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芸人だったら合コンに行くだろうって話。



スチャダラパーの曲に「ライツカメラアクション」という曲がある。


2008年に発売された曲で、当時真木よう子主演のドラマがありその主題歌として使われていた。

「11」というアルバムに収録されている。







これはそのアルバムが出た時のTシャツ。






アートワークも人体模型なんかがコラージュされていて一見怖いけど、
文字の部分は飴玉のような、プラスチックのような物を使っていて、
カラーリングがポップで可愛らしい。






この曲が僕は大好きで、ずっと聴いていた。





曲にはSLY MONGOOSEの塚本功と松田浩二が参加している。





このバンドも格好良いから興味あったら動画を貼っておくので聴いて欲しい。






ライツカメラアクションは曲も最高だが、PVも最高である。



PVにはドラマに出ている真木よう子と、(ちなみにドラマを僕は見ていない)ARATA、杉作J太郎が出演しており、ドラマ仕立てになっている。

配役も素晴らしい。

ARATAの頭の形も良くて羨ましい。







PVは杉作J太郎がARATAに変身し、真木よう子と付き合うことになるという物語仕立てになっている。




このPV内の小道具はほぼ全て段ボールのような紙で作られており、
その歪さが不細工な主人公の自信の無さと、虚勢を上手く表現しており、
曲も相まって本当に素晴らしいPVとなっている。




飽きるほど見たのに思い返しては何度も見ている。
聴いた事無い、見たことないって人は是非見て欲しい。








僕がまだ芸人を始める前、22歳くらいの事だったと思う、

養成所に通うために金を貯めようと居酒屋で働いていた。




そこで仲良くなったアルバイトのへっしーさんと万里(ばんり)と、ある日お酒を呑むことになった。




酒を呑んだ帰り道、

僕ら三人は良い気分で渋谷の街を歩いていると
前から二人組の可愛らしい女の子が歩いて来た。





その時の僕は芸人を目指している身でありながら自分に芸人的な要素が全く無いのをコンプレックスに感じていた。




芸人的要素とは何なのか。
その時の僕の芸人像は「破天荒」だった。





芸人はナンパをすると聞く。合コンに行くと聞く。



芸人になるなら女の子をナンパするようじゃないとダメだ!

そんなことを思った僕は、酒の力もあって声を掛けた。





話を聞いてくれる子達(大学生であった)で、後日僕らはその子達とお酒を呑むことになった。
人生初の合コンが決まった日である。





僕は本屋で水野敬也の「LOVE理論」を買い、
気になった個所はマーカーで線を引き、

ライツカメラアクションを聴いて自分を高めた。






そして当日。
場所は渋谷。




僕はライツカメラアクションを聴いて高めながら向かった。


「言い聞かせる 俺は超クール 靴選びから役に入る」


 





僕ら三人は合コンの二時間前に集まり作戦会議を行った。





各々こんなことを考えたと発表し合い、
僕はマーカーだらけになったLOVE理論を出し、そこで得た情報を共有し合った。





そうして僕らはいくつか決め事をした。




・一番の年長者であるへっしーさんは大人の余裕を見せるために女の子全員に敬語で話す。

そうすることによって大人のスマートさを印象付けさせる。



・万里は女の子が座る時さりげなく椅子を引く。

優しさこそが正義。さりげない気配りは心を動かす。



・僕はサラダを取り分ける。

普段こういう場では女性がやると聞く。男がやっていたらそれだけで高得点である。一番良いポジション。



・触る。

完全に下心である。





僕たちはこれだけは絶対にやろうと心に誓った。





破天荒になりたいと思っている人間とは思えない程の儚げな、吹けば飛ぶような誓いである。






しかしこれで万全である。もう何も怖いものなど無い。
僕らは合コンという戦場に向かうだけである。






そうなのか。

本当にそうなのだろうか。




何かが足りないような気がする。

なんだ。僕たちに足りないのは何なんだ。






そう思い渋谷を歩いていると一軒の店が目に入った。







「LUSH」だった。






LUSHとはボディソープやスキンケアなどを取り扱っているショップだ。


そのオシャレな商品は使うのは勿論、

オブジェとして部屋に飾っていても様になる程の力を秘めている。





LUSHの紙袋を持って歩けば、それはもう裸だとしてもオシャレと言わざるを得ない、ソープ界のGUCCI、CHANEL、DEAN&DELUCAである。







僕らは目を合わせ

「ここだ!俺たちに足りなかったのはこれなんだ!」

と勇んで入店し、女の子たちにプレゼントするための石鹸を買った。






人数分の石鹸を丁寧にラッピングしてもらい、

それを小脇に抱え渋谷の街を嬉しそうに合コン会場に向かって小走りする僕らは、

いつかのメリークリスマスの主人公は俺だと言わんばかりであった。




僕らの買った石鹸という君の欲しがった椅子を、君は心から喜んでくれるだろうか。


その顔を見た僕も素直に君を抱きしめる事が出来るだろうか。






男三人、浮足立って30分前に予約した居酒屋に入ると

「まだ時間ではありません」

と追い返された。当然である。





時間になって待っていると、女の子達もやって来た。



恐らく僕らの為にオシャレして来たのだろう、彼女らはとても輝いて見えた。




尊い。
なんて尊いのだ。生きているだけでありがたい事である。



田口ランディが本の中で言っていた。


「若いというだけで力がある」と。



そんなに歳は違わないけれど、僕らは今それを噛み締めている。






僕ら三人は立ち上がってしっかりと挨拶をし、
彼女らは席に着いた。



椅子を引いてエスコートするはずだった万里は完全に出遅れた。






「皆さんは今学生なのですか?」

「へっしーさん確実に私たちより年上ですよね、気使って敬語じゃなくて良いですよ、逆に気まずいですし」







無理してまあまあ良い店を選んだ為、
料理は全て個別で各々分けられた状態で提供され
僕はトングを握る事さえできなかった。







しかし僕らは頑張った。


二次会にカラオケに誘えたのだ。




格好良いとこは見せれなくていい。

せめて僕がどういう気持ちで今日来たかだけ分かってくれ。




僕はライツカメラアクションを歌った。






「うわ!俺来る前この曲聴いて高めて来た!」



へっしーさんである。



まさかこんな近くに同じ曲を聴いて高めてきた人間がいるとは思わず驚いてしまった。





「なんすかこの曲!メチャクチャ良いすね!マジ泣けたっす!フリースタイル具合にマジ泣けたっす!」



と万里。






しかしその想いもGReeeeNとMINMIを歌う女性陣には伝わらず僕らは2時間足らずでカラオケを出ることになった。






帰り際、僕らはプレゼントに買ったLUSHを彼女たちに渡すことにした。






「今日は本当にありがとう。とても楽しかった。これは気持ちです。LUSH」

「え?何でですか?」

「プレゼントの。LUSH」

「なんのプレゼントですか?」

「好きだと思って。LUSH。好きじゃないですか。LUSH」

「いや、嫌いじゃないですけど…大丈夫です」

「え!?でもせっかく一緒に呑んでくれたし…!これは気持ちだから…!気持ち程度のLUSHだから」

「いや、本当にいいです。悪いんで」

「いや…!でもせっかく買ったし…LUSH…」

「じゃあ握手してください!」

「万里」

「握手して別れましょう!」






触るという誓いをなんとしても全うしたかった万里は握手という形で果たした。


僕らは全員と握手を酌み交わし女の子達と別れた。





手には彼女たちの温もりと、LUSHだけが残された。







その後の事は覚えていない。

多分お互いがお互いを慰め合って帰路についた。








後日、万里がその時の女の子と二人で焼き肉デートに行ったと聞き、

僕は初めてLUSHで身体を洗った。





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