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ほっこり感ゼロ。北欧ミステリの傑作・「冬の灯台が語るとき」ヨハン・テリオン

数年前から北欧ミステリ熱が高まっている。世間的にも個人的にも。
雰囲気、トリック、すべて素晴らしいスウェーデン人作家の作品だ。

スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞、「ガラスの鍵」賞受賞。

全編を通してほの暗い

都市部から郊外の古い一軒家に越してきた4人家族。幼い2人の子を持つ仲の良い夫婦は、歴史ある屋敷を手入れしながら自然の中で豊かに暮らすことを求め、岬のほとりに移住した。しかし突然、妻が遺体となって海で発見される。自殺か、他殺か。悲しみに暮れる夫、地元の女性刑事、近隣で悪事を働く強盗犯、血縁者たち、多数の視点で物語が進行する。
古い屋敷の中で、聞こえるはずのない多数の話し声、謎の刻印、足音など、不思議な出来事も起こり始める中で、ちりばめられた伏線が見事に回収され事件の真相が明らかになっていく。

途中、夢か現実かわからない、過去と入り混じる不思議なシーンが展開される。
北欧神話や妖精の文化も垣間見える興味深い展開。
ミステリらしいロジックと、人知を超えた存在が違和感なく同居し、物語に深い余韻を与える。
設定の濃密さと裏腹に、感情的でない、理知的なテンポで淡々と物語が進み、北欧ミステリらしく静かな暗さに満ちた作品だ。

ほっこりとは程遠い

気候は文化に大きな影響を及ぼす。
明るい色使いのインテリアやマリメッコなどのテキスタイル、ムーミンや映画「かもめ食堂」など、ほっこりイメージのある北欧だが、それらはすべて日照時間の少ない気候を家屋内で快適に過ごすための知恵だ。

「ヒュッゲ」というノルウェー語が良く知られているが、こういった生活スタイルは、厳しい気候を何としてでも快適に過ごしてやる!という北欧人の自然との長い格闘の賜物といっても過言ではない。
翻って、厳しい冬に閉ざされた国々の過酷な環境がよく表れた文化だ。

この作品に限らず北欧ミステリに通底するほの暗さは、こういった日照時間の短さ、過酷な自然環境が強く影響しているはずだ。
人々の家にいる時間が長く、読書時間も長いそう。国民の読書熱が高いので本のレベルも高く、ミステリは特に満足度の高いものが多い。

北欧ミステリを映像でも

北欧ミステリ代表は、ハリウッドでも映画化された「ミレニアム・ドラゴンタトゥーの女」だろう。
ノルウェー本国とハリウッドで二度映画化された作品だが、ノルウェー本国版の映画は冷たい昏さがまあ半端じゃない。
映像の明度も彩度も低すぎる。

対照的にデビッド・フィンチャーが監督を務めたハリウッド版映画はスタイリッシュエンターテイメント。
特筆すべきはオープニングのカッコよさで、最初からクライマックスを地で行く。

北欧感を最大限に楽しめるのが本国版で、エンターテイメント性が高いのがハリウッド版と、どちらもおすすめ。



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