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『NTT法』改正に見る「これからの通信」とは②

疑問②:別会社を立てた後の経営をどうするのか?

疑問①を抜きにして「特別な資産」守る方向で進めるとしても、気になることはある。

ソフトバンクの代表取締役社長・宮川氏が今回の「特別な資産」を扱う上での解決策として提案した内容が興味深い。それは「「特別な資産」を運用しているNTT東西のアクセス部門という所を分離し、各通信大手と政府からの出資による公益事業会社として別会社化するなら、NTT法の廃止には賛成」というもの。
つまり、NTTだけの資産となっている電柱や局舎を一度国に返還し、大手4社と政府のお金で作った会社で運用していいというのであれば文句はない、ということだ。

この公益事業会社は通信大手4社(ドコモ、au、ソフトバンク、楽天)の均等出資と政府からの出資によって設立し、国が監督しながら運営される企業という位置付けになる。これであれば、NTT法改正時の「特別な資産」の扱いについて不平等が起きることはない。以上がソフトバンクからの提案だ。

たしかにこれなら、公共の財産でもある電柱や局舎は国の監督下で平等に運用されるからNTT以外の通信事業者も不利益は被らない。NTTは元々の資産を開け渡すことになってしまうが、「元々、公共の財産だった」と割り切れば妥当だろう。

しかし、私が気になるのはその後。「別会社を作った後の経営が果たしてうまく回るのだろうか?」ということだ。

各通信事業者の均等出資で会社を建てるということは、株主も当然分散されるとこになる。そして監督責任を負うのは国。そうなった時に、迅速な経営判断やサービスの改善に対するモチベーションなどが、果たして社員に沸くのだろうか?

大手4社の均等出資による会社を新たに設立した場合、想定される経営上のリスクとして考えられるのは2点。サービスや競争力の低下とセキリュティリスクの複雑化だ。

サービス・競争力の低下に関して具体的に挙げると、例えば技術統一の困難さ。各事業者が独自の技術や基準を持っていた場合、それらを統一して運用していくのは難しいのではないだろうか?
なぜなら、その技術や基準があるから今まで利益を上げられていたのに、それを統一しようとしたら、どの技術や基準を採用するかで議論し合わければならない。その結果中途半端な電柱や局舎が作られてしまったら、サービスの質やイノベーションのペースは低下してしまうだろう。

他にも、以下のリスクが考えられる。
・すべての事業者が均等に出資した会社に対して独自の競争優位性を築くモチベーションが湧かないという理由から投資意欲の低下を招くおそれ。
・複数の事業者が関与することによる経営上の意思決定の遅延。
・均等出資したことで各事業者の独自性や特色を持つサービスの提供が難しくなることで、サービスの均一化して競争力の低下を招くおそれ。
・各事業者の持つセキュリティポリシーや技術が異なっている場合、それを統一して一つのセキュリティに落とし込むのが難しく、結果的にセキリュティ管理が複雑化してハッキングされやすくなってしまうのではないかという、セキリュティの複雑化。

このように、大手4社の均等出資で設立された公益事業会社は、通信事業ならではの経営上のリスクにさらされる可能性が高いのだ。
4社は常にシェアを取り合っている状態。事業者同士が手を組めるならいいが、通信の場合そうはいかない。なので、別会社を作ったとしても、その後の経営が上手くいかなくなるケースを想定しなければならないだろう。
万が一にでも倒産などしてしまえば、尻拭いは大手4社と国がすることになり、経営状況によってはこの会社そのものが全事業者のお荷物になりかねない。

NTTのアクセス部門を分離して均等出資で別会社を建てるというのであれば、建てた後の経営方針をどうするのかまで議論する必要があるだろう。
もっとも、疑問①で挙げた「衛星ブロードバンド」が普及すれば、会社自体、必要なくなってしまうかもしれないが…。

通信事業者が今、どこで、何をしているか

今回はNTT法の改正に関する議論の問題点に関して解説してみたが、多くの人にとって、きっと理解が難しい部分もあるだろう。通信事業者がどんな経営をしていて、そのルールがどう変わりそうかなんて、ほとんどの人にとっては関係ないことに思えてしまうからだ。

しかし、通信事業者の経営や法律によるルールが変わるということは、それそのまま私たちの普段払う通信料金に直結する。それは携帯端末の通信料金もそうだし、家庭設置しているルーターに対してもそうだ。これで、どこかの事業者が「設備にもっとお金を使うので通信料金高くします」なんて知らせがあったら、その事業者のキャリアを使っているユーザーにとっては死活問題だろう。逆に、「通信料金安くなります」という知らせをした事業者がいれば、その情報をいち早くキャッチして乗り換えることもできる。

ともかく私が言いたいのは、こうした一つ一つの情報を噛み砕いて調べてることで、より賢く生活することができるということだ。
それは単純に支出に関することかもしれないし、あるいはサービスの質に関することかもしれない。いずれにせよ、流れてくる情報を一歩前に出て眺めてみるだけで、皆さんにとってより良い生活スタイルを見つけることができる。

なので、ニュースに少しでも興味が湧いたら、1mmだけでも踏み込んで調べてみてほしい。それが結果的に、皆さん一人一人の生活を豊かにすることに繋がるはずだ。
今回の記事がそのための一助になれば嬉しい。

以上。
すべての知に「幸」あれ。


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