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精神疾患患者と「当事者運動」の関係性について。

前回はちょっと荒ぶった記事を書いたので反省し、削除した。

今回は自分がかねてから考えていた精神疾患患者の主体的権利と「当事者運動」との関係性について、改めて考えてみたい。

当事者運動とは社会的マイノリティや障害者がいわゆる社会運動を起こして、社会に物申すことを指すのだが、これは社会学者の東京大学名誉教授上野千鶴子氏の造語らしい。

当事者運動について自分が読んだ本としては、岩波新書の上野千鶴子著「当事者運動」と、二松学舎大学准教授荒井裕樹氏の書いた「まとまらない言葉を生きる」の2冊だけなので、この著名な2名の本を参考にして自分の当事者運動についての考えをまとめてみる。まずは上野千鶴子氏の書籍から論評し、その後に荒井裕樹氏の書籍について考えを書き、最終的に結論に至りたい。

まず、上野千鶴子著「当事者運動」に関しては、社会的マイノリティと呼ばれる人々の社会運動全般を網羅した初の書籍としての価値は大きい。青い芝の会と呼ばれる当事者運動の代名詞と言える脳性麻痺患者の社会的権利獲得運動が代表的だし、その他のフェミニズムや(確かあったような)、他に筋萎縮性側索硬化症(ALS)の社会に適応する活動を求める動きなど、当時の社会的マイノリティの見取り図が書かれていると言っていい。もちろん精神疾患患者もある。この場合は本に書かれているように精神障害者と表記するのが正しいと思うので、以下精神障害者と表記する。

以上のように1980年代後半の社会的マイノリティの社会運動を上野(敬称略)はまとめたわけだが、その意味で社会の影に置かれた人々のその反対運動をクローズアップした価値は大きいと言える本で、価値は今も失われていないと思うが、一言異論を唱えておきたい。この本の中で精神障害者の当事者運動として何故か「べてるの家」が載せられており、個人的には「あれが主体的な当事者運動と言えるのか?」という違和感を禁じ得ない。あれは主体性のない精神障害者が主催者であるケースワーカー向谷地生良氏の言われるがままに生活する場所であり、当事者運動とは決して言えない。自分の調べたところ、日本の精神疾患の当事者運動の発端は、全国「精神病」者集団だと記憶している。今でも活動しているが、活動実態は不明である。確か内部分裂があって「絆」という団体と分かれたはずだ。

さて、次に障害学者の荒井裕樹氏の著書「まとまらない言葉を生きる」について書いてみるが、荒井氏が(以下荒井)が若い頃に脳性麻痺患者の社会運動団体「青い芝の会」の付き人のようなことをしていた時期があり、内容はそのことが中心だ。他には相模原障害者施設殺傷事件の件も書かれていて、荒井なりの障害者観がまとめられている。

しかしながら、この本にも失笑とともにかなりの違和感を覚える。荒井の描く精神障害者像は就労支援施設B型で妄想幻聴カードとやらに興ずる人物たちのようなものだ。自分の体験した様々な社会経験を体験した大人としての人物像は全く描かれていない。僕はそこに激しい違和感を持った。

上野も荒井も精神障害者には意思も主体性もなく、くだらない指示に打ち興じる人々として描かれており、これには強く反論しておきたい。いわゆる北海道浦河町の「べてるの家」が喧伝した、主体性のない精神障害者像が独り歩きし、上野も荒井もそれに流されている感がある。

それと、些細な記述だが、上野の「当事者運動」には筋萎縮性側索硬化症の女性は患者と書かれ、精神障害者は障害者だ。どちらが主体的で意志的な行動を取れるか考えれば分かりそうなものだが、社会学者の上野は語彙の語感に疎いらしい。しかし、ALSも今では難病として障害者とされているから、障害者というカテゴライズには厚生労働省の恣意的な考えが混ざり込んでいると思う次第だ。

以上を書いてきて思うのは、社会学者や障害学者ですら精神障害者を主体性のない無力な人々として描いており、自分が30年前の入院中に出会った県庁職員や消防官、スーパーの店長や柔道整復師の方々は認識されていないらしい。もちろん、いわゆる反社会勢力の人々とも一緒の湯船に入浴した。

結論として、今では厚生労働省のホームページ上に、心の病は誰でも掛かる可能性があり、一生の間に五人に一人がかかる。それに5大疾病であると書かれているのだから、推測として世の中のありとあらゆる年齢の、ありとあらゆる職業の、ありとあらゆる社会階層の人が精神疾患を患うと考えて間違いないだろう。時折新聞やネットニュースに流れる公務員や教員の精神疾患による休職者数調査を見てもそれが伺い知れる。

自分の社会運動的な意識は横に置くとしても、そろそろ以前のような精神障害者像は変更したほうが良いと思っている。実体験からそう思うので、別に上野や荒井の本の価値を減じたとしても、それは自分にはどうでも良いことだ。


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