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都市木造への考察③ 「地産地工(ちこう)」を目指して|ウッドマイルズの教え

農業的な素材|「地産地消」と「地産外消」
 木材を活用した建築作品において、「地産地消」というワードはもはや馴染みのフレーズである。「地元で生産したものを地元で消費する」という概念であり、地元の生産者と消費者をつなぐ仕組みを構築することで、地域の活性化を図りつつ、輸送コストの低減や教育力の強化が目的とされている。このように産地が前提とされた素材であることは、コンクリートや鉄にはない木材ならではの「農業的な」性格と言えるだろう。

 また同時に「地産外消」は「地元で生産されたものを首都圏等の他地域で消費する」ことを意味しており、地方物産店やふるさと納税などをイメージすると分かりやすいだろう。都市木造における木材利用はまさにこれに該当し、地方と経済、環境の循環が求められるSDGsの概念を具現化する動きとなっている。

ウッドマイルズの教え
 一方、近年では「ウッド・マイルズ」という木材の輸送に関する新しい環境指標が提唱されている。これは、木材の産地から消費場所までの「木材の量(㎥)× 輸送距離(km)」で表される指標であり、この数値が小さいほど輸送過程でのCO₂排出量が減り、環境負荷が少ない木材活用と言えることになる。裏を返せば、産地と消費場所の距離が増大すればするほど、輸送時のCO₂排出量は大きくなり、「環境に良い」はずの木材利用の幻想は根本から覆されることになり兼ねない。

「地産地消」へのジレンマ
 筆者が以前に担当したプロジェクトにおいて、地元材を活用した中規模木造施設の提案が求められた。もちろんクライアントの要望は「地産地消」である。必要諸室の要件と構造合理の観点から、当初は中断面集成材の架構を想定したが、地元に集成材工場がなく他県での集成材加工による運搬コストが課題となり活用を断念することとなった。また、用途と規模の関係から法的に内装材への不燃処理が求められたが、その地域には不燃化工場がなく他地域での処理加工が求められた。何よりも中大規模の木造建築であったため、建築基準法によりJAS材の利用が義務付けられたが、残念なことにその地域にはJAS認定工場がなく、結果的に他地域のJAS製材工場へ原木を運び、JAS材としてラベリングする手間を考えると、他地域からJAS材を購入した方が安価になる、という現実を突きつけられたのである。

「地産地消」から「地産地工(ちさんちこう)」へ
 このように、木材の産地と消費地が同じであっても、中大規模の建築に求められる様々な(特に法的な)条件によっては、地元での「加工」が困難となるケースが多い。
 目の前に無限に広がる「使いどき」の森林資源がそこにあるものの、それを地元で容易に活用できないジレンマは日本の木材業界及び建築業界の共通の課題であり、川上から川下までのプレイヤーが一丸となって早急に解決にあたることが求められている。
 木材を生産し、消費する間には必ず「加工」のフェーズが介在するが、その加工フェーズを地元で想定する、もしくは地元で想定できる「地産地工(ちさんちこう)」を前提とした設計作法を考えたい。この作法が広がり日常化されれば、ウッドマイレージを最小化しながら、地域の森林の循環、経済の活性化の両立がより可能になるだろう。またその積み重ねが持続的な木材需要を生み出し、新たな設備投資が生まれればなお良い。

 木材は広義に捉えると「野菜」である。その野菜を料理する「調理器具」である加工工場は地域において様々に異なる。このような前提を知り、その地域にしかできない「木づかい」やその総体である「建築」を考察し実装することは、木造建築の設計において求められるあるべき一つの側面であるだろうし、また木材活用におかえるかけがえのない奥ゆかしさのようにも感じる。
 真に「地産地消」の価値を実現するためには、「地産地工」への視座が欠かせないのである。(文:大庭拓也


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都市建築への考察① 「背に腹はかえられない」とは言えない木材利用|木材の基礎知識
都市木造への考察② 木材利用と森林保護の両立|産地へのロマン

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