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近現代の歩兵小隊の戦闘訓練の歴史的な変化を調査した『戦闘員』の紹介

1914年に勃発した第一次世界大戦では徴兵で集められた兵士がわずかな期間の教育訓練を経て前線に送り出されていました。しかし、現代の先進国の多くは志願制を採用し、より長期にわたって教育訓練を施してから戦地に派遣しています。

これは現代戦を理解する上で興味深い変化であり、ウォーリック大学のアンソニー・キング教授の著作『戦闘員:20世紀から21世紀の歩兵戦術と団結(Combat Soldier: Infantry Tactics and Cohesion in the Twentieth and Twenty-First Centuries)』で分析されています。

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著者は、20世紀から21世紀の初頭にかけて戦場の様子がどのように変化していったのかを分析するために、歩兵小隊を分析単位にしました。近代以降の陸軍の編制で小隊は中隊の下位、分隊の上位に位置づけられる部隊であり、歩兵小隊の場合なら勢力は30名から40名ほどであることが一般的です。

この歩兵小隊に焦点を合わせることによって、第一次世界大戦から冷戦を経て現代戦に至るまでの間に、どれほど小隊員に要求される技能の水準が高まってきたのかがはっきりと分かると著者は主張しています。

その分析によれば、第一次世界大戦の歩兵小隊が発揮できる戦闘力は基本的に大したものではなく、戦術能力に深刻な問題を抱えていました。これは、この時代の多くの陸軍が徴兵によって多くの兵士を集め、数の上で優位に立つことを重視していたためであると著者は主張しています。たくさんの新兵を集めていたので、一人ひとりに対する教育訓練にかけられたコストはわずかであるという問題がありました。

結果的に、実戦に際して役に立たたない兵士が後を絶たず、歩兵小隊が発揮できる戦闘力もわずかであったと論じられています。特に射撃の際に発揮できる火力の貧弱さが問題として指摘されていました。この問題を解決しようと、部隊の団結を高める手段として男らしさやナショナリズムに訴えかけることも検討されましたが、これらの対策は有効ではなく、戦闘効率の抜本的な改善にはつながっていません。

しかし、冷戦期に欧米各国で徴兵制から志願制への転換が進むにつれて、陸軍はまったく新しいアプローチを模索するようになりました。それは志願制によって優れた能力を持つ人材を選抜し、彼らにより大きなコストをかけて専門的教育訓練を行うことでした。この時期に注目すべきは一般の歩兵小隊でも近接戦闘(Close Quarters Battle)の訓練が行われるようになったことです。

もともと近接戦闘の訓練はテロ対策や人質救出を専門とする特殊作戦部隊で訓練されていた専門性の高い訓練でした。近接戦闘では、市街や屋内で兵士それぞれが周囲の状況を判断しながら、立ち位置や姿勢を選択し、敵や味方を正確に見分け、素早く射撃を実施しなければなりません。

近接戦闘においては、小隊長の命令や号令を待つことなく、それぞれの小隊員が独自の判断を下して行動しなければならないだけでなく、周囲の味方との連携の方法にも複雑な手順があるため、教育訓練に時間がかかります。しかし、これによって歩兵小隊の団結は強化され、戦闘射撃の効率は大きく改善することになりました。著者は時には近接戦闘の教練の内容にも触れながら、20世紀に進んだ歩兵戦術の発達とその影響を詳細に分析しています。

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