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吉田健彦『メディオーム ポストヒューマンのメディア論』共和国(1)

共和国から本が届きました。とても美しい装幀で、改めて共和国から出せたことをうれしく思っています。

早速、本棚の共和国領土に仲間入りさせました。

我が家の本棚における共和国領土

こうしてみると素晴らしい本ばかりで(まだ入手できていないものもありますが)、共和国ファンとしては、ここから出版できたというのはちょっと出来すぎだな、運を使い切った俺の人生、これから転落する一方だな、という気がします。

装幀は宗利淳一氏による

とにかく、宗利淳一氏による装幀が美しいです。非常に多くの装丁を手掛けていらっしゃるので、ぜひ探してみてください。

ぼくは電子書籍というのはあまり興味が持てなくて、それにはいろいろな理由があるのですが、第一にはやはり本ってその全体が持つ質感が大事なのだと思うのです。電子書籍は情報を買っているだけで、本を手にするのとは(少なくともいまはまだ)まったく別の話です。でもぼくらはそのどちらもついつい「本」だと思ってしまうから、いろいろ混乱してしまう。だけれど、良い悪いではなく、電子書籍は本ではない。ぼくはそう思います。でもって、共和国の本は、やはり圧倒的に「本」なんですね。そしてそれは段組みであったりフォントであったり無数の要因がありますが、宗利氏の手による装幀も、きわめて大きな要素であることは間違いありません。

あと帯の文言、配置がとても気に入っています。「きみは神になりたいのか? そして、」無論、実際にはこの後に続くのですが、けれどもこの一行、シュルレアリスムの詩のようで、硬質で、謎めいていて、これは共和国代表の下平尾直氏が書いてくださったのですが、これもまたこの本の佇まいに魅力を与えています。実際、本書の結語はブルトンの『シュルレアリスム宣言』(巌谷國士訳、岩波文庫)の結語へのオマージュなので、個人的にはすごく盛り上がっています。

そんなこんなで、とにかくモノとして魅力を持った作品です。著者の力とはまったく無関係なところで素晴らしい本になっています。とてもお勧めです。いえもちろん、内容もぜひお読みいただければ幸いです。内容については以下の版元ドットコムのページをご覧ください。

改めて言えば、本書では、これだけ科学技術が進化し、地球上どこにいても誰とでもコミュニケーションができる時代において、なぜ、なおぼくらの生は困難と恐怖と苦痛に満たされているのか、それをメディア論の立場から考えたものです。けっこう、ぼくらはまじめに生きているし、いろいろな理想も持っている。それに向かってずいぶん頑張ってきてもいる。それでも、ではほんとうにぼくらの生はそれに見合うだけより良くなっているのかというと、少なくない人が同意しないでしょう。だからといってそこで語られてきた理想をすべて捨てるのは違う。すべてを諦めて他者を、自分自身を憎悪するのもぜんぜん違う。でもけっこうぼくらはへとへとで、世界そのものがへとへとになっていさえする。そしてそういうときこそ人文学が何かしらのビジョンを提示する必要がある。

以前に別の投稿で紹介した、やはり共和国から出版された『レイシズムを考える』で、特に百木漠氏による第11章「「左翼的なもの」への憎悪」に共感したのですが、ここでは人文学が再びビジョンを提示する力を持たなければならないことが説得的に書かれていました。

本書もまた、そういう意味で、技術が限りなく進化していき人間が人間を超えることさえ夢見る時代において(そして実際に、ある意味において超えてしまっているのですが)、そして、それでもなお人間であるが故の苦しみから逃れられないこの時代において、技術的楽観主義でも反技術主義でもない私たちの生をどうにかこうにか語る術を描こうとする、人文学のひとつの試みです。

こういったことに関心をお持ちくださる方には、ぜひお読みいただきたいと願っています。

発売日は12月15日ですが、ありがたいことに、以下の書店で既に扱ってくださっていますので、ぜひ。

まだ他にも、既に扱ってくださっている書店があるかもしれませんが、まずは見つけられたところからご紹介を。

本は、とにかく、手に取ってお読みいただかなければ命が吹き込まれません。そして下平尾さんが消費税を「悪税」と表記しつつ、そういった制度のなかで戦って出版していることからも明らかなように、ぼくもまた、思想も本もこの消費社会のなかで売買されるということが重要だと思っています。そこに戦いがある。それを知らんぷりして、何かウルトラな立場から語るというのは、いえそれはそれで大事ではあるのですが、ぼくのスタイルではないし、それって結局、それぞれの本が生息する書店という生態系が衰退することにもなってしまいます。ですので、身も蓋もありませんが、ぜひぜひ、ご購入いただければ幸いです。

いえ、本当に、良い本です。嘘じゃなく。嘘の多い人生ですが。

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