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【歴史本の山を崩せ#018】『撰銭とビタ一文の戦国史』

《銭を通じて力強い民衆の姿を見出す》

平凡社のシリーズ「中世から近世へ」の一冊です。
分野の「重鎮」ではなく、比較的若い気鋭の研究者たちが従来の時代像の見直しに挑む好シリーズです。

タイトルのとおりテーマは貨幣…銭です。
この本が描く日本の中世から近世には「インフレ」や「デフレ」という言葉はありませんが、貨幣の流通によって物価が変動し、経済によって影響を与える現象は当然ながらありました。
理論としての近代的な経済学はなかったのに、ひとびとは経済の動きに対して驚くほど逞しく対応していたことがわかります。

歴史の授業ではときの為政者たちによる数々の経済政策が取り上げられます。
「政策」として定めるのは為政者だということは間違いないのですが、その実態はむしろ民間という「現場」から生まれて定着した慣習を追認したものが多いことがわかります。
現在の視点では少し理解しがたいことかもしれませんが当時の為政者たちは貨幣に関する政策にはそれほど関心を示さず、貨幣の鋳造に関しても丸投げに近い状態。
撰銭やビタなどというものを認めるような政策は、アンビリーバブルなものです。

教科書に描かれるような諸政策も為政者たちの利権に単を発するものばかりで、民間の経済活動への効果はむしろ二の次。
民衆の逞しさと為政者のしたたかさ。
貨幣を通じて描き出される歴史像は抜群に面白いです。

『撰銭とビタ一文の戦国史』
著者:高木久史
出版:平凡社
初版:2018年
定価:1800円+税

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