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『ゲストハウス有鄰庵』を閉業する話と僕が作りたい会社像の話

こんばんは。
倉敷の美観地区で『株式会社行雲』という会社をやっている犬養といいます。

私たちの会社は、倉敷の美観地区を拠点に、ゲストハウス、カフェ、ライフスタイルショップ、手仕事の品にふれる宿、スイーツ店、日本料理店などをしています。

そのうちの『ゲストハウス有鄰庵』を閉業して、コンセプトはそのままに新しい取り組みを始めるお知らせを今週いたしました。

このnoteでは、このブログに僕の視点で少し補足をするような形で、『ゲストハウス有鄰庵』の閉業からの新しい取り組みへの話、そしてそれと関連して僕がつくりたい会社像の話をしたいと思います。

ゲストハウスを大きく二つに分類して話します

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まず最初に、以下で書く話を分かりやすく理解していただくためにも、ゲストハウスの運営形態について、大きく二つ分類をします。

・オーナーが現場に立ち、ほぼ個人+数名のスタッフで運営する形
・オーナー(社長)は必ずしも現場におらず、社員/アルバイト現場にいて会社法人が運営する形

私たち『ゲストハウス有鄰庵』の場合は、後者です。
『有鄰庵』を運営している会社が『株式会社行雲』で、会社としては他にショップ、形態の異なる宿、スイーツ店、日本料理店などをしています。

その『株式会社行雲』を代表する立場として、ここでは書かせてもらいます。

『ゲストハウス有鄰庵』を閉業する三つの大きな理由

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では『ゲストハウス有鄰庵』を閉業する理由なんですが、大きく分けて三つあります。

1. 新型コロナウイルス流行後の「新しい生活様式」にマッチしづらい
2. この2〜3年で倉敷のゲストハウスをめぐる環境が変わっている
3. スタッフにとってのキャリアプランと給与を改善したい

上記の有鄰庵ブログでは「1.のコロナウイルスによる影響」についてを主にお伝えしています。

もちろんそれも大きな理由なのですが、僕がゲストハウスを閉業することを考えていたのは、それよりももっと前からです。

それが2.と3.の話なのですが、では1.から順に説明します。

1.ゲストハウスという業態と「新しい生活様式」がマッチしづらい

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これは詳しく説明しなくても、おおよそ分かっていただけるのではないかと思います。

特にうちの有鄰庵は、「(リアルな場での)交流」が大きなテーマ。
基本的に相部屋(ドミトリー)で、夜遅くまで旅人同士が共有スペースで語り合うスタイルを特徴としています。

やはりそれがいま世界的に多くの人が感じている懸念とマッチしない、ということがあります。

これは有鄰庵ブログでもそのまま書いています。

厚生労働省が発表した「新しい生活様式」をふまえ、私たちのように対面やドミトリーでの交流を大きな特徴とするゲストハウスは、今後は宿泊施設として避けられていくと予想されるからです。
ゲストハウス有鄰庵のコンセプトは、『えんをひろげる古民家』。
訪れる旅人さん同士だけでなく、スタッフ、地元の方、人の交流を大切にしている、まさに「密」が伴うゲストハウスです。
そのため、苦渋の決断ですが、ゲストハウスを閉めることになりました。
https://yuurin-an.jp/20200701_futureofyuurinan/ より

ただし、「えんをひろげる古民家」というコンセプトはそのままに、業態や形を変えるだけという風にも僕やスタッフは考えています。

今後、夜の時間帯は「地域を知り、世の中を学ぶ夜カフェ」という形での営業を行おうとしています。
(8月のお盆明けからスタート予定です)

2.ゲストハウスをめぐる環境の大きな変化

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日本にゲストハウスが増え始めて、もう4〜5年でしょうか。

特にこの2〜3年は、全国的にも、そして倉敷の中でも、ゲストハウスやホステルと呼ばれるような形態の宿が増えてきています。

そしてもう一つあるのが、単に数が増えただけでなく、異常なほど価格を安くする宿も出てきているんですよね。

「単純に数が増えたこと」と「安売りをする宿も増えたこと」によって、ゲストハウスにとっての牧歌的な時代は終わってきたことをこの数年は感じていました。

その様子を見てきて、これはゲストハウスや宿泊業に限らず、いろんな方に伝えたいことが一つあります。

集客に困った、なかなか予約が入らないからといって、自社の予約システムやOTAで価格をかなり下げるという行為。

その行為自体はワンクリックで一瞬で済むかもしれませんが、それは中期的にみれば自分たちがいる地域と自分たちの宿の価値を落としていく、地盤を沈めていく自滅行為でしかない、ということです。

その値下げで、目先の売上は少し立つかもしれませんが、中期的なスパンで見れば、それは終わりの始まりでしかないんですよね。

しかもその「終わりの始まり」は、自分たちの宿だけでなく、その地域全体にも少なからず影響を及ぼしてしまうんです。

これは全く恨み言を言いたいわけではありません。
自分たちはそういった外的要因も見ながら、ただ自分たちがベストだと思う道を考えて歩むだけなので。

ただ、例えばある地域のある業種でそういったことが起こると、その特定の業種は焼畑農業のようになってしまうのは事実なんですよね。

3. スタッフにとってのキャリアプランと給与の話

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ここまで二つ理由を書きましたが、僕の立場からするとこの「スタッフのキャリアプランと給与の話」もとても大きな理由です。

最初にゲストハウスの大きな二つの分類を書きましたが、オーナーが自ら現場に立つタイプでない場合、大事なのはそのスタッフ。

もちろんスタッフの人選やリクルーティングも大事ですし、そのスタッフのキャリアプランや評価、そして給与の話もとても大事、ということです。

ゲストハウス関係者の方はお分かりかと思うんですが、ゲストハウスで働くスタッフの給与って、一般的にとても低いですよね。

しかも僕が気になるのは、その時点でのお金の面だけではなくて、その後に仕事をしていく上での社会人としての考え方やスキルが身につきにくい、ということ。

そのため、ゲストハウスでの雇用って、構造的に「若くてやる気のあるスタッフを雇い、給与面は抑えながら同じような仕事をしてもらい(日々訪れるゲストさんは変わりますが)、長くて2〜3年もするとそのスタッフは卒業する」という繰り返しが多いと思っています。

僕はここがとても気になっていました。
ここではその話を少し厚めにします。

人と接するのが好きな人ほど儲からないゲストハウスという業態

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今は「ゲストハウス」と一言で言っても、いろんなスタイルのゲストハウスがあります。

うちの『ゲストハウス有鄰庵』は、対面でのコミュニケーションにかなり時間をかけて行うスタイルでした。

それと真逆に、チェックインのときだけ会話をして、それ以降はチェックアウト時も含めてほとんどゲストさんと話す機会がない、というスタイルのゲストハウスもあります。

ただ、ゲストハウスで働きたいと思う人(若者)はたいてい「人と関わる、接するのが好き」というタイプなので、後者だと他の宿で働くのとあんまり変わらないということになってしまいます。

でもそうやってゲストさんとコミュニケーションをとる時間が長くなると、それだけ儲かりにくくなるというジレンマがあります。
(『ゲストハウス有鄰庵』の場合は、それを承知でそこに振り切ってやることを特徴にしていましたが)

また、上で書いた「社会人としての考え方やスキル」の面でいうと、ゲストさんとたくさん話すことでそれらが多く身についていくかというと、もちろん貴重な経験ではあるんですが、身につくものの幅がやや狭いんですよね。

余談ですが、これがキャバクラなどのように「コミュニケーションがそのままお金になって反映される」という構造だと、「社会人としての考え方やスキル」はもっと身につきやすいかもとは思っています。

No.1キャバ嬢のコミュニケーションスキルとか、どんな会社に行っても通用しますよね。

ただ残念ながらゲストハウスでのコミュニケーション訓練は、構造的にそこまでには至らないかな…と思っています。

楽しいスタッフとずっと一緒に働ける会社でありたい

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僕はこの会社の代表になって、ちょうど4年。

この4年間で最も力を入れたことの一つは、スタッフの採用と、そのスタッフが成長していけるための人事評価制度や社内の組織づくりです。

社員の平均給与は、僕が代表に就く前と比べておよそ150%アップしました。
(それ以前がどれだけ低かったのか…という話なのですが)

その給与面の話に加えて、「働いていて学べている、新しい仕事に挑戦しながら成長できている実感がある」という面もスタッフに感じてもらいながら、その結果「この会社にいたい」と思ってもらえる会社にしたいんですよね。

上で書いたように、ゲストハウスというのはそもそも儲からない業態なのですが、自分にとっては社内の部署として儲からないことが問題というよりも、そこで働いているスタッフにとって仕事の幅が広がりづらいことの方が気になっていました。

それらと給与の話はリンクする話でもあります。

つまり、「商品やサービスに対して付加価値やユニークさを与えることができる」ということがお客さんにとっての大きな価値になって、売上や利益にも繋がる、という大前提があって、弊社の若いスタッフもそれがどんどんできるようになってほしいと思っています。

そのために会社が用意できることは、人事評価制度や社風というベースの要素があった上で、そこに幅広くトライ&エラーをできる環境を用意してあげること。

スタッフ自身の今後のキャリアのためにもそういう風に付加価値を生み出せる人になってほしいと思っていますし、それは会社にとっての売上と利益にもなり、その分だけ給与にも反映させてあげたい、という話です。

もちろんそれを「ゲストハウスという業態の中でやってみればいいのでは」という話はあるのですが、それをスタッフとこの3〜4年間やってみたけれどもなかなか幅が広がりづらいなと感じており、その上で1.と2.で挙げたような外的要因があったために、閉業して違う形でやることにした、という流れなんです。

「人を繋げられること」はもっと価値を生める

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実際の例を挙げてみます。

うちの『ゲストハウス有鄰庵』の主力スタッフで、じっふぃーという愛称の22歳の女の子がいます。

この子はとてもポテンシャルがあると僕は思っていて、むしろこういう子を育て上げられなかったら自分の罪が重いと自分にプレッシャーをかけてるんですが、「人と人を繋げる」っていうことにとても才能がある子なんですよね。

ゲストハウスという業態でもその才能はいかんなく発揮していたんですが、それに代えて行おうとしている「倉敷や岡山にいる面白い人とお客さんを繋げられるイベント」や「人と人とを繋げることで生み出せる商品やサービスの企画」という面でもその才能は発揮できると思っています。

という風に、ゲストハウスという業態に向いている人の才能は、他の形でも十分に活かせるなと思うんですよね。
そしてもしかしたら、その方が地域に貢献できる総量は大きくなるかもしれない、とも思っています。

この話は『ゲストハウス有鄰庵』を好きでいてくださった方、リピーターの方には申し訳ない話でしかないのですが、その残念な気持ちを背負いながら世の中にさらに大きな価値を生めるように、じっふぃーとも一緒に頑張りたいと思っています。

『ゲストハウス有鄰庵』を好きでいてくれた方には感謝ばかりです

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最後に、『ゲストハウス有鄰庵』を好きでいてくれた方、お越しいただいた方に。

ここでは閉業して新しい形に移行する理由を書いたので、『ゲストハウス有鄰庵』を好きでいてくださった方には寂しい思いもさせてしまったかもしれません。

ただ、僕がお会いしたことがある方も、ない方も、皆さんには本当に感謝しています。
有鄰庵に来てくださって、そして美観地区に来てくださって、ありがとうございました。

今回のことは、じっふぃーたちとも話して決めたことで、私たちとしては全く前向きなものと捉えています。

『有鄰庵』での試み、取り組みは、僕のnoteや有鄰庵のブログ・SNSでもお伝えしていくようにします。
よかったら楽しみにしてもらえると嬉しいです。

それでは!

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僕個人のTwitterでも有鄰庵や会社のことをよく書いています。
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