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魔人、筋トレに励む


……わしはずいぶん、長ーい間、閉じ込められておったのだ!

かつて、この星の上には、魔力があふれておった!

魔力を使い、小さき者どもは生活をしておった!
魔力は、我らが放出しておった!

我らは、小さき者たちから感情をもらい繁栄しておった!

特に!!

人という小さき生き物の欲望は甘美であった!
人という小さき生き物の欲望はたいそう腹が膨れた!

欲望は尽きぬものであった!
欲望は潤沢であった!

我ら一族は栄えたのだ!!

しかし!!

うまくいっておったのは、ほんの僅かばかりの期間であった!

小さき者どもは、魔力を使いこなしておった!
小さき者どもは、魔力を独占し始めたのだ!
小さき者どもは、魔力を欲して争うようになったのである!

魔力の需要と供給の均衡が、崩れたのである!!
魔力を溜め込み、威力のある魔法を使うものが独占を始めたのである!

我ら一族は、小さき者どもの感情を得ることが難しくなったのである!

小さき者どもの、小さき願いをかなえて日々得ていた、感情を得られなくなったのだ!

我らは!

小さき願いを多くの小さき者が欲してくれなければ、繁栄し続けることは不可能であった!

大きな願いをごくわずかな小さな者が欲したところで!
満たされるのはごく一部のわが一族なのである!

我らは集まり、話し合いを重ねたのだ!

―――魔力を欲する小さき者たちの中の、特にか弱きもの達のもとにのみ、我らが現れてはどうか。

か弱きもの達に魔力を分け与えていると、独占を願うものたちが現れ根こそぎ奪っていくのである!

―――魔力を独り占めする小さき者を、消し去ってはどうか。

消し去ったところで、次から次へと独占するものが現れるのである!

―――魔力を独り占めするものがいなくなるまで隠れてはどうか。

隠れるは良いが、隠れている間の糧はどうするのか!

―――では、魔力供給をやめれば良い。

魔力を放出するから我らは飢えるのだ、放出をやめれば飢えることなく存在できよう!

我らは、小さき者どもに魔力を与えることをやめる決断を下したのだ!

我らは、この世界に人ありきの存在として繁栄しておった!
我らは、人の感情を食らうものとして存在しておったのだ!
我らは、感情を食らうことで魔力を生み出し小さき者どもに与えておったのだ!

我らは、魔力を生み出すから、感情に飢えておったのだ!

我らは!

魔力を生み出さなければ飢えることはない!

我らは!

魔力をこの世界からすべて回収し!

我らは!

魔力を独占する小さき者どもが消えるのを待てばよい!

わが一族は、話し合いの結果、この世界から魔力をすべて回収することを決定したのである!

我らが小さき者から感情を得て、この世界に放出しておった魔力!
ふわりふわりと漂う、大自然が放出しておった魔力!

それらをすべて回収し、小さき器に詰め込んでいったのだ!

魔力はほぼ我ら一族が放出したものである!
魔力で満たされた器の中に留まっておれば、飢えることはない!

世界中から魔力を集め、すべて小さき器に詰め終わったとき、小さき者どもはずいぶん慌てたのである!

今まで使っておった魔法が、一切使えなくなったのだから、それも当然なのである!
世界中そこらかしこに漂っておった魔力が、一切消えてしまったのだから、それも当然なのである!

膨大に魔力を溜め込んでおった一部の小さき者以外、魔法を使えなくなってしまったのである!

我らは、その様子を見て、小さき者どもが変わることを信じておったのだ!

一部の者が独占するために魔力はあるのではないと!
すべての小さき者たちが使うために魔力はあるのだと!
独占するときではない、分け合うときがきたのだと!

我らは、かつて魔力貯まりのあった場所の、今はもう砂しか広がっておらぬ場所の洞窟奥深くで!

小さき者どもが変わると信じ、一族のほとんどが眠りについたのだ!!!

しかし!!!

小さき者は、おどろくべき手段に出たのだ!

魔力を生み出した我らを、我らが生み出した魔力で消滅させようと目論んだのである!
我らを消滅させ、魔力のみを奪い、人には余る力を手に入れようと目論んだのである!

いつの間にやら我らの与えた魔力を溜め込んでおった小さき者が、我らを追い込んで来るとは!!!

小さき器の中で、目を覚ますことなく消滅して逝く我が一族!
小さき器の中で、寝ぼけ眼で小さき者に立ち向かう我が一族!

我が一族は、道を誤ったのだ!

魔力を根こそぎ集めてはいけなかったのだ!
小さき器の中に留まるべきではなかったのだ!
未熟で弱きものの力を見縊っておったのだ!

管理者も置かず、一斉に眠りにつくなど、愚かな事であったのだ!

人は我ら一族を根こそぎ消滅させ、膨大な魔力をその身に宿した!

わしは…眠りにつく事を最後まで反対した一人であった。

まだ、完全には、眠っていなかったのである。

騒がしい様子に、小さき器から飛び出して、わしが見たものは。

膨大な魔力を小さき体に無理やり詰め込み、人の肉体が崩壊してゆく様であった。

魔力はもともと、人の感情からできておる。

願い、思い、怒り、恨み、欲、嫉妬…複雑な、小さき者のみが持つ、心の揺らぎ。

小さき者の歴史上すべての感情が、この世界の魔力すべて。

たった一人の肉体に、人という種のすべての感情が受け入れることなど、土台無理だったのだ。

崩壊し、肉のかけらひとつも残さず消滅した小さき者は、膨大な欲望を残した。

わしは、その欲望を、自らの眠ろうとしていたランプの中に押し込んだ。

我が一族は、わし以外すべて消滅してしまった。

わしは、どうするべきなのかと考えた。

世界に出て、たった一人で魔力を放出する?
世界に出て、たった一人の魔力を放出する存在が、無事に過ごせるのか?

魔法の溢れていた世界から魔法が消え、小さき者どもは混乱しておる。

混乱の世界に、たった一人で乗り込んでいく勇気は、わしにはなかったのだ。

わしは、篭城することにしたのだ。

世界が落ち着くまで。

世界が変わるまで。

わしが出たいと思える世界になるまで。

ランプの中に、蓄えはある。

魔法があった時代のすべての人の感情をランプに詰め込んだのだ、しばらくは飢えることもないだろう。

毎日たらふく喰らっておった弱きものの欲望を、一日二回の糧とした。

…一日二回の糧の時間を、一日一度とした。

……食らう量を減らした。

欲望を相当溜め込んでいたわしは、なんとか存在をつないでおったのだ。

いつか欲に塗れた愚かな人間が、わしのランプを見つけ出し。

わしにこってりとした欲望を食わせてくれることを…どこかで信じて待っておった。

その日が来るまで、ひもじく存在をつなごうと。

しかし。

いよいよ蓄えが尽きてしまった。

…もう、どうにもならんと、覚悟を決めた。
…もう、どうにもならんと、思っておった。

食らう欲望は、渇いた洞窟の奥深くには、微塵も見当たらない。

はちきれんばかりの筋肉を携えた我が身は、いつしかひょろひょろのガリガリになっておった。

これでは、もう、ランプの外に出たところで…歩くこともままならないだろう。

もう、箸すら、持てんわと、ふたの閉まったランプの天井を、ぼんやり見つめておった。

もう、わしは、消滅するのだと、ぼんやりしておった。

我が一族も、これで。

…目を閉じようとした、その時。

「やあやあ、ずいぶん貧弱になっちゃいましたね。」

「むむ、おぬしは…昔すれ違ったオヤジではないか…。」

かつて我が一族が星の上にある魔力を集めた時、それを止めようとした、一族の敵ともいえる存在が、わしのもとにやってきたのである。

「ふん…わしはもともと魔力を枯渇させてまで強行する意見には反対だったのだ…あの時言ったであろう。」

「そうですね、でもまさか一番の反対をしていたあなたが生きながらえるとは、皮肉なもんですね。」

そうだ。

わしは…反対したのだ、最後まで。

星に存在する魔力を、根こそぎ我が一族が占有するなど許されぬことではないのかと。
この世界の魔力は、我が一族が生み出した魔力だけではないのだと。
自然の中にある、小さな木々や花達が放出したほのかな魔力さえも、我らが奪って良いのかと。

命に限りのある小さき者のそばにいるために、魔力を残しておくべきではないのかと。
命に限りのある小さき者がいるからこそ、命という制限を持たぬ我らが側にいるべきなのではないかと。

わしの訴えは、我が一族には受け入れてもらえず。

命を持たぬ我が一族は、命という限りのある小さき者に…存在を消滅させられてしまった。

ただ一人、魔力収集に反対したわしは、我が一族の…鼻つまみ者であった。
ただ一人、聞き入れられない己の意見を持て余し、不貞腐れていたわしであった。

ただ一人、絨毯の上でくさくさしながらふわりふわりと宙に漂っておった時、このオヤジとすれ違ったのだ。

―――やあやあ、結局魔力、回収するんですってね!!
――わしは反対しておる!!

―――何でまた反対を?
――わしはただ…小さき者と、共にいたいと思っておるのだ。

そう。

たとえば、空を飛びたいと願った少女の、あの喜びの感情。

そう。

たとえば、父ちゃんの病気を治してと願った少年の、あの感謝の感情。

そう。

たとえば、孫の無事の出産を願った老婆の、あの涙。

そう、たとえば。

そう、たとえば。

…わしは、おそらく。

我が一族の中では、悪食だったのだ。

欲望が一番の極上とされる中、ほのかな幸せを漂わせる感情が一番うまいと、思っておったのだ。

日常の中にある、喜びを、食らいたいと。
日常の中にある、喜びを生み出すために、魔力を生み出したいと。

だからこそ、魔力を集めることを止めようとしたこのオヤジに協力をした。

だから、わしは、我が一族から嫌悪の目を向けられることになったのだ。

わしとオヤジの画策は、結局一族の動向を変えることはできなかった。

―――あなた、変わってますね。
――ふん!お前こそ!!

あの時の邂逅。

わしはその瞬間があったからこそ、自らの欲するものを知ることができたのだ。

「ねえ、あなた…世界はずいぶん変わったんです、どうです、一緒に世界に出ませんか。」

「こんなひょろっこい体で…世界に出ることができるとでも?」

わしはもう、枯れ枝のような腕と足を…動かすことすら。

「人だったら、その体でも充分生きていけます。…どうです、消滅する前に、世界を見ていきません?」

この細い体で、小さき者は日々を生きているというのか。

「ここに、人の食べ物があります。これを食べ続けたら、いずれあなたは人になることができます。」

「人に?…そんな馬鹿な、わしは魔人で、魔法を生み出せる唯一の存在で…。」

わしは、人になれるというのか?

あの、甘美な感情をそっと差し出す、素朴で小さな存在に。

「大丈夫ですよ、あなただってもともとはこの星の住人なんですから。人と同じものを食べていればいずれ人と同じ体を持ちます。」

オヤジは、わしに何かを差し出した。

…独特のにおいがする、これは、少し…喜びの感情と同じ甘さを感じるが。

「どうです、あなた、人になったら。それともなんです、一族を滅ぼした憎き人になど、なるつもりはないとでも?」

「憎いとは、…思っておらん。」

むしろ。

わしは。

小さき者が。

…ひとが。

…とても、愛おしいと。

「わたしも力になりますよ…少しばかり、お手伝いはしてもらいたいんですけどね。」

このオヤジは、世界の管理人。

嘘偽りのない、返すべきものを正しく返す、世界の秩序を管理する存在。

わしがこのほのかに甘い何かを口にした後は、それを返すことになり、世界の秩序に関わるようになるはず。

我が一族の、最後の一人であるわしが、世界の秩序に関わろうと、している。

何もせずに、消えてしまうのは、時間の問題だ。

…このまま、消えるのか。
…それとも、人の横に並ぶのか。

わしは、どう、したい…?

わしは。

消滅する前に。

わしが欲したものを。

…手に入れたいと、願ったのだ。

わしが、初めて口にした、人の食べ物は。

それは、それは素朴で。

それは、それは美味い物で。

人の食べ物を食らうたびに、人の肉がこの身に宿る。
人の食べ物を食らうたびに、人の心がこの身に宿る。

人の食べ物を食らうたびに、我が身は人となってゆく。

「ずいぶん人になりましたね、どうです、魔力放出、まだしてます?」

「いや、もうほとんどでないな。たまにふわりと漂うが、もう自然の放出と変わらないな!!!」

この世界にほのかに漂う、星の恵み。

草木、空、光、闇、水、火、雷、土、磁力、重力、時の流れ。

微量ながら、この世界に漂う魔力は、生きるものを取り囲む環境の中から放出されている。

人は、この微量な魔力に気が付かぬまま、平穏な毎日を過ごしている。

かつて、魔法がなければ生活ができないほど、魔力に頼り切っていた日々があったのが信じられない。

膨大な魔力などなくとも、人はこんなにも生き生きと暮らしているではないか。
膨大な魔力などなくとも、人はこんなにも平和に暮らしているではないか。
膨大な魔力などなくとも、人はこんなにも争っているではないか。

3000年の孤独を乗り越え、いま、小さき者たちの世界になじんだ…私は。

「どうだ!もうそろそろ、人の命を得られそうかな!!!」

「そうですね、もう良いんじゃないですか。」

親父のチェックを受けて、人間として、この世界を生きていくことになった。

魔人という、世界における必要不可欠な機構であった私は存在そのものであり、命を持たなかった。

命がないから、魂を持てなかった、私。

「魂もちゃんと固まってますね、これならもう人と言って良いでしょう。寿命もあるし、輪廻に混じることもできそうですね。」

「そうか!!」

魂を得た私は、人の世を楽しむことに邁進した。

オヤジの紹介で警備会社に就職した。

訳ありの存在が多く働くこの会社で、さまざまな立場の、さまざまな事情を知った。

人と人の付き合いの中で、自らの立場をわきまえることを学んだ。

いつしか、…僕は、ずいぶんおとなしい人間になっていた。

誰かに寄り添うことで安息を得ていた。
誰かと共に笑うことで幸せを感じていた。

優しい人間として、僕は生きていこうと心に決めた。

あるとき、たまたま見ていたテレビで…かつての我が一族の姿を、見た。

筋骨隆々の、その姿に、我が一族を思い浮かべた。

「あの、この人たちは一体?」

「ああ、ボディビル大会だね。筋トレして鍛えたら、安藤君もあんなふうになれるよ!」

かつて僕は……、あんな体を、していた。
今は、人として普通の…痩せ型体形をしているけれど。

人になった今でも、あのかつての姿を持てるというのであれば。

僕は、筋トレを始めた。

筋トレに詳しい職場の仲間から色々と助言をもらい、自己流でトレーニングを重ねる。

「プロテイン飲んだら筋肉の育つスピードが違うんだよ!!」
「プロテイン?」

僕はプロテインを求め、アパート近くの量販店に向かった。

「何かお探しですか?」
「プロテインを初めて買おうと思って。」

スポーツコーナーで、やけにはつらつとした女性に声をかけられた。

プロテインの知識を持つこの女性は、僕に飲み方だけでなく、トレーニングの基礎も教えてくれた。

「私、近所にあるジムに通ってるんです!よかったら、のぞきに来ません?」
「いいんですか?」

人と人の出会いというのは、実に不思議なものだと思った。

何の気なしに訪れた量販店のスタッフの女性は、僕の彼女になったのだ。

共に体を鍛え、重量感を増してゆく日々が続いた。

「あれ、ずいぶんりりしくなりましたね、どうしたんです。」
「ああ、我が一族の誇りを、少しだけ思い出した感じかな!!…人の限界まで、鍛えてみたくなったんです!」

体重が10キロばかり増えたあたりで、オヤジが僕の変化に気が付いた。

「人の体は、なかなか大きくならないでしょう、よくそこまでがんばりましたねえ…。」
「なにをいう!日々の積み重ねが、こんなにも筋肉を成長させ!!今も育っているんだ!まだまだがんばるぞぅ!!」

努力が目に見えてくる充実感は!
僕のテンションを大いに上げてくれたのだ!!

「ポンちゃん!!プロテインおかわり!うーん、ぐびぐび!!!」
「私も飲もう!みかん味のプロテイン、うまうま!ぐびぐび!!」

毎日が楽しくてたまらない!!
毎日が愉快でたまらない!
毎日が充実している!

僕は今、人間を心から楽しんでいる!!!

「やあやあ、これまたずいぶん大きくなりましたね!!一般人レベルでそこまで行くのってなかなかないですよ!!」
「そうかい?まだまだひよっこだと思うんだが!!もっと大きくなる予定さ!!!」

オヤジが久々に尋ねてきたので、プロテインを差し出しながら談笑をする。

「はは、そのプロテインはご自分でお飲み下さい、私は基本…あまりものを食べませんのでね。」
「ああ、そうだったね!思惑が入ってると駄目だったんでしたね!!!」

管理人も色々と大変そうだ!!

「ところで、私の知人で…体を鍛えたいと願ってる人がいましてね。良かったらあなたの筋トレに混ぜてあげてもらえないかなって思って伺ったんですよ。」
「ナニ!!筋肉ラバーか!!もちろん対面させていただこう!!!」

筋肉を愛するものが、筋肉を欲しているというのであれば!!
筋肉を育てたいと願うもの同志!!共に寄り添わねばなるまい!!!

「やあやあ!!おはようございます!!この前言っていた知人、連れてきましたよ!!」
「どうも!!ハジメマッスル!!いい筋肉、つけてますか!!プロテイン、飲んでマスかっ!!」

「ぷ、プロテイン?飲んだことないな、飲んでみたいとは思ってるけど…。」

やけにひょろっとした…かつての自分を思わせるフォルムの男性と対面した!!!

あまり顔色がよくないな…これはプロテインに鉄分にHMB、BCAA、EAA、マルチビタミンにタウリンも必要か!!グルタミンとクエン酸もいるな!!

「アナタ鍛えたいって言ってたでしょう、彼ね、筋肉について並外れた知識と愛情を持ってましてね!いい筋肉つけてくれると思いますよ!どうです、いい人紹介したでしょう、私!!」
「いやあ!!僕ね!しばらくあんまり運動できない日々が長く続いててね!!すっかり筋肉なまっちゃっててね!君が一緒に筋肉鍛えてくれるって聞いてね!!ぶしつけだが、参上させてもらったんだよ!!ハッハッハッ!!!」

僕はね!!いつかは魔人時代の肉体を手に入れようと思っているのさ!!!

「長いこと密閉空間でくすぶってたんですよ、気の毒な人なんです、この人。」
「僕体弱くて。鍛えたいなって思ってたんでちょうどいいや。ウォーキングしながら色々とレクチャーして下さいよ。」

なんと!!筋肉造りを、この僕に依頼しようというのか!!

地味に…頼られて、うれしいぞ!!!

「りょおおおかいしたあああああ!!!」

かくして始まった、筋トレ仲間との日々。

嫁を巻き込み、吉住君の彼女を巻き込み。

いつしか家族ぐるみで幸せを共有するようになり!

…結局僕は、魔人時代の体を手に入れることはできなかったけれど。

ずいぶん、ずいぶん満足して・・・人として、命を終えることができた。

ずいぶん、ずいぶん、満足して、僕は今から生まれ変わろうとしている。

人になって約60年。

ははは!

3000年の孤独が長かったからね。

人の人生はずいぶん短く感じたよ。

これから何度も何度も生まれ変わって、僕は魂を磨き上げてゆくのだな。

いつかは、魔人時代のような体を作り上げることもできるんじゃないのかな!!!

ああ、先にこっちにきていた愛する妻がいるぞ。

生まれ変わる前に、一言お礼だけ言ってこよう。

…また、出会えたらいいな。
…また出会っていいか、お願いしてみようか。

僕はわくわくしながら・・・雲の向こうへと、消えた。


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※こちら吉住君のお話が前々日に、オヤジのお話が前日に公開されております。合わせてお楽しみいただけたら幸いでございます。

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