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制作日誌①:毛の生えた坊主

ここでは本作の監督がつづった制作日誌を全7回にわたって掲載します。
本作のご鑑賞と併せて、是非ご一読ください!

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大学3年の夏休みが終わった。日本映画大学のドキュメンタリーコースに在籍している僕は、来年の卒業制作の企画を考えねばならなかった。企画提出は強制でもなかったが、どうしても在学中に1本、監督と名乗った作品を残したかった。

そんな折に、ある記事を読んだ。糸井重里さんと中沢新一さん、そして本木雅弘さんの対談。映画「おくりびと」が公開された頃の記事なのだが、その中で「毛坊主」について言及していた。      

毛坊主とは髪を剃らず、妻帯して普段は農業などをしながら葬儀などで僧侶の役をつとめた者。浄土真宗の盛んな農村地域にあったもので、出生からお棺まで、村に起こる生死の一切を取り仕切っている……この共同体の生と死を一人で背負う存在に興味が湧いた。ぼんやりとではあるが、僕は企画のテーマを決めた。

毛坊主についてあれこれ調べる中で、ふと考えたことがある。どうもドキュメンタリーは「肩書き」がある人間でないと出演者に選ばれないことが多いらしい。元軍人、障害者、在日韓国人、妻がフィリピーナ、そして毛坊主。もちろん、ドキュメンタリーは実在の人を撮るため、どこにでもある肩書きじゃあ探しようがない。しかし、この肩書きありきで「ネタ」を探すことに対して、僕は少し辟易していた。特別な肩書のない、もっと普通な人が出演してもいいのではと思った。出会いに恵まれて、そんな普通の人たちをテーマに作品が撮れたら……と調べるのに飽きたら妄想していた。

妄想を抑えながらリサーチを続け、図書館にも通ったが、目ぼしい情報がなかなか見つからない。結局ネットに頼ることになった。雰囲気が出ないが仕方ない。不確かな情報をかき集め、どうにか毛坊主がいると思われる場所を突き止めた。

そして、僕は毛坊主に会うために熊本へ向かった。

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