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ジョン・ケージ 作曲家の告白(著:ジョン・ケージ、訳:大西穣) 読書感想文

『4分33秒』とは、コンサートホールで演奏され、演奏家が空白の譜面を見ながら主体的に音を発することなく、聴衆は、環境音をメインとした様々な音を聴くという曲である。要はホールで4分33秒間皆が黙るという曲である。

この本はそんな『4分33秒』という20世紀を代表する前衛音楽を作った、現代音楽作曲家ジョン・ケージが自身の音楽遍歴を語った二つの講演を収録している。一つ目は1948年の「作曲家の告白」、二つ目は1989年、京都賞受賞により来日した際の「自叙伝」である。

ケージは、大学を中退した後、ヨーロッパで3年間絵画と音楽を学び、音楽の方に道を見出し、当時の大作曲家アルノルト・シェーンベルクに師事し、インドの古典音楽家ギタ・サラバイと出会う。しかしケージはシェーンベルクから作曲はできないだろうと言われてしまう。その時の応酬が面白い。

(引用者注:作曲できないとシェーンベルクに言われて彼に)「なぜなのでしょう」と尋ねると、「あなたは壁にぶつかり、それを突破することはできないでしょうから」と言われたので、「それではその壁に向かって頭を打ち付けることに人生を費やしましょう」と返しました。

p.71-72


そして、ケージは主に打楽器のための曲を書くようになる。そして次のような志を抱いて作曲し始める。

わたしが一番好きな音楽とは、まだ聴いたことのない音楽です。わたしは自分が作曲する音楽を聴いているのではありません。わたしは聴いたことのない音楽を聴きたいから作曲しているのです。(中略)
人々は固定化された理想の演奏とは関係なしに、振動する運動に注意を払っています。必ずしも同じことが二度起きるわけではないから、今回はどのようになるだろうかと一瞬一瞬に注意しています。音楽が、今、瞬間へと聴衆を移動させるのです。

p.96-97


また、元々建築家志望で絵画を描いていたこともあり、ケージは音楽だけでなく芸術全体に対する考え方も示している。

東洋世界で言われているように、無私に、つまり金や名誉を気にかけることなく、単純に作ること自体を愛することから作曲を始めるならば、それは統合的な活動であり、人はその一生の瞬間に、完璧で満たされていると感じるでしょう。ときに楽器を演奏することによって、ときに単純に聴くことによって、これが生じるのです。(中略)
このような満ち足りた時間こそが、音楽が人の精神を集中させる、つまりわたしたち自身が音楽へと還る瞬間なのです。それはなんと幸福なことなのでしょう。そしてそれゆえに、わたしたちは芸術を愛するのです。

P.49、51


今までの引用箇所を読んでわかる通り、ケージは「瞬間」を大事にした。人生の「瞬間」のために音楽すなわち芸術があるのだと。

芸術というものの傾向に関しては次のように釘を刺してもいる。

また、わたしは大量の聴衆や、後世のために自分の作品を保護することに関心がありません。最近、美学という哲学の一分野で「天才」、「自己表現」、「芸術鑑賞」といった概念が発明されたことは悲しく、嘆かわしいことだと考えています。

P.51

よく自分が使う言葉が全否定されていたので耳が痛くなった。
そしていかにも「瞬間」を大事にしたケージらしい言葉である。

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