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住宅営業についてのメモ【1】|「営業力」と「住宅の質」のあいだ

一生に一度か二度の買い物である「住宅」。高額ゆえに多くの人がウン十年という返済期間のローンを組んで、文字通り「命がけ」での購入となります。しかも、住宅を新築あるいは建替えするともなれば、家電や自動車のように実物をあらかじめ確認して契約・着工するわけにはいきません。

建てる場所や要望、法的条件などによって建てられる住宅は異なるゆえに、住宅会社は「ちゃんと住宅を完成させます!」、施主であるお客さまは「ちゃんとお金を支払いますヨ」とお互いに約束する。いわゆる「請負契約」を結んで前に進み出すのです。

そんな特殊な買い物を扱うのが「住宅営業」という仕事。そんな仕事にたずさわる機会を得て、いくつかお客さまの家づくりのお手伝いしました。というか、お手伝いするはずが、こちらのほうがお世話になったのですが。

木造住宅メーカーの営業社員として働く過程では、大学で学んだ「住宅」と、目の前でできていく「住宅」にはいろいろと違いがあることもわかってきました。

そして、その違いの根っこを掘っていくと、どうやら住宅産業自体の成り立ちやら、木造住宅という造りが持っている出自や性格につながっていることが分かってきて・・・。

以下、そんな「住宅営業」という額縁を通して考えた「住宅」について、とりとめもなく書いてみようかと思います。

尊敬する二人の住宅営業マン

木造住宅メーカーの営業マンとして働く営業主任Fさんは支店のトップセールス。コンスタントに契約を獲ってくるだけでなく、決算月になると複数受注をキメてくる強者です。

競合他社を蹴散らしてお客さまの信頼を得るその折衝スタイルは、高い営業力あってこそ。契約してくれたお客さまから、住宅新築を計画する友人・親戚を紹介してもらうこともしばしば。

また、先輩のOさんも、Fさんとは違ったキャラクターながら、安定した契約実績を誇る営業マンでした。温厚な性格から、あだ名は「仏のO」。そんなOさんのお客さまは、決まってOさんと同じく仏のような家族。折衝当初から他社競合なしでジックリ検討を進めるパターンがほとんどでした。

スタイルの異なるふたりの住宅営業マンですが、それぞれにお客さまの思いや不安を汲み取って解決し、お客さまの信頼を得る提案ができたからこそ、契約実績につながっています。それは二人の高い営業力を証明しています。

ただし、二人の住宅提案はヒドイ

そんなFさん、Oさんですが、二人に共通するのは高い営業力だけではありません。二人とも、提案し、そしてできあがる住宅は意匠的にも計画的にも構法的にもヒドイのです。

たとえば、Fさんは和室に床の間・押入れ・天袋・違い棚・地袋が欲しいという要望を受け、2間幅の壁面に1間の押入れを設け、さらに3尺の床の間をとり、さらに3尺幅に天袋・違い棚・地袋を押し込めたりします。

「それ、プロポーションどうなんです!?」と聞くと、それが要望なんだからいいのだという応え。お客さまの要望だから仕方ない、という着地点はこの業界ではよくあります。嫌われたら競合他社にとられるのでご機嫌をとる道を選ぶのが常だったり。

お客様は「こういう家をつくりたい」と言うのですが、家をつくられた経験はみなさん一回か二回しかない。しかし、お金を出す人がそういう家をつくりたいと言うのであればつくってしまおう・・・・・・というようなケースも多いのです。このように、お客様の経験不足のためできてから不都合なことも多いのです。
(三澤千代治『「住まい」へのまなざし』での発言、2000)

Oさんも要望に沿って間取りをつくり、外観デザインは完全に「こんなん出ましたけど~」的にカッコ悪い感じに仕上がる。でも、お客さまはそれでヨシとするから図面決定するわけだし、着工もする。お客さまのニーズにはちゃんと応えているわけです。

実はFさんもOさんも共に建築を学んだことはなく、中途採用ながら前職も住宅とは関係のない仕事を経てこの仕事に就いています。また、二人とも実は住宅、そして住生活自体にもそんなに興味・関心は持っていないようなのです。

住宅ができていく仕組み

会社によって異なりますが、勤務する木造住宅メーカーでは、原則として営業担当がお客さまの要望をもとにプランニング(というか間取り作成)を行います。

多くが建築出身でない営業マン全員に、基本的な間取りの組み方を習得させ、まあ2級建築士の製図試験に通るくらいの間取りを作成できるのだから、大した社内教育力だと思います。

とはいえ、全員が立面、外観デザインも想定しつつ間取りを検討できているわけではないのもまた実状。

実際、間取りが決まってしまえば、あとは、標準仕様・標準矩計図に沿って勝手に基本設計ができてしまう仕組みなのです。だから、間取りをつくる営業担当は建築学科卒のほうが少なかったりする。

下手をすると設計担当も一級はもとより二級建築士資格を持っていなかったりする。確認申請書類には設計担当ではなく設計課の主任が押印するので問題ない(?)。

そうやってできる図面ゆえ、ときには不備もあったりするけれども、工事担当あるいは現場の大工さん・職人さんが現場あわせで納めてしまう。計画・設計の不備は現場の優秀さで補われているのです。住宅メーカーを支えるのが大工・職人の腕というのはなんだか不思議でもありますが。

学んだ「住宅」と目にする「住宅」

そうやってできていく「住宅」。この状況は勤務先だけでなく、木造住宅メーカー、工務店では珍しくないようです(規格型住宅ばかりの場合はまた別ですが)。

ある日、次のアポイントまで本屋で時間つぶししていると、建築コーナーに、住宅に関する不思議なタイトルの本を発見しました。それは松村秀一『「住宅ができる世界」のしくみ』(彰国社、1998)。この本、ページをめくって早々、「はじめに」の文章で心をわしづかみにされました。

教室から町にでてみると、学んだものとはおよそかけ離れた風景が展開している。設計製図の講評であれば無視されるか、あるいは酷評されるような凡庸な建物が道の両側を埋め尽くしている。大学で学んだ者なら誰もが一度は感じることだと思う。(中略)本書の出発点にあるのは、現代の住宅や町が、何かをつくり出そうとする専門家たちの意志を直接的に反映できるものになっておらず、得体の知れないしくみの中から自然に「できる」ものになってしまっているという認識である。
(松村秀一『「住宅ができる世界」のしくみ』1998)

そう。木造住宅メーカーで営業職に就く自分自身、その「得体の知れないしくみ」の一部なのです。かろうじて建築学科は卒業したものの、学生時代は、設計課題提出前日にエスキスをはじめる劣等生で、木造にも住宅にも興味があったわけでないのに住宅メーカーに就職してしまった自分のプランニングで、町に住宅ができてしまう。このフシギ。

大学で学んだ「住宅」と、実際に目にする「住宅」の間には大きな溝が横たわっていたのです。

木造住宅メーカーに勤務したけれども、そこでの木造住宅は、学校で学んだ木造住宅とはまた違う。そもそも教科書に載ってた矩計図なんて、床下には根がらみ貫、小屋裏には野物が入っている化石みたいな図面。会社が手がける木造軸組工法では、筋違いも根太も最早ない。

それ以上に、あれほどまでに大学の先生方が情熱を込めて語っていた住宅の設計自体、それがつくられていく現場では、体系的な専門知識・技術はもちろん、資格もない営業担当の主導権のもと、なかば自動的に進んでいく。

たくさん建っている住宅群のうち、いったい何割くらいが、専門知識・技術の裏付けも住宅への愛もある設計者が、思いを込めて、あれこれ試行錯誤しながらカタチにしたものなのだろう。

そして、私やFさんやOさんのような営業マンの手でできてしまう住宅はどの程度あるのだろう、と町を見回したりもしました。

そもそも営業という仕事は

とはいえ、売れない営業マンな私はともかく、FさんもOさんも営業力は高い。住宅営業マンが高い営業力を持っている。それで充分なはずなのに、その営業マンが手がけることによって、(お客さまは満足しているのだけれども)建築的にはヒドイ住宅ができてしまうのって、どうなのか。

そもそも営業は、お客さまから信頼を得ることで、契約書に印鑑を押させる=クロージングするのが仕事。作るのではなく売るという仕事には確たる知識や技術は存在しません。

営業マンの「商品知識」もある種の知識ですが、哲学者であり教育者である芦田宏直によれば、専門知識とは異なるといいます。

「商品知識」というのは、専門的な勉強とは関係なく身につく知識のことを言う。〈営業の知識〉はむしろ限りなく〈ユーザーの知識〉に近い。だから、専門的な勉強を何もしていない大学生の仕事のほとんどは営業の仕事しかないのである。
(芦田宏直『努力する人間になってはいけない』2013)

さらには、「車をよく売る営業マンは車好きだと売れるかというと売れない」とも言います。なぜかというと、「自分の好きな車しか売ろうとしないから」だと。

「買う」とは知識や技術で買うのではなくて〈心理〉で買う。心理の基準は〈納得〉ですから納得となればバカも賢い人も平等です。納得しないと終わり、納得すれば終わりなのですから。〈納得〉には、正しい納得も間違っている納得も存在しない。〈納得〉は〈評価〉ではない。むしろお金を出すことに対する決断のための心理主義なわけです。
(芦田宏直『努力する人間になってはいけない』2013)

「お金を出すことに対する決断のための心理主義」。この言葉は住宅営業という仕事の本質を的確に捉えていると思います。一生に一度の住宅購入を「決断」させる仕事。こうやって考えると、FさんやOさんにみる「高い営業力を持つこと」と、そんな二人の「住宅提案がヒドイこと」はコインの裏表であることがわかってきます。

住宅営業という問題

家電や自動車であれば、コインの裏は切り離されているゆえに、ヒドイ家電、ヒドイ自動車を取得することはまずありません。だから、早い話、営業担当がプランニングするからダメなのであって、ちゃんと設計担当が責任もってやればいい。

実際に、営業担当は売ること、あるいは折衝客をつかまえてくることに専念するという真っ当な分業を行う住宅メーカーは多いです。でも、こと木造注文住宅となると、営業が間取りをつくることがフツーだったりする。

なぜそうなのか。それは在来木造がもつ性質だったり、わが国の家づくりの慣習だったり、住宅産業の仕組みだったり、住宅営業という職能の出自だったりが深く影響しているのでは中廊下と思うのですが、それはまた「住宅営業についてのメモ【2】」にて。

(つづく)

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