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【本には書いていないランニングの知識⑥】大会前の禁酒はいらない?

自分は以前、大学病院に肝臓の専門医として勤務していました。
よく「肝臓専門医」というと、お酒の専門医と誤解されます。

そしてよくランナーに、
「大会前は、何日くらいお酒をやめたらいいの?」と聞かれます。

記録を狙うランナーはお酒なんて飲まないでしょ!
と思うかもしれません。

ですが実はランナーは一般の人よりよく飲みますし、
競技性の高い選手ほど飲むという報告もあります。

ではどのくらいやめていたらよいのでしょうか。

実はそんなことを研究をした論文はありません。
今のところ、自分の永遠の課題です。

なのでこんな質問に自分がどう考えて、どう答えたか、そしてどうなったか、現在はどう考えているかを書いてゆきたいと思います。

1.アルコールの影響がとれるのは、どのくらいの時間かかる?

お酒を常々飲んでいると、様々な体への影響が出てきます。
お酒を中止すると、少しずつそれが改善してきます。

少なくともマラソンを走るのに関係しそうな影響は、改善させた方がよいと考えました。
ではどのくらいで改善するのでしょうか。
一つ一つみてゆきましょう。

  1-1.電解質異常

電解質とは体の塩分(ナトリウムやクロール)やミネラル(カリウムやカルシウム、カルシウム、マグネシウム)のことです。

アルコール依存症のような重度のアルコール常飲者では、52%に電解質異常がみられたとあります。
主には低ナトリウム、低カリウム、低マグネシウムで、ランナーにとってはいずれもパフォーマンスに影響しかねません。

これは実際にアルコールを多飲して入院された方でも、臓器障害さえなければ大体5~7日で改善します。

  1-2.γGTP

酒飲みの一番気にする、肝臓の数値のγGTPです。
多くのお酒飲みの肝障害は、ALPが正常でγGTPが高値だと思います。

ALP高値+γGTP高値であれば胆汁うっ滞というのが原因となりますが30%未満と言われています。ALP正常でγGTP高値の場合は酸化ストレスが主な原因になります。

エタノール代謝により様々な活性酸素により肝障害がおこると言われていますが、飲酒をやめることにより活性酸素類は減少し、結果肝障害、特にγGTPは約2週間で半減⇒半減していきます。

活性酸素が残存していると、ミトコンドリアの働きが低下してエネルギーをつくる力が低下する可能性があります。また肝障害が残存していると、グリコーゲンを貯蔵する働きや、糖類をつくる働きが低下する可能性があります。

結果γGTPが正常化するのは、もともとの肝障害の程度によりますが、約1ケ月かかります。

  1-3.MCV

あまり知られていませんが、人によって飲酒によりこれらは上昇します。
要は「赤血球が大きくなる」んです。

この変化は、お酒で肝臓がだいぶ傷んだ人でも上昇したりしますが、
日本人の場合は圧倒的に、飲酒によりアセトアルデヒドが溜まりやすい人(要は飲むと赤くなる人)でおこると言われています。

飲酒をやめると2週間程度で赤血球がもとに戻り始め、2~3ケ月で元に戻ってきます。

ただランナーにとって大事な血色素(貧血の値)は変化しません。
なのでランニング能力は変わらないと思ってます。

ですが一言「こういう人はお酒で健康被害を起こす可能性が高いので、そもそも飲まないことを推奨します」

2.最適解は1週間くらい?と答えていたが・・・

そんな状況で以前は何と答えていたのでしょうか?
・電解質異常は1週間くらい?
(ランニングパフォーマンスへの影響大)
・活性酸素も1週間くらい?
(ランニングパフォーマンスへの影響中?)
・肝障害は1ケ月くらい?
(ランニングパフォーマンスへの影響小?)
・赤血球は2-3ケ月?
(ランニングパフォーマンスへの影響ない)
そんなことを考えながら、以前は可能であれば1週間くらいの禁酒をすすめていました。

  2-1.実際に止めてみた結果を聞いてみると

ですが1週間程度やめてみたランナーに実際聞いてみると、
もちろん良い結果を出した方もいましたが、残念な結果に終わってしまった方のほうが多かったんです。

毎日飲酒しているランナーが、気合で1週間も禁酒するんです。
なのでもちろん足はバキバキに鍛えていました。

なぜでしょうか・・・

  2-2.結論!

それは普段お酒をたくさん飲んで、
その状態で練習しているからなのかもしれません。
飲酒している体内環境で力を発揮するようにトレーニングしている・・・
そして突然の禁酒で生体バランスが変わったことで、走れなくなったのかもしれません。

要は
「慣れないことはするもんではない」
ということです。

とはいえ、過量の飲酒は睡眠不足・脱水となり、やはりレースには悪影響となる可能性があります。
二日酔いの状態では持久力パフォーマンスが低下するという文献や、アルコールの残った状態ではパフォーマンスが低下するという文献があります。

レース前は全く飲まないのではなく、
1週間程度、飲酒量を2-3割減らして挑むのが一番よいのかもしれません。
今の自分はそう答えています。

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