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こぎんドレスで青森に呼ばれたかも?

「今年はもう5パーセント終わったんだってツイッター(X)で流れてきました!」

そんな知り合いの声にびっくりしていた1月20日、大寒の日。

そうかもう5パーセントたったのか、と思いつつも、まだ5パーセントしかたっていないのに、ともわたしは思っていた。

そう、今年が始まってまだ20日しか経っていないのに、早くも今年の目標がひとつが動き始めた。

年末年始に(手書きの)日記に書いていたわたしの目標のひとつは、「こぎんドレスで青森に呼ばれる」だった。 

それがなんだか、早くも動きそうな気配。


こぎんドレスで青森に呼ばれる?

わたしは神戸でウェディングドレスをつくる仕事をしている。ここ数年、ドレスのお直しやリメイクのご依頼が増えてきた。リメイクが大好きなのでうれしい。

さて、リメイクやお直しの仕事をしていくなかで、「繕い(つくろい)」「服を長く大切に着ること」への関心がわたしのなかでますます高まってきていた。わたしはそれを学ぶために青森・津軽へ「こぎん刺し」を訪ねるひとり旅をした。それが2022年11月のこと。

岩木山(2022.11)

こぎん刺しとは

こぎん刺しとは、青森・津軽地方に伝わる「刺し子」のこと。寒冷地である津軽では綿の栽培が叶わず、藩政によって綿の着用を禁じられ、人びとは麻の着物しか着用できなかった。そこで津軽の人びとは、保温と補強のために麻の布に綿の糸で刺し子を施すようになったという。

縫い重ね、補強されたこぎん(佐藤陽子こぎん展示館)

当時の布は大変貴重なものだったため、何度も刺し子を施し、そのうえからまた染め直すなどして、大切に使われてきた。幾つもの手しごとが重ねられた布はとても美しく、愛おしい。

(ゆめみるこぎん館)

こぎんを訪ねて津軽を旅したわたしは、こぎんに魅せられ、いつかこぎんのウェディングドレスをつくれたらいいなあとぼんやり思っていた。

その夢が、急に動き始めたのは2023年9月のことだった。

青森・神戸ビジネスツアーで運命の出会い

ご縁があり、青森県の施策である「フジドリームエアラインズ青森ー神戸線の利便性を活かした青森・神戸ビジネス交流会」にご招待いただき、2023年9月の企業交流会に参加させてもらった。

そこでお会いしたのが、フランス刺繍の糸を使用した独特の技法でこぎん刺しのオリジナル商品を販売されている弘前のセレクトショップ「A.select」の佐藤さんだった。

企業交流会でお隣に座った佐藤さんが、「こぎんでウェディングドレスをつくりたいんです」とおっしゃり、「つくりましょう!」 と意気投合。話が早い。その後、お互いに青森と神戸を行き来して、打ち合わせをしてきた。

夢が実現に向けて動きやすくなるポイント

あとから振り返ると、最速で夢が実現にむけて動き出したポイントは、この最初の交流会にあったのだと思う。

交流会で盛り上がり、「ドレスをつくりましょう!」となったあと、そこに「いつか」が入ってしまうと動きが鈍くなる。勢いのまま実現させたい。そう思ったわたしは、その交流会の最後に、参加者全員の前で、

「こぎんのドレスをつくることになりました!!!!」

と、宣言したのだった。

その場には、青森県庁の職員さんや、神戸市の職員さんや、フジドリームエアラインズの支店長さんやJR東日本のかたや関連企業の方々など、いろんな「えらい人」がいっぱいいた。そんななかで大きな声で宣言したのだ。もう後には引けなくなってしまった。ぜったいにつくらないと。おいおい、ハッタリもいいとこだ。どうすんの。じぶんで言っておいて内心はヒヤヒヤ。

神戸側からも「大丈夫ですか、あんなこと言っちゃって。無理しなくていいですよ」ともいわれた。

でもあとから思えばこれがよかったのだと思う。宣言してしまえば夢はかなうって言うし。しかも最速で。

2023.11

コロナとインフルエンザ

しかしそのあと、A.select佐藤さんはコロナに、わたしはインフルエンザに交互にかかってしまう。

初動が遅れ、「どうします? 来年度にします?」という話にもいっしゅんなりかけたけど、

「今年度中にやりましょう!」

と遂行したのはやっぱりあのときの宣言があったからこそ。あんなに多くの人の前で宣言してしまったのだから、やっぱりできませんでしたではかっこ悪い。だからどうしてもやり遂げたかった。どうよこのハッタリ人生。

わたしはインフルエンザでよれよれになりながらデザイン画を仕上げ、パタンナーさんとドレーピングをしてデザインを決め、仕様書と裁断した生地を青森に送った。津軽の刺し子さんに「こぎん」を刺してもらうためだ。

青森noteを書く

こぎんを待つ間にわたしが行ったのは、「青森に関するnote」を書くこと。書きたいことはいっぱいあった。

とくに、9月のビジネスツアーのときにひとりでこっそり太宰治のふるさとに行ったことは、どうしても書いておきたかった。

このnoteがのちに青森県庁さんの心を動かした(のかもしれない)。

裏にあらず

そうして年末にこぎんが完成し、わたしの手元に届いた。

その美しいことといったら! まるで雪の結晶のよう。

こちらは「さやがた」といわれる吉兆模様。連続した模様が「絶え間ない」として、縁起のよい柄らしい。

さやがた

このこぎん刺し、裏も美しい。

裏も美しい

「どんなふうにこぎんを刺してもいいけど、裏は綺麗にしてね」これは2022年に見学させていただいた「佐藤陽子こぎん展示館」の佐藤陽子さんのことばだ。

裏だけど、裏にあらず。

こぎんの基本モドコのひとつ、カチャラズ。カチャラズとは、「裏にあらず」という意味だ。わたしはこの言葉に「こぎん」の精神が宿っているように思う。

裏にあらず

この美しい裏側の糸をどこかにひっかけてしまわないように、そしてふっくらしたこぎんの風合いを損ねないように、作り方や芯などの下準備に特別の工夫をこらした。

そして、もともとの「こぎん」が大切に長くつくり直されてきたということも考慮して、この次に別のものにつくりかえるときにも、ほどきやすく、直しやすいものにしておく。

それらの工夫はおもてからは見えないのだけれど、見えないところにも「こぎん」の精神が宿るようにと。カチャラズ。裏にあらず。そう、きっと魂は見えないところに宿るものなのだ。

今回は、「A.select」佐藤さんがもともとご用意されていたウェディングドレスに、デザインリメイクを施すというかたちで作成した。

もちろん、ドレス本体を総こぎんでいちからつくれたら一番いいのだろうけれど、そうすると時間と労力がかかりすぎていつまでたってもこのプロジェクトが完成しないだろうし、なによりも膨大な制作費がかかる。そうなると「こぎんのドレス」を届けられる人もかなり限定されてしまう。

津軽やこぎんに思い入れのある花嫁さまたちに、気軽に取り入れてもらうにはどうしたらいいだろう。佐藤さんとそのあたりを検討し、取り外しのできる大きなリボンとケープでこぎんをドレスに取り入れる方法を考えた。

こぎんの施された大きなリボンやケープを組み合わせることで、ドレスのイメージを変化させることができる。そして、こうすることで、例えば別のドレスにも「こぎん」を取り入れてもらいやすくなるかもしれない。

こぎんのドレスをつくりながら、わたしは津軽へ思いを馳せた。いつかつくりたいと思っていたドレスを、こうして実際につくれているなんて、夢のようだ。

また、行きたい。

このドレスが完成して津軽にいるところを見てみたい。

わたしは制作のあいだずっと、日記帳に「こぎんドレスで青森に呼ばれる」という目標を記していた。

美しいドレスが完成したら、きっと呼ばれるはず。

そうして試行錯誤のうえ、こぎんドレスが完成した。


呼ばれた、かも?

ドレスが完成に近づいていたころ、青森県庁の職員さんがアトリエにいらっしゃった。そして太宰治のnoteに感動した、と言っていただいた。

青森のかわいいお土産

今回いらっしゃったのは、「青森ー神戸ビジネス交流事業の機運を盛り上げる施策」についてのお話だった。

キター! とわたしは思った。

もしかしたらこれは呼ばれたかも。

もちろんこの追加施策は、こぎんドレスの完成に向けてみんなでがんばったからなのだけど、もしかしたら太宰治はじめ青森関係のnoteの影響も、ほんの少しはあったのではないかとわたしは思っている。

だってことばには、物事を動かす力があるから。しかも最速で。

最速で夢が動いた3つのポイント

年があけてからわずか20日で、今年の夢が動き始めた。ここには3つのポイントがあったと思う。

  1. その場で宣言した

  2. noteで発信し続けた

  3. 毎日日記に書いていた


1.その場で宣言した

まず、プロジェクトのきっかけとなったその場で、すぐに宣言したということがよかったと思う。あのとき宣言していなかったら多分実現していなかったかもしれない。

口に出した言葉の威力よ。

2.noteで発信し続けた

次に、青森に関連する記事をnoteで発信し続けたこと。そして、noteに記事を書いたら、その記事のURLをその時の青森プロジェクトに関わった方々にドレスの進捗とともにメール送信していた。しつこい。

忙しいのに迷惑かな〜とも思ったけど、プロジェクトがちゃんと進んでいることは関わったみんなにとっていいことだし、わたしの青森への愛も伝われ! と思って。

愛はさ、しつこいくらいがちょうどいいんじゃないかな。(持論)

3.毎日日記に書いていた

これは誰に見せるものでもないのだけれど、毎日「こぎんドレスで青森に呼ばれる」ということばを日記に書き綴っていた。

青森に呼ばれるためには、いいドレスをつくらないといけない。だから今日もがんばる。誰に見せるわけでもない日記は、じぶんにいい聞かすために書いているのかもしれない。

つまり、「宣言・発信・書く」この3つがポイントだった。

いま気がついたけど、3つとも全部ことばだ。

ことばで宣言し、ことばを書き綴り、ことばを記す。やっぱりことばにはすごい力がある。


つぎに青森に行けたら、お土産に大好評だった「イギリストーストラスク」を大量に買ってこなくては。わくわく。




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ドレスの仕立て屋タケチヒロミです。 日本各地の布をめぐる「いとへんの旅」を、大学院の研究としてすることになりました! 研究にはお金がかかります💦いただいたサポートはありがたく、研究の旅の費用に使わせていただきます!