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まだらの認知症のために壊れる家族関係 ケアマネとの付き合い方




初めに


 ここでお書きするのは、まだらな認知症のある家族の介護に誠実に向かい合うかたでも遭遇してしまう悲劇的な状況です。大切なご家族を手放さなくてはいけなくなるまえに、誰にでもおこりうる事例であることを覚えておいてください。

前書き

 昨今ご年齢の高い方とはいえ、以前に比べればとてつもなくお元気です。当然、少々体調に問題があっても自宅で生活をすることを望む方がふえてきます。
 核家族化が進んでいる状況ですから、ご家族とは離れ、ご高齢の方だけで暮らしていることも少なくありません。とはいえ、その生活を保つためにはさまざまな社会的サービスが必要です。食事などの栄養管理は当然ですし、掃除からごみ捨て、そして行政サービスなど多岐にわたります。
 ここでこういったことを全体的にアレンジするケアマネージャー(正確には介護支援専門員)という存在が重要になってきます。公的資格ですから、試験や更新規定などがあり、資格を得るだけでなく、その更新もかなり大変といわれています。報酬的に見合わない部分もあるとは言われていますが、現在の制度に変更がないのであれば、今後ますます活躍していただかなくてはいけません

ケアマネージャーが遭遇するトラブル

 さて、ケアマネージャーが担当する方は様々な背景のある高齢者が主体となりますが、だからこそ様々なトラブルがあり、それをうまくこなせないと仕事がなりたたないと思います。ただ、ここで一つ問題を提起しなければいけません。
 医者でもそうなのですが、すべてがいい医者とは限りません、またたとえ優秀な医者であったとしても、患者と医師という関係をうまく保てるかどうかはお互いの相性やタイミングを含め、さまざまな要素が絡んできます。
 最悪なのは、医者が患者さんからの話を自分の頭のなかで組み合わせて、勝手な患者さんの臨床像をつくりあげて、本来の診断や治療とは全く的外れなことを行ってしまうことではないかと思います。これは様々な状況から、どんなに優秀な医者でも起こりうることでしょう。
 医師が悪意のある人間ならば、全く人の話(家族からの話もふくめて)を聞かずに、あえて金儲けに使おうとする事態も現実に存在し、それはグレイな状況で法的にも対処できないということも少なくありません。
 こういった事態の原因の一つとして、患者さんの認知機能があげられます。認知機能の落ちてきた患者さんは、話を聞いているようでまったく聞いていなかったり、しっかりとした口調で話しているにもかかわらず、まったく内容が現実と異なっていたりということが、まだらなパターンで出現します。病院の医師においては、まずいと思えば患者さんの話を聞く場合に誰かを同席させたりして、記録をしっかりと残すなどの自衛策を講じますし、患者さんとお話をするのも病院のなかでしかもほとんどは病気のことだけですから、多少認知機能が落ちていてもおおむね対処が可能です。
 ところが、実生活全般になってくると、話は厄介です。とくにここにあげたまだらな認知機能の低下を認める在宅のかたは本当に要注意です。振り込め詐欺とかがよく言われますが、これは悪意をもって高齢者をだまそうとしているのですから論外なのですが、こういったことは簡単に行うことができるというのがこの年代の方々です。そういったなかで問題となるのは家族に虐待されているとか、家族にお金を取られるとかといったことを、事実と異なるにも関わらず、日常的にケアマネージャーに話している高齢者でしょう。
 ケアマネージャーからしてみれば、このか弱い高齢者を守ってあげなくてはということになるのも理解できます。ただ、家族としてみれば、何にも悪いことはしていないのに、突然犯罪者であるかのような扱いを受ける事態に遭遇して、パニックになってしまいます。

独居の高齢者の言動でケアマネージャーが動くことの危険性

 ここで、ケアマネージャーとの契約が高齢者自身となっていると、事態がこじれる場合があります。契約が高齢者自身となっていると、家族からの申し出でケアマネージャーとの契約を破棄することができないのが通常で、これが後々問題となるわけです。
 ケアマネージャーというのは、肉体的虐待に関しては通報することが当然です。金銭の盗難などの問題がある場合は警察に通報されるでしょう。ただ、家族内における金銭的問題については口を出す権限はありません。もちろん問題が起こっていると思った場合は、今後の関係性を保つ意味で、ある程度家族の仲裁にはいったりするケースは少なからずあると思います。
 とはいえ、ここで問題になるのは、ご高齢のかたの認知機能をどのように判断するかということです。日常において語り口は饒舌で長期的な記憶はかなりしっかりしているのに、短期的なことはかなりいい加減で思い込みが激しいというか、勝手に間違った思い込みをしてそれを口に出す高齢者は少なくありません。家族内の金銭のやり取りにおいても、借りたお金を水増し請求されたとか、庭から何かをとっていったとか、突然わけのわからないことを言い出すのが認知症です。ここでケアマネージャーの一人暮らしの高齢者を守ってあげるんだという気持ちが暴走すると、すこし離れたところにいるしっかりとした家族が大変なことになる場合があります。

ケアマネージャーの独断先行と家族の悲劇

 独居高齢者の訴えを聞いたケアマネージャーは、ケアマネージャーの本来の業務ではない(その契約もしていない)のですが、家族に黙って(ケアマネージャーからすれば、家族はお金をとる悪者ですから)高齢者に弁護士を紹介したり、成年後見人をつけてあげようとします。ここで契約が成立してしまうと、家族がある程度しっかり面倒を見てあげようと思っていた場合、悲劇にしかなりません。

 基本的にご家族が高齢者を見る場合はどうしても家族自身のお金が出ていきます。それは交通費であったり、ちょっとした食事の材料費であったりとかも含めてですが、通常は家族が高齢者にあとから請求して、少しの心づけとともに払ってもらっていてうまくいっているのが普通です。ところが、それが弁護士や成年後見人の権限により非常に厳しく管理され、高齢者本人でさえも自由にならなくなってしまいます。なにより、弁護士や成年後見人を保つのにお金がかかるわけで、高齢者の財産はなにもしなくても目減りしていきます。
 さらにこれらは、違法行為でもない限り解任することは基本的にできません。特に成年後見人についてはいったんついてしまった場合は、解任は現実的に不可能に近く、ご家族は自分たちの労力や出費にについてはあきらめるしかありません。弁護士にいたっては接近禁止命令さえ出されてしまう可能性がありますし、そうなってしまっては大切な家族を手放さざるを得なくなることもあります。
 そうはならなくても、ケアマネージャーにべったりとなってしまった介護をうけるかたが、家族のいうことをまったく聞かなくなることもあります。こういった事態を察知して事前に家族が動こうとしても、ケアマネージャーとの契約の破棄ができない場合は、本当にお手上げとなってしまいます。

誠実なかたほど悩むはず

 もちろんこういった事態にいたるまでには、家族や親族内での介護を受ける人の言動に対する理解が十分でなかったり、家族間の仲たがいであったり、財産の分与の問題であったりと、複雑に事情がからまっているので、一概にだれが悪いということはできません。ただ、こういった事態は非常に善良で生真面目な家族がいてもおこりうることだということは、これから高齢者の介護をしなければいけないご家族の方は覚えておく必要があるでしょう。

 本来、ケアマネージャーはこういった事情をある程度くみ取りながら、介護を受ける方の認知機能や性格などを総合的に判断して、客観的に家族とのバランサーとしてうまく立ち回らなくてはいけないのだと思います。
ただ、対象となる方々の人口が徐々にふえ、そして高齢化がさらにすすむと、その全体をマネージメントするにはいままでよりもさらなる労力が必要と思います。そうなると十分な検証なしに、物事がまちがった方向に進んでいくことも多いはずで、それは今後大きな社会問題となりうることと思います。

ケアマネージャーを使った介護をうまく利用するために

ここで、介護のためにケアマネージャーを探している誠実なご家族に、いくつかのアドバイスを書いておきます。

  1. ケアマネージャーとの契約は、ご家族の名前(介護を受ける人の名前ではなく)でおこなったほうがいいと思います。

    • いざというときに契約の中止がしやすくなります。ケアマネージャーが介護を受ける方と契約している場合は、問題が起こったときに家族が解任を申し立てても、ケアマネージャーが固執する場合は契約解除はなかなかできません。

    • ケアマネージャーの発言は行政もふくめて周囲に強い影響力があります。家族がどんなに誠実なかたであっても、介護を受ける方が発信した泥棒とか虐待といった情報が行政にも報告され、どうしようもなくなるといった事態が起こります。

    • こうなった際に、善良な家族はなんとか理解をしてもらおうと試みますが、被害妄想に陥って、のべつくまなく中傷を繰り返す高齢者がいる場合、状況を改善することは不可能と思ってください

  2. ケアマネージャーが権限以外のことを行う場合は、かならず家族に相談をいれるように釘をさしておくか、できれば契約書のなかに盛り込んでおいたほうがいいと思います。

    • 上記しましたように、成年後見人や弁護士については特に注意が必要です。なお、ご家族がお金をとるなどという話をだされてしまうと、ご家族は成年後見人になることができなくなる事態ともなります。

  3. 介護をうけるご家族の言動がおかしいと思う場合は、できる限り認知症の専門外来を受診して、認知症であることを診断してもらったください。

    • まだらの認知症である場合、家族のことに関してはめちゃくちゃな言動であっても、外部に対しては非常にまともであったりして、誠実な家族がまちがった誹謗中傷をうける原因になることがあります。ただ、まだらに認知症である場合は認知症外来に連れて行くのも難しいのも事実です。

  4. 認知症外来にいけないのだとしたら、介護をうけるかたの言動などを映像や音声で残すようにしてください。

    • これは最低限の自衛策です。誹謗中傷だけであれば、手を引けばいいだけですが、万が一虐待や窃盗の容疑がかけられたりしたら、非常に面倒なことになります。

  5. 介護をする側は、できる限り仲たがいしないようにしてください。

    • 認知症をもったかたの言動は予想が付きませんし、外部にはまともなことを言っているようにみえるので、家族が困っていることは周囲の人間はあまり理解してくれないと考えてください。これは親族であってもです。

    • 血縁のものが足を引っ張る場合は少なくありません。できれば、前もっていろいろなことを相談しておくことで、防げる部分もあるかもしれません。

    • かならず理解してくれる人をそばに作ってください。

  6. もう駄目だと思った場合は、介護から完全に手を引いたほうがいいと思います。決して無理をしてはいけません。

    • 誠実な方ほど、ご両親の認知症が強くてどんなにひどいことを言われても、なんとかしてあげたいと思うかもしれません。ただ、かならず限界はありますので、決して無理はせずに、途中ですべて手を引くことを考えてください。

    • ご自身が追いつめられる事態は避けることが重要です。

最後に

 高齢者の介護は、本来すべてが善意で回っていなければなりません。ただ、そのなかに多数の問題を生じうるステップがあり、問題が起きないようにと法的整備もある程度なされています。ただ、現状においてはその制度は決して完璧なものではなく、今回記したとおり、たとえ誠実に介護に向き合っている方であっても、悲劇としか言いようのないことが起こってしまうのが現実です。これからの10年間の都市部はますます高齢者の介護を在宅で行わなければいけません。また都市部においては比較的多くの資産を保有する高齢者も多いことでしょう。きっと多くのトラブルが生まれてくると思いますが、事前にいろいろな情報を仕入れて、用意をしておく必要があると思っています。

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