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メモ 2021年のクーデターで一変したミャンマーの政治情勢

東南アジアのミャンマーでは2021年2月1日に軍部がクーデターによって権力を掌握しました。しかし、軍部の支配に抵抗する少数派民族は武装闘争を開始し、2024年2月1日現在に至るまで内戦が続いており、終わりが見えない戦いが続いています。

2020年11月8日に国連の支援で選挙監視が実施される中で投開票が行われた結果、アウンサンスーチーが率いる与党の国民民主連盟が連邦議会の上院で85%、下院で81%の議席を獲得しました。軍部を基盤とする連邦団結発展党の獲得議席は上院で7、下院で26にすぎませんでした。この選挙で大敗した軍部は意図的な選挙不正があったと主張する立場をとり、票の再集計、連邦議会の召集延期などを要求しましたが、これは受け入れられませんでした。

2021年2月1日に連邦議会が招集された当日に軍部はクーデターを起こしました。アウンサンスーチーをはじめとする国民民主連盟の指導者の身柄を拘束した上で、新たに設置した国家行政評議会に権力を集中させました。ここに選挙管理委員会を改革した後に改めて選挙を実施すると主張しました。しかし、職業団体や労働組合はこれに納得せず、クーデターに対して正式に反対の立場をとり、ストライキなどを実施しました。2021年4月16日にクーデターの正当性に反対する連邦議会の議員有志が中心となって国民統一政府を創設し、これをミャンマーの合法的政府と位置付けることによって、国家行政評議会の権力形成に対抗しました。

当初、クーデターに抗議する運動は非暴力的な形式で実施されていましたが、3月27日の事件で100人以上の民間人が軍隊と警察によって殺害されたことを契機として、次第に武装闘争の様相を強めていきました。9月7日に国民統一政府は武力で軍部を打倒する方針を公式に承認しています。国民統一政府の軍事部門としては人民防衛隊がありますが、その内部に編成されている部隊の規模や装備は一様ではなく、名目的に国民統一政府の指揮下に入っているだけの部隊も存在しています。

軍部の打倒という点で国民統一政府と協力する関係にあるものの、独自の政治的立場を主張する少数民族の武装組織が存在することも考慮しなければなりません。東部国境地帯に拠点を持つカレン民族同盟カレンニー民族進歩党、北部地域に拠点を持つカチン独立機構、西部地域に拠点を持つチン民族戦線は、国民統一政府と連携して軍部に対抗していますが、それぞれに異なる目的を持っており、その立場は軍部と反軍部という単純な構図で整理することができません。少数民族武装組織は独自の判断で軍部に接近することもあり、反対に軍部を裏切って武装闘争を実施することもあります。

ミャンマーの国内情勢についてこれから調査したいのであれば、まず長田紀之(2023)「2022年のミャンマー:二重政府状態下での内戦激化」を一読することを推奨します。政治情勢だけでなく、経済情勢も分析されており、オープンアクセスなので、論文はオンラインで入手可能です。中西嘉宏「不完全な民主化から困難な再権威主義化へ」は、ミャンマーの体制が民主化の流れから逆行する方向へと変化した理由を考察したもので、以前の権威主義体制に後退するという見方に疑問を投げかけています。英国の研究機関、国際戦略研究所のウェブサイトでは戦況の経過を知ることができる地図も提供されており、各地方の状況を把握する上で役に立ちます(IISS Myanmar Conflict Map)。

参考文献

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