではないでしょうか。

②組織間関係

人と人との関係性だけではなく、組織と組織との関係性が再構築されて所属元にとってもメリットが生じるという研究群もあります。元々は、離職によって既存顧客が他社に奪われてしまうというネガティヴな影響があることが従来の研究では行われ、実務的には競業避止義務などの運用でカバーされてきました。他方で、組織間の協働が促されるというポジティヴな側面にも焦点が当たって研究蓄積がなされてきているという点に着目するべきでしょう。

③同窓ネットワーク(alumni network)

①②は一人の離職者によってもたらされる、個人間あるいは組織間のメリットに焦点を当てたものでした。それに対して、複数の離職者をネットワークとして在籍元組織に組み込むことによる作用を対象としたものが同窓ネットワーク(カタカナ言葉で言えばアルムナイ)です。〇〇出身という共通項があることで、勤務していた時分には知り合いでなかった者同士がつながり、そのつながりが在籍元にネットワークとして還元する効果を保つことが明らかになっています。日本でも元リク(リクルート出身者)などは以前から馴染みがあったのではないでしょうか。

あとがき

自発的離職が組織にポジティヴな影響を与えることは理解できました。ただ、私自身は人事として、離職には敏感にならざるを得ないなぁということも実感としてはあります。…そのようなことを、五回も転職を繰り返してきた人間が書いても説得力ゼロなのでしょうけれども。


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