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なぜ経営者の隣に「編集者」がいるといいのか?

僕は2020年から「顧問編集者」という仕事をしています。これは経営者の思考を言語化して社内外に伝える仕事です。

この仕事についてForbesさんに記事にまとめていただいたのですが(本当にありがとうございます!)「もっと知りたい」という声もいただいたので、今日はもう少し詳しく書いてみたいと思います。

「顧問編集者」を始めたきっかけ

僕はもともと書籍の編集者でした。

前職のダイヤモンド社では『佐藤可士和の打ち合わせ』『週刊文春編集長の仕事術』『福岡市を経営する』など、主にビジネス書を作ってきました。

2018年に出版社を辞め、1年ほどは書籍のフリー編集者をやっていました。運のいいことに『メモの魔力』や『リーダーの仮面』などのヒット作にも携わることができました。

そんななか、ある経営者から「Webサービスをローンチするとき自分の思いをnoteに書きたいのだけど時間がなくて困ってる。ちょっと手伝ってもらえないか?」という相談がありました。

僕は書籍を編集するときと同じように、その経営者の背景を調べ、質問を投げかけ、出てきた言葉を読者が興味を持てるように編んで1本のnoteにまとめました。そして、いざそれを発信してみると3000を超える「スキ」がついて大きな反響があったんです。

そのときに「ああ、ビジネスの世界でも、こういう編集の力って求められているんだな……」と気づいたんです。経営者の隣に「編集者」がいることで、けっこう価値が出せるんじゃないか。

そう思って始めたのが「顧問編集者」という仕事でした。

その後も「社史をまとめておきたい」とか「ビジョンを伝えたい」「新しいサービスを知ってもらいたい」といった声がかかりました。僕は取材をして、言葉を整理し、多くの人に伝わるようコンテンツにしていきました。するとみんなによろこんでもらえたんです。

企業側の「伝えたい!」と読者の「読みたい!」を同時に叶える。

編集者の技術がビジネスでも役に立つことがわかって、それはだんだん確信に変わっていきました。

「編集者」が求められるようになった背景

なぜビジネスの場面で「編集者」が必要とされるようになってきたのか?

それはSNSやnoteなどが普及してきたからかなと思います。

企業や経営者は、これまでのように既存のメディアの力を借りなくても自らSNSやnoteなどで発信できるようになりました。でもそのときにコンテンツを企画・編集するリソースが足りていないのです。

企業や経営者が発信することの必要性は高まっています。

それはリモートや副業が増えていることが関係しているように思います。

物理的に出社することが減った。おまけに副業する人が増えた。すると会社へのコミットメントはどうしても減ります。だから、どんどん発信をして「会社への求心力」を取り戻したいという背景があるのではないか。

物理的な出社は嫌でも会社への重力が働きます。でも「リモートOK」「副業もOK」という感じになってくると「そもそもなんでこの会社で働いてるんだっけ?」という疑問が出てくる。

そこで、もう一回きちんと旗を立てて「こっちへ行くんだよ」と示したい。ビジョンのもとに人が集まるようにしたい。そういう需要が増えてきているのを感じています。

数字だけの「ビジョン」で人が動かなくなった

10年前であれば「うちは来年10億を目指します!」「次は100億です!」というように金額を提示するだけでも人はついてきたかもしれません。「儲けますよ!」「儲かりますよ!」って言うだけで人は集まった。

でもおそらくここ数年でみんな「待てよ」と思い始めたんです。

「売上を伸ばしてどこに行くんだっけ?」「そもそも僕らって何をしてるんだっけ?」「何を目指してるんだっけ?」と思い始めた。ちまたでは「パーパス経営」みたいに言われ始めていますが「何のために働いてるのか」に迷いが出始めた。そこできちんと理念を言葉にする必要が出てきました。

これまで会社の目的や理念は「暗黙の了解」でなんとかなっていました。でも最近はそこをちゃんと言語化して、きちんと浸透させる必要性が出てきた。そうじゃないと社員も、投資家も、お客さんも集まらない。

だから言語化と発信が急に重要視され始めたような気がしています。

なぜ「外部」の編集者が必要なのか?

編集者が「社外」にいることにも意味があります。

ポイントは「客観性」です。

経営者本人や社内の人たちは、どうしても「自社」が一人称になりがちです。つねに会社の中にいて企業側からの景色をずっと見ているからです。

主観が強すぎると「自意識過剰」にもなりがちです。「こんなことまで言っていいのかな?」「これを言うと波風立たないかな?」ということにすごくセンシティブになる。慎重になる。

これは別に悪いことではないのですが、ただグーッとカメラを引いていくと見え方はぜんぜん変わります。

世の中全体のコンテンツ、情報量からすると、ひとつの会社の発信というのはめちゃくちゃ小さいわけです。世の中には無数に企業があるだけでなく、ネットフリックスなどを含めてめちゃくちゃコンテンツがある。そういう状況で「読者はなぜその企業の情報を読まなければいけないのか?」を考えなければいけません。

主観が強すぎると「どれくらいその情報が伝わっているのか」「どれくらいの影響力が出せるのか」が見えなくなりがちです。

そこに客観性を備えている編集者の出番があります。

また、普通に考えて自分のことは自分ではよくわかりません。

僕もそうです。こうしてnoteを書いていますが「何をどこまで書けばいいのか?」といったことはわからない。手探りです。「ここまで書いていいのかな?」「こう書くと誰かが怒るかな」とかすごく気にしちゃう。

そこで客観性のある編集者がいれば「まわりからはこう見えていますよ」と指摘してもらえます。

コンテンツの中身についても「その話ってけっこう言われてることだから、そんなに届かないかもしれないです。それよりは、このあいだ言ってたあの話のほうが面白いですよ」などと言ってもらえます。

社外の人間だと「利害関係がない」というのもプラスに働きます。

たとえば経営者に進言するのは社内だとやっぱり遠慮してしまう部分もあるでしょう。「そのアイコン微妙ですよ」とか「あのツイート、リスクありますよ」といったことは言いにくい。でも社外の編集者であれば、比較的そのあたりもクリアに見えていたりします。

あくまで「読者はこう思うはずです」「お客さんはこう考えますよ」と指摘する。これは外部にいる編集者の強みかもしれません。

顧問編集者が普及したらどうなるか

「顧問編集者がどんどん増えていったらどうなるんだろう? 企業のコンテンツだらけになって効果が薄れるんじゃないか……?」

そんな妄想をしたことがあります。顧問編集者がめっちゃ増えて、コンテンツが飽和状態になったらヤバいことになるんじゃないか、と。

でもその先はけっこういい未来なんじゃないかなと思ってたりもします。

顧問編集者が増えて企業のコンテンツだらけになったら「発信するコンテンツ」では差がつかなくなります。するとどうなるかというと、おそらく企業はよりいい活動をしたり、画期的な商品を開発したりするようになるんじゃないか、と思うんです。

つまり「本質的な部分」により注力するようになる。

企業をよくする。商品をよくする。サービスをよくする。社会的インパクトを大きくする。環境にいいことをする。そっちにベクトルが向かうようになって、結果的に世の中がよくなるんじゃないか。

今は「そもそも伝わってない」という課題があるから、広告にお金をかけます。多くの人の目に触れさせようとします。じゃんじゃんお金をつぎ込んだところの知名度が上がっていきます。極端な話、社名を連呼するだけでも知名度は上がります。お金さえあれば知名度も上がるし、広告が出せて影響が出る。

それが悪いわけではないけれど、それが理想の姿なのかなとも思うんです。

それよりは企業の思いや経営者の考えていること、ビジョンやパーパスを適切に言葉にして、煽ることなくコンテンツにして、素直に伝えることができれば……。それがあらゆる企業に行き渡ったら……。

今度は一周回って、企業活動や商品、サービスによって競争が生まれるようになるんじゃないか。そのほうがいい世界になりそうだなと思うんです。

即効性はないかもしれない。それでも……

コンテンツで伝える方法は、派手な広告に比べれば即効性はないのかもしれません。やれば目に見えて効果が現れる、というものではない。

でもコンテンツをずっと発信し続けていると、社名や経営者の名前で検索したときに、自分たちが語ってるビジョンとか事業内容とかがダーッと出てくるようになります。これはけっこう価値のあることなんじゃないかなと思うわけです。

別にGoogleにお金を払わずとも、ちゃんとオーガニックに読まれているコンテンツが上の方に来る。これはブランディングとしてもすごく健全なことだと思います。

採用の場面でも効果を発揮します。

採用候補者が会社名や社長の名前で検索したときに、変な情報が出てくるのではなく、社長自身が熱く語っているnoteが出てきたら信頼度は高まるでしょう。おまけにそこにいいコメントがついていたり、社員がそれを引用して盛り上がっていたら「ああ、この会社はビジョンがあって、それに共感した社員が集まってるんだな」ということが伝わります。

先日ある経営者に言われたのが「投資家の人もけっこう見てるんですよ」という言葉でした。

投資家は「事業をこれからどうしていくか?」とか「売上がどうか?」も見るのですが「この経営者はどういう人間か」をすごく見ているらしいのです。この社長はちゃんとやっていけるのか? この人は変なことをしてないのか? みたいに「人」を見られる。そのときにきちっとしたSNSやnoteがあると「あっ、ちゃんとした人なんだな」とわかるはずです。

いま、読者の人、特にSNSの利用者は、嘘をめっちゃ見抜きます。「本当っぽい嘘」とか「ただの綺麗ごと」も嫌われる。そういう時代だからこそ、素直に経営者の本音がわかるような発信に効果があると思うんです。人間性を出していく。これが今後の企業活動においてもすごく重要になってくるのではないかと思います。

どんな会社にも創業のときの熱い思いがあるはずです。そこを伝えてほしいんです。「この事業はいい事業です」ではなくて「実はこんなことに困ってる人がいて、こういうサービスをやったらすごく喜んでもらえたから、事業化しました」といったエピソードを伝えてほしい。

個人のピュアな思いには、力があります。個人の顔が見える発信をすると、そこに熱がこもります。すると読者に「これって本当なんだな」「本気だな」と伝わり、結果として企業活動もうまくいくと思うのです。

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