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ミドルキャリアの思考方法とは?~新卒入社した大手企業に16年勤め上げて課長目前だけどいまだに確固たる自信がない~【キャリアストーリー解説編③】

こんにちは。堀内猛志です。
前回のnoteでは『ミドルキャリアで苦悩する人のメカニズムとは?~新卒入社した大手企業に16年勤め上げて課長目前だけどいまだに確固たる自信がない~』というキャリアストーリーの解説編②を書きました。

30代後半に来て、ようやく自分のキャリアについて向き合う必要が出てきた太郎。キャリアとしてはミドルですが、これまで自分のキャリアを新卒入社した企業の外に向けることなど考えていなかったため戸惑っています。そのメカニズムを上記の解説編②で伝えています。

今回は、もう一歩進んだミドルキャリアの思考方法について解説していきます。


リスキリング(インプット)よりも『アウトプット環境に身を置くこと』が先

悩んだ太郎は自分のキャリアに答えを見つけるべくMBA取得というリスキリングの道を選びます。しかし、これが大いなる間違いであることをお伝えします。

太郎に限らず、現在はリスキリングを行うことが重要だという風潮が強いです。リスキリングは大事なことです。ただし、大事なのはリスキリングを行う目的です。この目的がぼんやりしたままリスキリングを行っていても、意味のある結果になりません。ぼんやりした目的とは「成長」を目的に置くことです。成長はあくまでもプロセスです。成長した先にどうしたいのか、どうなりたいのか、を考えるのが目的です。ボディビルダーならともかく筋トレ自体を目的に置く人はいないですよね。必ず「痩せる」「モテる」「体系を維持する」などの目的があるはずです。そして、その目的によって筋トレの仕方も違ってきます。リスキリングを行う人のほとんどは目的を筋トレというプロセスにしているので、途中で大事な問いに気づいてしまうのです。

「筋肉はついたけど、結果、自分はどうしたいのか?」

MBAという道を選んだ太郎にも同じことが言えます。太郎と同じ境遇にいる読者の為にも海外MBAと国内MBAの違いを図解化します。

海外MBAと国内MBAにおける目的と結果の違い

海外、特にアメリカでは労働環境における階層がわかりやすく違います。大きく3階層に分かれており、それによって働ける環境や報酬が目に見えて違います。下の階層にいる人間は基本的にはずっと下の階層で働くことになります。この階層を超える方法こそがMBAです。MBAによって経営を体系的に学び、優秀な成績をとって卒業したという事実を持って、未経験職種に飛び込む権利を得ることができます。ゆえに、MBAとは切符的役割を果たしているのです。

一方、日本ではどうでしょうか。国内MBAに入学する人のほとんどが日系大手にいるミドルキャリアクラスの人材です。私もMBA取得中に同期メンバーに取得目的を聞きましたが、総じて答えは「何となく」でした。まさに前回のnoteで説明した「私事」から「志事」への移行期間中の人が多く、自分の中の悩みを言語化し、自分の中で整理できていないことから、MBA取得にてその答えを求めているようでした。

まさに上記の図の遊びを埋めるためのMBAになっていて、海外MBAとは真逆です。さらに、労働階層やジョブ型雇用によるスキル定義がちゃんとできていない日本社会では、MBAを取得した人材を貴ぶ会社はほぼありません。ゆえに、転職に有利に働くわけではありません。しかも、学習によって能力は向上し、また、仲間からの刺激によって視座があがってしまうため、より今いる環境への不安が募るという結果になります。

日本人は盲目的に真面目なため、幼少期から目的もなく学習をし続けることができます。優等生と呼ばれる人たちはその典型でしょう。しかし、積上げたら勝手にゴールに近づくなんてことがあるはずありません。どんな場面でもゴールを決めてからスタートするという順番が前提であり、逆はないのです。太郎、または太郎に近しいペルソナの人に伝えたいのは、アウトプット環境(ゴール)を決めてからインプット(リスキリング)を始めましょう、ということです。

以前のnoteでこちらのグラフを紹介しました。

転職希望者と転職者の推移※総務省「労働力調査」より引用

転職希望者の増加に対して転職者が増えていないということがわかるグラフです。転職というアウトプットができないモヤモヤ人材(転職希望者層)を狙っているのがリスキリングマーケットです。リスキリングを行う企業のほとんどが「なりたい自分」という非常に抽象的なゴールを魅力的にちらつかせてあなたに近づいてきます。この「なりたい自分」という何ともふわふわしているけど甘美な匂いがするキラーワードに負けないようにしてください。

適切な葛藤を続けることで『キャリアアイデンティティ』が形成される

誤解のないようにお伝えしますが、リスキリングもMBA取得も否定しているわけではありません。私と一緒にMBA取得のために学んでいた仲間の中には、きちんとゴールを見据えて学んでいる人もたくさんいました。目的(アウトプット)がないまま始めることに対して警鐘を鳴らしたいのだということを改めて伝えておきます。

とは言え、新卒一括採用、年功序列、終身雇用、という日本型労働環境の名残がある大手企業で育った人材に、自律的にゴールを見据えて成長環境を自ら獲得する考えに及ぶのが難しいこともまた事実でしょう。

そういう人に伝えたいのが、キャリアアイデンティティの確立と言う労働市場における自分自身のポジショニングを理解する方法です。ここからはその方法についてお伝えします。

キャリアアイデンティティとは、個人が職業の選択、及び職業生活を通じ、自我同一性を確立していくという考えです。心理学者のジェームズ・マーシャによると、アイデンティティ獲得の過程には、個人が経験する「危機」(crisis)「傾倒(関与)」(commitment)の経験が重要であるとしています(同一性地位の理論)。

1.危機(crisis)
自分に対する激しい問い直しと葛藤、進路の模索が行われる「危機」の段階

2.傾倒(関与:commitment)
その後の、自身の選択した領域や職業に対する思い入れや熱心な参加といった「関与」の段階

「危機」と「傾倒」というとピンとこないと思うので、堀内流に言い換えます。

1.危機(crisis)
☞自分の今の現状に対して『これでいいのか?』と問いかけ、市場価値と照らし合わせて俯瞰して見た際に、足りないモノを見つけること

2.傾倒(関与:commitment)
☞自身を俯瞰して見つけた足りない部分を埋める努力を行い、課題を解決ではなく解消させ続ける中で『これでいいのだ!』と自己肯定感を上げること

図解化すると以下のようなイメージです。この2つを繰り返すことで、自身のキャリアアイデンティティが確立されてきます。

「これでいいのか?」と「これでいいのだ!」の繰り返し

そして、この2つの状態を縦軸と横軸にとりマトリクスに分解します。

キャリアアイデンティティ葛藤マトリクスを堀内流に変更

それぞれのポジションの状態を説明したのが以下です。

①同一性達成
「これでいいのか?」「これでいいのだ!」を両方バランスよく実施。自身のあり方とやり方に疑問を持ち、いくつかの可能性に関して熟慮し行動した結果、自身の解答を得て、それに基づいて前に進めている状態。
②モラトリアム
いくつかの選択肢に迷っているところで、その不確かさを克服しようと努力している。決定を延期している時点であり、決定を前に「これでいいのか?」が強まっている状態。
③フォアクロージャ―
「これでいいのか?」と自分に疑問を抱く体験が無く、「これでいいのだ!」と強く認識している状態。所属する企業や環境における目標と、自身の目標に不協和が無く、どんな体験も自身の持つ価値観を補強する役目を果たしている。ただし、自身の価値観を揺るがすような状況に弱く、思想の硬直性がある状態。
④同一性拡散
自身の方向性について主体的な選択ができず、途方にくれている。自己嫌悪と無気力、「自分がない」「自分が何者かわからない」「ばらばらの統一されていない自己像しかもっていない」という思考停止状態。

太郎の場合、③フォアクロージャ―という状態で30代後半まで疑問を持たずにキャリアを積んできて、思想の硬直性が起きつつある段階でした。そういう意味では、急転直下で②モラトリアム状態になったこともポジティブな体験と言えます。

このnoteを読んでいる皆さんも自分が①から④のどこにいるかを考えてみてください。④は相当早めに応急処置をした方がいいですが、①~③を繰り返しているのが一般的な状態です。そんなに深く悩む必要はありません。大事なのは「これでいいのか?」と「これでいいのだ!」を繰り返すことです。

ただし、②と③を繰り返していて、一向に①に行けない人がいるでしょう。そういう人に足りないのが次の項で説明する「キャリア自律」の考え方です。

30代以降に求められるのは『自立』以上に『自律』である

「あなたは自立していますか?」と問われたときに、このnoteを読んでいる人であれば「Yes」と回答する人が多いと考えます。しかし、「あなたは自律していますか?」という問いには、一体、何人の人が「Yes」と回答してくれるでしょうか。

ここで改めて「自立」と「自律」の違いを説明します。

■自立
「能力」「経済力」「身体」などに関して、他者に依存せず行動すること。仕事上で自立している人とは、「仕事のやり方を習得し、仕事をして生活を維持している人」と訳すことができる。
■自律
価値観や信条、理念や哲学など個人の内的要素に関して、支配や制約を受けずに独り立ちをすること。仕事上で自律している人とは、「自ら仕事の目標を設定でき、仕事への価値や意義を見出せる人」ということができる。

自立とは外的要素、自律とは内面的要素での独り立ちと考えてよいでしょう。反対語の違いで比較するとわかりやすいですね。

自立と自律の違い

ミドルキャリアの人であれば、「能力」「経済力」「身体」などに関して、他者に依存している人はほぼいないでしょう。しかし、会社の意思に関わらず、自ら業務の目標を設定し、仕事への価値や意義を見出せているかと問われると「No」の人が多いのではないでしょうか。

ここで面白いのは、ミドルキャリアの人とは対照的に、Z世代と呼ばれる若い人たちは「自立」してなくても「自律」している人が多いということです。能力が追い付いていないので一般的な社会人としてのスキルを持って経済的に自立はできていない大学生でも「自分はこうだ」という強い自己規律を持っている人はたくさんいます。

例えば、あのちゃん。あのちゃんは大学生はないし、自立していると思いますが、あくまでも自律の極端な例としてあげます。

aucfanより引用

「ぼくはお菓子しか食べない」と公言しています。そしてそれが「自分にとってのストレスフリーの生き方だ」と言っています。

あのちゃんはひとつの例ですが、他にもタレントさんの中で、大御所芸能人にもタメ語を話す人や、恋人の有無を公言する人が増えましたよね。一昔前ならそういう人は受け入れられず、メディアに出る前に粛清されていたと思います。しかし、そういうことがどんどん社会に受け入れられてきているからこそ、メディア露出も増えているのではないでしょうか。

これは以前のnoteで書いた多様性の世の中だからこそできることです。マイホームもマイカーもいらない。お金を使うことはやらない。YouTubeやSNS、その他フリーミアムのアプリを使えば、課金せずに自分を表現し、稼ぐことができる。こういう世の中であれば、自立していなくても自律できている人の方が生きやすいはずです。

このようなZ世代からはミドルキャリアの人材はどう見えているのでしょうか。会社の目標に仕えることは「自分」がない、家族の為に頑張っていることも「自分」がない、言葉にこそしないものの、このように見えているために、早めにこのゲームから離脱して自律した世界で生きようとする20代社員の離職が増えているのではないでしょうか。

※「自分で生計を立てれていれば自立ではないのか」と突っ込まれそうなので補足すると、それは自立ではなく自活だと考えています。

煽るような書き方をしてすみません。私自身も昭和生まれの人間です。なので、自立し、他律の中で生きる人を否定しているつもりはありません。自社で定年まで勤め上げ、他律の中でトップを目指すことに何の疑問も持たず、フォアクロージャ―で生きている人も素晴らしいと思います。このメッセージを届けたいのは、モラトリアムの状態で、このnoteを見ながら危機感を覚えている人に向けてです。

40歳目下で残りの人生をどう過ごそうか考える機会も増えたと思います。「自分の残りの人生を他律で生きていいのか」そう考えている人は是非キャリア・クラフティングを実践して欲しいと思います。

メカニズムの解説と思考方法の解説を行ってきましたが、一歩目の実践方法がわからないと思いますので、次回は実践の一歩目であるリフレーミングの実践を解説しようと思います。


自身の常識をリフレーミングしたい方、太郎のようにリアリティショックからキャリアが見えなくなった方は以下よりご相談ください。

自分のタレントを本業以外の場面で活かしたい、キャリアクラフティングを実践したいという人はこちらからご連絡ください。

それでは今日も素敵な一日を!


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