目醒めー記憶喪失、歩行不能、嚥下障害を経て/SLE(全身性エリテマトーデス)という難病とともに生きる(28)

<2018年3月> 

 ついに待ちかねていたリハビリセンターでの初診の日となった。簡単に入院の経緯と現状を確認する質問を医師から幾つかされ、意思疎通などは問題無いが、文字の書き取りや暗算などが即座に出来ない状態になっていた事、とは言え、ドリルを続けており、徐々に記憶が蘇っていく感覚がある事などを伝えた。また、傷病手当の支給が遅れていることからも、早く復職したい意向を伝えると、流れとしては、数回に渡って心理テストや知能テストの様な事が行われ、運転のリハビリの許可を与えられるかどうかすら、その後の判断となると説明された。そして、運転のリハビリまで完了するには、教習所でのペーパードラ イバー講習と同じ内容の課題をクリアしなければならないので、少なくとも2、3ヶ月は 掛かってしまうとの事で、私はまたも落胆したのであった。何故なら私の通勤や業務上の移動には、マイカーの運転が必須と言っていい状況だからだ。
 実は、この時点で、私は既に愛車のエンジンの始動や自宅の周囲を回って、駐車するぐらいの技能の確認は済ませていた。妻からは、高次脳機能機能障害と運転の関連性について、真剣に読むようにとネット情報を送られていた。だが、そもそも年老いてもいな い、身体マヒも無い、無事故無違反で通していた私が、運転を止めさせられる謂れはない、と言うのが私の本音だった。リハビリは、あくまでも任意のもので、高齢化社会によって増加傾向にある自動車の運転に関係する不慮の事故を防ぐ為にも、各自治体で実施を推奨しているものだ、と記事で読んでいたからだ。但し、一部の特定の病気に関しては、実際に平成26年に道路交通法が改正され、免許更新時に、公安委員会への申告することが義務化されていた。だが、 私自身、これには当てはまらない、そう自己判断していた。そして、この事が、全てが上手く行きかけていた私たちの関係に、大きな波紋を呼ぶ事となるとは、この時の私は考えつきもしなかった。

平成26年に道路交通法が改正され、運転免許の更新時に健康状態について、公安委員会に申告することが義務化された。改正前から病気に関する申告欄はあったものの、任意記入かつ虚偽申告への罰則もなし。それが、道交法改正により回答は義務となり、虚偽申告をした場合の罰則(1年以下の懲役、または30万円以下の罰金)も設けられた。対象となる病気は以下の通り幅広い。 
・統合失調症
・てんかん
・再発性の失神
・無自覚性の低血糖症
・そううつ病
・重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
・その他自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気
・認知症
・アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒

出展:病気のあとも安心してクルマを運転するための手続きートヨタ自動車のクルマ情報サイト
【高次脳機能障害と運転】
自動車運転には高度な脳の働きが必要です。正確にハンドル操作を行いながら、ちょうどいい力加減でアクセルを踏み込む。道路の状況を十分に把握しながらブレーキやウィンカー操作を行う。飛び出してくる自転車や車に瞬時に気付き、とっさに適切な操作を行う。これらの動作は、脳が多くの情報を「同時に」「すばやく」処理しなくてはいけません。身体の麻痺がなく、日常生活では問題なく過ごしている高次脳機能障害の方でも、運転となると、より高度な能力が必要とされるため、問題が生じることがあります。例えば、反応が遅れることでブレーキ操作が遅れる、注意障害により左から来る車に気づけない、一時停止の看板を見落とす、気づくとスピードが出すぎているなどです。加えて、自分自身の障がいについて気付きにくいということも高次脳機能障害の一つの症状です。これにより、自分では「大丈夫」「病気の前と変わらず出来ている」と思い、十分な危機感のないまま運転を行ってしまうこともあります。

【運転再開にあたって】
運転を再開するかどうかは、最終的にはご本人やご家族の自己判断に委ねられています。しかし、高次脳機能障害は目に見えない障害であるがゆえに、ご本人やご家族が対応や判断に迷うことが多いかと思います。だからといって「なんとなく」運転を再開してみるのでは危険です。様々な検査で細かく評価し、実際の運転動作についても十分に確認するという取り組みは、時間もかかり一見面倒に思えるかもしれません。しかし、事故が許されない運転については慎重な判断が必要です。

出展:高次脳機能障害の方の自動車運転ー亀田グループ医療ポータルサイト

 数日後、私たちは、子供のためのイベント目当てで、遠方に出かける予定でいたが、そのスケジュールは少し漠然としていた。同行する予定の無かった私の母は、それならばと美容院に行ってくると言って、私の車で出かけた。
 朝食と支度や家事を済ませて、妻と出発時間についてやり取りをすると、その時間が思ったより早かった。母に使われている車が手元に戻るには、少々厳しい時間だった。
 私は、一旦、妻とのやり取りを中断して、 母に電話を掛けてみたが、既にカットに入っているのか母は出なかった。再び妻に連絡すると、ひとまず子供たちのスイミングが終わったら、真っ直ぐこちらに来ると言うことで電話を切った。

 私は、30分以上も為す術もなく待つ事になるのはどうかと思い、上着を羽織って玄関に向かうと、ラックから折りたたみ自転車を降ろした。母のいる駅前の美容院へ向かったのだ。3月とは言え、 顔に刺さる風は、かなり冷たかった。
 中に入ると、カット中の母が、鏡の前に座っていた。店員に会釈して、母に急遽自分の車が必要になった事を伝えて、鍵を受け取った。そして、出がけに代わりに妻の車を駐車場に置いて、鍵も渡しに来るからと伝えた上で、店を後にした。
 店を出た私は、駐車場で待つ愛車を見つけ、自転車を畳んでトランクルームに積んだ。そして、エンジンを始動し、すぐに自宅へと戻った。
 心の中で、運転の感覚に以前と違うところが無いことへの安心感を味わいながら、自宅の縦列方式の駐車も卒なくこなし、家の中で待機した。

(続く)

ありがとうございます!この様な情報を真に必要とされている方に届けて頂ければ幸いです。