かる読み『源氏物語』 【絵合】 未来を知ると見え方が変わる帖
どうも、流-ながる-です。『源氏物語』をもう一度しっかり読んでみようとチャレンジしています。今回は【絵合】を読み、２つの視点から物語について考えてみました。
読んだのは、岩波文庫 黄15-12『源氏物語』三 絵合になります。絵合だけ読んだ感想と思って頂ければと思います。専門家でもなく古文を読む力もないので、雰囲気読みですね。
その後のことを考えないで読む
もうすでにその後の展開については知っているので、「この後〜があるんだよね」というものが多くちらつきます。これを考えないようにすると【絵合】は源氏が不遇だった時代を乗り越えて、いよいよ時代を担っていくぞ、という話に進んでいくように思います。
源氏って何かとなんでも才能があると言われていて、万能ですという感じだけでしたが、ここで絵について語られて、「そうだったんだ、源氏って特に絵が上手いんだ」となりますね。
また、絵に対する興味・関心が強い冷泉帝と源氏の共通点から「やっぱり親子なんだな」と確認させられます。
さて、【絵合】の回はものすごく華やかで、【桐壺】の頃のような殺伐とした後宮社会の様相はまるでなかったかのようです。あの頃は源氏の母である桐壺の更衣を敵視する女性たちがネチネチと嫌がらせをしていたといった描写であったのが、【絵合】でのそれは冷泉帝が若いということもあってか、陰湿さはありません。
絵合そのものについて考えますと、割り当てられた立場にたって議論しないといけないので、なかなかに幅広い教養がないとできないのだなと感心しましたね。
さて、冷泉帝の後宮は源氏が間接的に参加したことで、はっきりしてきました。
斎宮女御（梅壺女御） 源氏が後見
弘徽殿女御 権中納言の娘（往年のライバルの娘）
兵部卿の宮の姫（王女御とよく呼ばれている）
今回の絵合で蚊帳の外になっているのが、兵部卿の宮の姫ですね。この方は紫の上の姉妹にあたる姫で、冷泉帝の従姉妹にもあたるってことで決して無関係ではないのですが、源氏がそっぽ向いたのでこうなってしまったということなのでしょう。
梅壺方と弘徽殿方に分かれて争うという図のなかで、なぜわざわざこういう蚊帳の外の立場の方が出てきたのかということを考えると、そこについては源氏が兵部卿の宮とは協力しない、これ以上親しくなるつもりはないということをわかりやすく示すためなのでしょう。兵部卿の宮からすれば、妻の姉妹である姫が後宮へ入ったのだから、そのよしみでということなのでしょうが、源氏はノーだったということをよく表しているな、と思いました。
かといって亡き妻・葵の上の兄弟である権中納言の姫への支援をするというわけではありません。斎宮女御を支援するわけですから、独自の路線というものを作っているといった印象です。
これからのビジョンとしては源氏は後宮政治においても勝利して、時代を築いていくということなのでしょう。
その後のことを考えて読む
その後のことを考えますとキーパーソンとして冷泉帝が挙がってきました。彼は自身の出生については知りません。まだまだ若くスポットライトはあたっていないのですが、源氏の子であるという点でこれからの物語のことを考えると、無視できない人物かと思われます。
さて冷泉帝の御代が始まったばかりです。始まったばかりですが、未来を知ると、ここが最も良かった時代とも受け取れます。なんの葛藤もなく新たな時代が始まり、華やかな後宮、帝の趣味に即した行事が行われる。良い時代だな、となる。けれどもこの後に起こる出来事は冷泉帝にとっては重い。
コントラストというものが物語にはあって、栄華が続くというものはなく、何かのきっかけでつらい出来事が起きて耐え忍んだり、なんとか受け止めて進んでいったりという読み応えのある場面というものが出てくるということなのでしょう。冷泉帝は主人公ではないですが、【絵合】の時には思いもよらない苦難や悩みが出てくることがわかっています。
それは源氏にも言えることなのでしょう。源氏は逆に須磨・明石で暗い時代を過ごしてそれを糧に生まれ変わったといった印象です。そうして今は人生の中でも良い時代を迎えている、それだけに危惧する点もあると感じているのだなと思いました。しかし潔く人生の幕引きをと考えても人生はうまくいかない、ということがそれとなく語られる。また、良い時代というのは儚く一瞬で、また逆風がやってくるかもしれないということを思わせてきます。
冷泉帝について今が良かった頃であるともとれるわけですが、まだまだ冷泉帝の御代は続きます。物語の人物として葛藤がないよりは、これから待ち受ける出来事を受け、葛藤を抱く人物として存在するほうが遥かに魅力的だと思っています。絶対的に目立つ人物ではないものの、無視できないそんな人物ですね。
今後の冷泉帝と源氏の関係についても気をつけて読んでいこうと思います。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
参考文献
岩波文庫 黄15-12『源氏物語』（三）澪標ー少女 絵合
続き。いよいよあの女性が上京してきました。
いただきましたサポートは、大切に資料費などに使わせていただきます。