023-僕のオネスティ

023 川上進一郎「僕のオネスティ」(1986年)

作詞:神沢礼江 作曲:川上進一郎 編曲:星勝

ジャケットからも分かる通り、アニソンです。尤も、この頃はまだアニソンなんて言葉はありませんでしたが。

萩尾望都の「11人いる!」は、名作SF漫画として名高い作品ですが、そのアニメ版の主題歌となったのがこの曲。アニメを見ている人なら、エンディングで流れるこの曲の柔らかなヴォーカルとスピリチュアルなムードに、ハッピーエンディングを感じたことでしょう。

ところで、このヴォーカルは女性が歌っていると思っている人はいませんか。歌っているのは川上進一郎。れっきとした男性です。

この川上進一郎、なかなか謎の人物で、本人のレコードはシングル盤が3枚のみ(シングルと同一音源収録のサントラあり)。楽曲提供しているものを含めても、20曲程度しか確認できません。恐らく公になっている写真の類もなし。札幌時代には、堀江淳や横山輝一らと同じような環境で活動していたらしく、そのことから1960年前後の生まれではないかと想像します。実は下積みのキャリアは長く(この曲のアレンジをしている星勝さん周辺で活動していたという話もあり)その音楽性には確固たる個性があります。

まず、ヴォーカルです。先にも書いた通り、第一印象はまるっきり女性の声。おそらくファルセットで歌っているのだと思いますが、通常のファルセットがキンキンした硬い声になりがちなのに対して、非常に柔らかい発声をします。唯一、お行の子音に男性っぽさを感じるのですが、普通の人はそんなところまで注意して聴かないでしょう。実は高校時代から既にこの歌い方だったようです。

もう1つは作曲です。ふわふわとした美しいメロディはとても映像的で、初期のケイト・ブッシュを日本的にした感じと言えばいいでしょうか。ファンタジーが似合いそうな世界観は、もちろんアニメとの相性もよさそうです。女優の浅野愛子に提供した「銀の妖精」と「秘密の樹液とフェアリィ・チャイルド」の2曲は、その最たるものと言えるでしょう。

この「僕のオネスティ」はデビュー曲てすが、すでにそういった個性は全開。メジャーキーに乗せて、透明感と浮遊感、そしてあの声で歌われると、なんとも言えない幸福感に包まれます。アニソンの枠で片付けたくない名曲です。

どうやら、オリジナルアルバムの発売が予定されていたようで、もしかしたら録音済みの音源が残っているのではないかと、淡い期待を抱いているのですが、ちょっと探り入れてみようかな。


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