見出し画像

家と家系に纏わる奇談集!『屋敷怪談』(影絵草子/著)著者コメント(怪談)&収録話「砂かぶりの家」全文掲載!

踏み入れたら凶、棲んだら終わり――家と家系に纏わる怪異談!


内容・あらすじ

建物の仕事に携わる著者が長年かけて聞き集めた「家と家系」に纏わる怪異談。

・家を渡り歩き、住人の記憶を操作する謎の人…「あがたさん」
・押入れに棲むもう一人の母と呼ぶ何か…「母のぬけがら」
・死にたい人だけが見つけられる遺書の家…「たがねさんち」
・旧家の厠に棲み3回だけ質問に答えてくれる神…「厠坊主」
・家に仮の弟が出現し預言を行う日…「まくれる」
・成人前の一族を住まわせる度胸試しの家…「護神の御座す処」
・福の神を見つけたら殺す掟のある家…「福の神を殺す話」
・お母様と呼ぶ墓石を仏間に祀る家…「墓になった実家」
・家の中に突如現れる真っ白な異空間の正体は…「百足部屋」
・家長の魂を代々移し替える家…「影の座」
・砂が湧き、家も人も砂に埋もれていく家…「砂かぶりの家」
・お盆の時だけ家の中で子供が消えてしまう家…「迷い盆」

他、奇妙で空恐ろしい魅惑の64家の怪!

著者コメント

〈ようこそ家怪談のワンダーランドへ〉
 たとえば動物にも虫にも必ず家は必要である。
 動物であれば縄張りや習性によって巣をつくったり自身のテリトリーをつくるものだ。
 虫の場合も同様で、庭先に蜂が巣をつくっているのを見たことがあるが、蜂にも家族や仲間がいる。
 私たち人間には鉄筋や木造でつくられた家がある。時代ごと用途ごとに様々な形態の家がある。衣食住のなかで〈住〉は大きな意味を持っている。
人が住まう家には、べつの何かが〈棲まう〉こともあるのだと本書に記録された64の話が教えてくれた。
 家をつくるには先ず図面を書いて骨組みや土台をつくり、コンクリを流して柱やドアや窓をつける。マイホームであれば南向きに子供部屋をつくろうとか、ここに風呂やトイレを置こうとか、夢の家・理想の家は人の数だけあるだろう。
 怪談を紡ぐということは、この家を造る過程に似ている。
 鉄筋や木材の代わりに、恐い話や不思議な話を聞いてそれを文字に起こし証言と推測を組み立ててひとつの話としてまとめ上げる。
 怪談も家同様、土台(話の骨子)がしっかりしていないと建物自体のバランスや強度(怪談の信憑性や恐怖度)にも影響してくる。
 だから構成は緻密に、かつ丁寧に行わなくてはならない。
 今回、家怪談を書くにあたりもっとも気を遣ったのは、どのような構成、ないし構造にしようかという点である。まさに家を造るように図面を引いて、〈建築〉にあたった。
 怪談には導入がある。それを入り口とするならば怪談の出だしは玄関だ。 窓やドアは次の部屋やどこかにつながる伏線ということになる。庭に面した窓なのか、部屋につながるドアなのか、実話怪談の可能性を追求する作業は難しくもありいつでも楽しいものである。
そうして苦労と苦悩の末出来上がった家がこの〈屋敷怪談〉である。
 怪談取材をしていると、様々な人生を抱えた人に出会う。
 仕事柄、家怪談が聞ける場に立ち会えることも多い。
 人同様、その器たる家にもまたドラマがあり、様々な感情が入り乱れ、それらが生き物のように静かに呼吸し、群れ集まり、業をなし、歯車のように忙しく廻転し渦巻いていく。
 怪異はそこにつけ入るように静かに舌なめずりをしている。取材にいたっては家から家を渡り歩くように様々な人物に協力をあおいだ。知人友人はもとよりSNSのリスナーさま各位。
 さて一冊出来上がったところで家探しの旅は一度終わらせていただく。
また途方もなき家探しをする日を、まだ見ぬ恐れの家を私が訪ねていく日を、今か今かと待っていてほしい。
 代わりに、最近聞いた興味深い家怪談を〈0家〉として二本書いておくことにする。お楽しみいただきたい。

未収録怪談—第0家 異なる二つの似た話

 「足引き」

 この話は埼玉県に住む伊丸岡さんが幼いときの体験から今に至るまで続いている怪異である。
「天井から手や足がにょきにょき生えてくるんですよ」
 生える場所は、居間だったり、客間だったり、台所だったりと移動するが、決まって天井から生えている。
 面白いのは足と手、あるいは手と手、足と足。
そういう2対の組み合わせでいつも生えてくるので、片方を引っ張ると片方が縮むように天井に引き戻されていくのが面白くて引っ張っていたが、ある日裸の脛毛の生えた男性のような足が二本天井から出ていたので、両足をつかんでよいしょと、そのまま真下に勢いよく引っ張るようにぶら下がると、二階からものすごい音がすした。
(ドテドテッ!)
という何かが階段から落ちる音がしたかと思ったらそれは父親であった。
 痛ぁっと思い切り顔を顰めた父親がひとこと、
「おい!オレの足を引っ張ったのはどいつだ?」と口走って、次の瞬間我に返ったように不思議そうな顔をした。
「あれ……? なんでオレそんなこと言ったんだ、たしかに見えない何かに足を引っ張られる感覚はあったが……」
と、心許なげに言う。
 それからは安易に天井から足や手が生えていてもけっして引っ張ることはしないのだと伊丸岡さんは言っていた。まさに足を引っ張る話ではないだろうか。

 「幽霊の立ち位置」

 立川さんの家には女性だけに憑く存在がいる。
 その憑き物は人から人へと渡り歩く存在で、女性の姿をしており、写真に写るときはたいてい被写体である女性の左側にいる。
 それも必ず一人で撮ったときにしか現れない。そして家族の中から気に入った女性に憑くのだという。
 そんな憑き物筋の家に生まれ育った立川さんは、当然のことながら写真が嫌いだった。女性が写るかもしれないのに写真を撮ることは、ただただ怖いものでしかなかったからだ。
 さらに恐ろしいことに、その女性が右側に立つと、立たれた人は死んでしまう。つまり、立ち位置が変わると死んでしまうという言い伝えがあった。
 そして、憑き物は亡くなった人の姿に見た目を変える。
 過去に右側に立たれて死んでしまった曾祖母は、亡くなるとその憑き物に姿を奪われ、祖母の代には亡くなったはずの曾祖母が幽霊のように左側に立つ写真になったそうである。
 右側に立たれてはいけない。
 立川さんはこの先も写真を撮るつもりはない。
 しかし、遺影にでも使おうと最後に撮影した写真には、右側に立つ祖母が立っていたそうだ。
 その頃にはもう祖母は亡くなっていたので、それは祖母の姿を借りた憑き物なのだろう。
 このことはいまだに娘には話せてはいないのだと、娘には言わないことを条件に私だけに話してくれた。 
 ただ、この話はもう何十年も前の話であり、今では立川さんは還らぬ人となっている。
 そんな話を立川和美さんという方から聞いた。

〈最後に…〉
読者に読まれてはじめてこの家は完成する。
どんな住み心地か、
それを聞くのを心静かに待ち望んでいる。
どうか本書がお楽しみいただけたなら幸いです。また続編でお会いするその日まで、さようなら。

1話試し読み

砂かぶりの家

 筆者の知人、後藤田氏が拾ってきた逸話である。
 目黒さんの実家は、不可思議なことが起きるのだという。

「あのね、たとえばお茶碗とか花瓶、箱とかね、要するに入り口があったり隙間があったりするものだけじゃなく、引き出しみたいなものにまで砂がパンパンに詰まっていることがあるの」

 年に数回だけど、そういう奇妙なことがあるのだという。
 どこから砂が運ばれてきたのかはわからないし、人の仕業じゃないことはわかっている。
 海が近いわけでも砂丘が近くにあるわけでもない、公園の砂場や、畑の近くでもない。
 キメの細かい黄色い砂が、壺だの箱だのに詰まる。
「砂」に呪われているっていうのも変だし、あまり聞かない。
 医者に聞いても頭のおかしな人を見るような目で見られるだろう。
 だから人様にはあまり言わないし、言えない。
 砂は、最初は小さなお猪口やお椀を埋める程度だったのが、やがて部屋全体を覆うまでになった。
 和室を開けようと朝、襖を開いた瞬間、隙間から大量の砂が溢れだし、ざらりとした感触が足元にまとわりつく。
 またもや砂である。
 住んでいられないと父母や弟妹は出ていったが、長女である目黒さんは祖父母と一緒に家に残った。
 しかし、朝、寝ている祖母がいつまでも起きてこないので見に行くと、口いっぱいに砂が詰まっていて整地されたようにきれいに平らに固めてある。
 幸い、砂が口を塞いだのは少し前のことらしく、奇跡的に吐き出させ事なきを得たものの家の最後は呆気ない。
 ある日、目黒さんは口の中や耳に違和感があることに気づいた。
 祖母のように砂が入っているらしい。
 気づいた途端、がりっと砂を噛む。
 慌ててぺっと吐き出すと、シンクに砂の固まりがずしゃりと落ちる。
 さすがの目黒さんもこれには参った。父母や祖父母と相談して、家を売り払うことに決めた。
 ただ、問題はここからである。
 目黒さんは確かに家族と話をしていた。
 売る、売らないの問答をしていた……はずである。
 父と、母、それから祖父母。弟と妹。
 会話の内容まで覚えている。
 しかし、気づくと日は暮れかけ、部屋の中に夕日の赤さがとろりと差し込んでいる。
 薄暗い部屋を一瞥すると、そこには畳に横一列に並んだ六個の土塊が人の形をなしてうずくまっているだけ。
 思い出した。
 自分は広い家に独り暮らしだったのだ。
 そう言って、無理やり話を着地させると、唐突に目黒さんは口をぐにゃんと歪ませて、コップの中に砂を吐き出した。
 それまで流暢に喋っていたので、口に含んでいたわけではないだろう。しかしながら、その日話を聞きに目黒さんの部屋に入ったときから、後藤田は奇妙な感覚に囚われていたという。
 それが何かはわからない。
 結局、持ち家だったその家は気味が悪いので売り、今のアパートに引っ越したというところで話は終わった。
 貴重なお話をありがとうございますと家を出る。玄関で靴を履こうとすると、じゃり、と足の裏に砂の感触があった。
 詰まっている。
 砂が、靴に。
 慌てて帰ろうとする後藤田に、目黒さんが、「またきてくださ」まで言ったところで、何かを噛んだようで、ばつが悪そうに笑って誤魔化していた。
 部屋を出たところで出くわした近所の住人が、眉間に皺を寄せながら話しかけてきた。
「あそこ、怖いでしょ。あの部屋ね、窓際にたまーに六人かな、知らない男女が立っているんだよね。彼女の家族かな」
 そんなことを言いながら気味悪そうに首をすくめる。何となくだが、あの六個の土塊を実家から持ってきたんじゃないかという想像が後藤田の頭をよぎった。
 と、そのとき。
 近所の住人のおばさんが、口をぐにゃんと歪ませながら何かを吐き出した。
「砂」
 そっとその場から笑顔で後ずさる。
 ただ、問題の実家のだいたいの場所は聞いていたから、どの地方のなんという町なのかまではわかると後藤田は言う。
 かなり山深い場所で、最近そこで土砂崩れがあったことを知る。
 ただ、彼女の売った実家も被害にあったのか、また無事なのか、それはわからない。
 しかしながら、また「砂」が関係してくるのである。
 ただ、なぜ「砂」なのか、皆目わからない。
 そういった不思議な話を以前、後藤田という友人を介して聞いた。


―了―

★著者紹介

影絵草子(かげえぞうし)

埼玉県生まれ茨城県育ち。茨城県在住。
趣味は怪談収集とホラー映画鑑賞。幼少期より怪談を収集し、数にして1000以上。主に人間の狂気や悪意、情念渦巻く怪談を好む。
怪談師〈マシンガンジョー〉としても活動。怪談最恐戦をはじめとする様々な賞レースやイベントにも参加し、執筆だけでなく語りにも飽くなき魂を捧げている。
2023年初の単著となる『茨城怪談』を上梓。

好評既刊


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!