ロシアでも、日本でも、紅茶が飲みたい(エッセイ)
紅茶が飲みたい。家で、外出先で、果ては海外旅行に行った先で、無性にそういう気分になったことはないだろうか。
私は紅茶がかなり好きで、常にカフェインを欲している。
ポットと茶葉で入れる紅茶はもちろん好きだが、ティーバッグで手軽に入れる紅茶だとか、ペットボトル飲料の紅茶も好きだ。
この記事では、ロシアンティーなど紅茶を飲む文化が根強くあるロシアに短期留学に行った際、色々な場面で飲んだ紅茶について書こうと思う。
その意味では旅行記としても読めるし、一介の紅茶好きな大学生のエッセイでもある。
(留学に行ったのは2019年9月で、当時の情報に基づいているため現在は事情が異なっている可能性があります。ご了承を。)
日常のティータイム
ロシアについた当日。同じ大学の留学生と一緒に入国審査や寮に入るときのゴタゴタを乗り越えたころには、昼ご飯にも夜ご飯にも微妙な時間帯だった。
そこで、寮の近くのスーパーで調達したティーバッグで紅茶をいれ、ティータイムと決めこんだ。
この写真を見ると、「日本とそんな変わらないじゃないか」と思うだろうが、実際は日本とかなり違う点がある。
まずはお湯である。日本なら、水道水をわかせばいいのだが、ロシアの水道管は経年劣化がひどく、水から鉄錆の匂いがして、沸かしてもとても飲めたものではない。
そのため、5Lの大きいボトルで売っているペットボトルの水を買い、それを(寮に電気ポットはなかったので鍋で)沸かして使っていた。水道がお茶にそのまま使えないのは、なかなか不便だ。
次にお菓子である。手前にあるジャム入りクッキーは、スーパーでプラスチックのタッパー入りで売られていたものを買った。
ロシアのスーパーには、日本ではよくある個包装に入ったお菓子があまりない。
だが、こういう手作り風のクッキーやケーキ、袋に詰め放題のキャンディなどはかなり多くあり、日本よりも種類が多い。
たまに衛生的に大丈夫かな、というのもあったが、味はおいしい(めちゃくちゃ甘いものが多い)。
お菓子でいうと、中央にあるсушка(スーシカ)はかなりロシア独特のものだ。スーシカというのは、小麦をこねて輪っか状にして焼いたお菓子で、日本の乾パンに似た味がする。
スーシカは「乾燥させた」という名の通り、かなりパサパサしていて、めちゃくちゃ硬い(お茶でふやかす食べ方が正解なのかな?)。
しかもこれはプレーンだったためかなり素朴な味(婉曲表現)で、売れ残ったので食べるものが無い時の非常食になってしまった。
後日買ったごま味のものは美味しかった記憶があるので、これからスーシカを食べる機会がある人は、ちょっと値段は上がるが味がついているものを選ぶといいだろう。
ロシアンティーの店に行く
寮で飲む紅茶もまあまあ慣れてきたある日。やはり本格的なロシアンティーが飲みたくなってきたので、ルームメイトたちとカフェに行った。
ロシアンティーというのは、伝統的には湯沸かし器 самовар(サマワール)で入れたお茶のことで、濃いお茶を湯で割って飲むものだという。
お茶を入れるカップはガラス製、ジャムやハチミツなどをなめながら飲む、といった特徴もある。
↑博物館に展示されていたサマワール。モスクワの百貨店でサマワール風のポットは見たが、実際に湯を沸かすため稼働しているものは見ていない。
お茶を飲んだ店は、観光客向けなのか壁に大きなマトリョーシカの絵が描かれていた店で、私は紅茶とチーズパンケーキのセットを注文した。
この写真でまず目を引くのは左手にあるカップだ。ガラス製で、通常のティーカップに比べ細長く、飲み口にかけて広くなる独特の形。
ロシアのカフェでお茶を飲むと(この店に限らず)熱い紅茶をガラスのコップに入れて出す傾向がある気がする。
その横にあるのはチーズパンケーキ、シルニキ(сырники )だ。少し硬めのカッテージチーズ(творог)を使った生地で、甘く、口に入れるとほろりとくずれる食感が最高だ。
帰国後、このパンケーキが食べたくなって、家で作ったことがある。日本のカッテージチーズはやわらかく、作るのが大変だったので、やはり現地で食べるに限るなと実感した。
そして忘れてはならないのが、パンケーキの手前にあるヨーグルトのような物体――сметана (スメタナ)だ。
スメタナというのは、生クリームを発酵させたソースで、サワークリームと混同されがちだがあまり酸味はなく、味はヨーグルトに近い。
さっぱりとした風味が肉や魚の臭みを消し、素朴な味付けのパンにはコクと甘みを与える、万能調味料だ。
私は留学中スメタナにはまり、ヨーグルトのように容器を抱えてそのまま食べたり(!)、スメタナをお茶請けに紅茶を飲んだりした。
↑スメタナは乳脂肪分20%前後のものが多い。スーパーにはスメタナが数種類置いてあり、食べ比べると味は全然違う。カロリーが高いので食べ過ぎ注意。
こうして丁寧に見ていくと、お茶の飲み方やお茶請けなど、ロシアでのティータイムは中々独特なものだということがわかるだろう。
日本にいると、イギリス風のアフタヌーンティーが飲める店はあるが、スメタナやスーシカ片手にお茶が飲める店は中々ない。
スメタナにしろスーシカにしろ、日本人には馴染みがない味で、好みも分かれるだろう(ルームメイトにもスメタナを好んで食べる人はいなかった)。
だが、もしロシアに行ったりロシアのお茶が飲める機会があれば、ぜひ挑戦してみてほしい。
今後の課題:ペットボトルの紅茶飲料
ロシアでの短期留学とそこで飲んだお茶を振り返ってみると、独特な食文化はありつつも、質の高いお茶がいつでも飲めるという環境は日本と変わらなかった。
ただし、そこそこ大きな違いとしてあったのは――市販の紅茶飲料、それも無糖の紅茶やミルクティーがあまりないことだ。
ロシアにもペットボトル入りのお茶はあるが、それは大概、フルーツのフレーバーがついた甘い紅茶(やグリーンティー)だ。
また、同じ甘い紅茶でも、ミルクが入っているものはほとんど見かけない。
ロシアにいる時は、気候的にも涼しくて冷たい飲み物への関心が薄かったのもあるが、そこまで気にならなかった。
日本のように道端のあちこちに自動販売機やコンビニがあるわけではないので、あまり紅茶飲料を買う機会もなかった。
だが今、日本で数多の紅茶飲料に囲まれていると、選択肢の少なさがより実感できる。
無糖、ミルクティー、レモンティー、フルーツティー。紙パック、ペットボトル、缶入りのもの、さらにはティーラテや濃縮タイプまで……
↑最近よく飲む濃縮タイプの無糖紅茶。個人的な感覚だが、日本でも無糖の紅茶飲料が増えてきたのはここ10年ほどだろう。
ネットで調べてみると、去年ロシアでペットボトル入りの無糖紅茶が発売されたというニュースを目にしたので、これから無糖の紅茶は増えていくのかもしれない。
もし今後ロシアに行く機会があれば、スーパーや自動販売機の紅茶飲料事情についても注目したいと思う。
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カルディの濃縮紅茶は本当においしいのでおすすめです。喫茶店の味です。(とらつぐみ・鵺)