『ウイルスは悪者か:お侍先生のウイルス学講義』を読んで:人類は真剣にウイルスに向き合い続ける必要がある

私は先日『ウイルスは悪者か:お侍先生のウイルス学講義』(以下本著、1)を地元の図書館で借りて、拝読した。

本著はウイルスに関する初学者向けのガイドブックであり(1のp.22-96)、かつ、本著者である髙田礼人(以下敬称略)らによるエボラウイルス(1のp.7-19、p.97-213)や鳥インフルエンザA(H5N1)などのインフルエンザウイルス(1のp.215-338)との「付き合い」の記録である。

エボラウイルスが分泌型糖タンパク質という名の囮を使って、免疫系を撹乱することは実に興味深かった(1のp.144-145)。
また、エボラウイルスに対する抗体製剤、迅速診断キット、および、ワクチン開発も非常に興味深かった(1のp.180-193)。

ライブ・バード・マーケット(生鳥市場、生鮮市場ともいう)がインフルエンザウイルスなどのウイルスや薬剤耐性菌の温床になっていること(1のp.226-237、2、3)、かつ、ライブ・バード・マーケットがウイルスの抗原連続変異を引き起こす生じる格好の場所であること(1のp.275-284、4)を思い知らされた。
また、インフルエンザウイルスにおいて、ヘマグルチニン遺伝子上の僅かな変異がトリインフルエンザウイルスの病原性の差を生み出すこと、ライブ・バード・マーケットではトリインフルエンザウイルスがニワトリからヒトへの「宿主の壁」を超えること、ならびに、インフルエンザウイルスが鳥、ヒト、および、ブタの間を行き来することで生じる抗原不連続変異によりパンデミックウイルスに変化することも思い知らされた(1のp.284-308、4)
そして、インフルエンザの様な人獣共通感染症対策として、ヒトと動物の健康を一体で捉える「ワン・ヘルス」という視点は必要であることも思い知らされた(1のp.314-316、5)。

エピローグ(1のp.339-354)で、ウイルスの本体が遺伝子そのものであることを私は改めて知った。
また、以下のことも改めて思い知らされた。
人獣共通感染症を引き起こすウイルスは本来自然の中で本来の宿主と共に暮らしていた。その一方で、人類は文明や科学技術の発展により、自らの活動領域を広げてきた。これまでヒトと接してこなかったこうしたウイルスの一部がヒトと接触することで、致命的な感染症を引き起こす。なお、こうした事態は偶然の産物でしかない。
ウイルス自体には人類に対する悪意などの意志すらない。致命的な感染症はウイルスが子孫を残そうとする中で偶然起こる悲劇である。
むしろ、人類の方がウイルスの生存環境に踏み込んだがために、こうした悲劇が生じ続けていると言えよう。だからこそ、人類は真剣にウイルスという存在に向き合い続ける必要がある。

2020年02月11日現在、新型コロナウイルス(2019-nCoV)が社会問題になっている(6、7)が、「人類は真剣にウイルスという存在に向き合い続ける必要がある」ことを改めて思い知らされている。

個人的には、人獣共通感染症を引き起こしかねない新型ウイルスの出現を抑制するために、日本政府や日本企業が中国などに鶏肉処理工場の類、低温流通機構、および、その運営ノウハウを普及させるほうが良いのではと私は考える(8、9)。

参考文献
1 髙田礼人 著,萱原正嗣 構成,岡村優太 イラスト.ウイルスは悪者か:お侍先生のウイルス学講義.第1版第1刷,株式会社 亜紀書房,2018年11月09日,360p.
2 株式会社 メディアジーン.“武漢の新型肺炎もSARSも流行の始まりは同じ…… 写真で見る、中国の生鮮市場とは”.BUSINESS INSIDER ホームページ. 2020年01月23日.https://www.businessinsider.jp/post-206288,(参照2020年02月11日).
3 株式会社 日経ナショナルジオグラフィック.“すでに数千人が発症か、中国の新型肺炎、疫学者らが発表 注目の海鮮市場では野生動物を取引、SARSに極めて近いウイルス、今後の可能性は”.ナショナルジオグラフィック トップページ.ニュース.宇宙&科学.2020年01月23日.https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/012300043/,(参照2020年02月11日).
4 日本ベクトン・ディッキンソン(日本BD)株式会社.“I's eye: 進化するインフルエンザウイルス”.日本BD トップページ.医療関係者向け.微生物検査/迅速検査/細胞診検査.アーティクル.Ignazzo(イグナッソ) Vol. 6.2009年09月.https://www.bdj.co.jp/safety/articles/ignazzo/hkdqj2000007dkl4.html,(参照2020年02月11日).
5 厚生労働省.“One Healthの取り組み 連携シンポジウム 2016年3月20日開催 人と動物の一つの衛生を目指すシンポジウム-人獣共通感染症と薬剤耐性菌-”.厚生労働省 ホームページ.政策について.分野別の政策一覧.健康・医療.健康.感染症情報.動物由来感染症.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000138883.html,(参照2020年02月11日).
6 厚生労働省.“新型コロナウイルス感染症について”.厚生労働省 ホームページ.政策について.分野別の政策一覧.健康・医療.健康.感染症情報.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html,(参照2020年02月11日).
7 厚生労働省 国立感染症研究所.“新型コロナウイルス (2019-nCoV)  トップページ”.国立感染症研究所 ホームページ.新型コロナウイルス(2019-nCoV)関連情報について.2020年02月10日.https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html,(参照2020年02月11日).
8 日本ハム株式会社 国内生産処理グループ.“処理工場 日本ホワイトファーム株式会社”.日本ハム 国内生産処理グループ ホームページ.鶏の事業について.http://www.nhg-seisan4.jp/cock/processing.html,(参照2020年02月11日).
9 公益財団法人 日本食肉消費総合センター.“食品の温度管理”.お肉のことならなんでもわかる! 食肉なんでも大図鑑 トップページ.食肉基本情報.食肉の安全性.感染症・食中毒の予防.http://jbeef.jp/daizukan/encyclopaedia/article.html?encyclopaedia_article_id=187,(参照2020年02月11日).


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