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かる読み『源氏物語』 【若菜下】 【柏木】 すべてから解放される女三の宮

どうも、流-ながる-です。『源氏物語』をもう一度しっかり読んでみようとチャレンジしています。今回は【若菜下】、【柏木】を読み、女三の宮が物語で果たした役割について考えてみました。

読んだのは、岩波文庫 黄15-14『源氏物語』五 と岩波文庫 黄15-15『源氏物語』六 になります。【若菜下】と【柏木】だけ読んだ感想と思って頂ければと思います。専門家でもなく古文を読む力もないので、雰囲気読みですね。


価値観がひっくり返る時

従順な女三の宮から学ぶこと

自分は女三の宮がなんとなしに”好きだなぁ”と思っています。柏木 かしはぎを狂わせたという点においては、何かを秘めているのかと思いきや、別にそうでもなく、ただ可愛らしく従順でおっとりとした高貴な姫だという印象ですね。彼女自身が能動的に何かをするということはほとんどない。

ただ、彼女はここにきて源氏のひとつの価値観を見直すきっかけを与えたとみています。

源氏の"好みの女性といえば誰だろう"と思った時、自分は夕顔を思い浮かべます。理想の原点は藤壺ふじつぼの宮ではありますが、彼女の場合事情が事情なので、強く源氏を跳ね除けるものの、藤壺の宮をイメージして育てた紫の上は、素直で従順な可愛いタイプに見えます。気質が柔らかい女性といいますか。

女三の宮の一件から、源氏はふと考えてしまった。女性観を見直したということですね。源氏は藤壺の宮や朧月夜おぼろづきよを”奪う側”だった、しかし今回”奪われる側”になった。そのことで、気性の優しい柔らかい素直な女性について、"果たしてそれでいいのだろうか"と考えてしまった。藤壺の宮は桐壺帝を裏切り、朧月夜は朱雀帝を裏切った。これは紛れもない事実です。事実ってこういう時、強い効力を発揮するなと思います。

女三の宮って源氏が長年"こうだ"、と思っていた女性観を見直すきっかけを与えたというだけでも、物語において強い意味を持った存在だと思ったんですよね。人生の中で価値観を見直すタイミングってそんなに頻繁にないと思うのですが、それを変えさせるきっかけを与えたのが女三の宮で、それが彼女が登場した意義なのではと思いました。

理想の女性ってなんなのさ

「源氏物語」って当然ながら源氏視点が多いんですよね。そうなると"源氏の"理想の女性がメインとして語られます。紫の上はまさしく最高の女性であるわけですが、果たして彼女は源氏の理想そのままなのでしょうか、と考えると違うなと思っています。紫の上は源氏に育てられましたが、彼女の意志や魂は彼女にあるもので、源氏の理想に沿って育てられたからといって、理想をそのまま100%実現したかというとそうではないと思わせてきます。

源氏の理想100%は女性の理想か、というと当然違うわけですね。源氏もここにきて「あれ? 違うんでは?」と首をかしげだす。素晴らしい女性ってどういう女性なの? その答えって見つからないんですよね。「源氏物語」にはさまざまな女性の人生が綴られてあって、読む側としては必ずしも源氏視点で見る必要はないなと思いました。源氏からの扱いが悪いからといって、その女性は理想ではないのかというと、そんなことはなく、理想については読者がそれぞれに好きに決めたらいい、そんな気がしてきました。

私は失敗しました、だから出家します

源氏との関係の破綻

柏木との関係が明らかになったことで、女三の宮は大きな人生の転機が訪れました。柏木と出会ってからすでに彼女の人生は、穏やかならぬものへと変化していたのですが、柏木との関係が源氏に露見したことで、女三の宮には危機が迫っていたと受け取れました。これまでは源氏に守られて何不自由なく安心感の中で過ごしていたように思われます。女三の宮にとって源氏は絶対的な庇護者なので、源氏から嫌われなければOKといった感じに見えました。

好かれることに関してはあまり興味がなく、嫌われなければ源氏は優しく接してくれ、守ってくれます。これはもう絶対的な安心感です。しかし柏木との関係の露見によって、女三の宮は源氏を裏切った形になりました。強く責めたり、あからさまになじったりするというところはなくとも、元通りにはなりません。女三の宮もそれをわかっているということですね。まあ、これに関しては源氏がややねっとりと非難していると思わせるような言葉を口にしていたというのがあるかと思います。

六条御息所、女三の宮を救う

現状の苦しみから逃げたいという解決策が見えたらもうそれしかないとなるのが人間だと思います。女三の宮は出家を望みます。

かつて紫の上に取り憑いた、六条御息所ろくじょうのみやすどころの物の怪が女三の宮に取り憑いて出家を促してしまった、という仕組みがありますが、六条御息所が出家を促すことは悪いことなのかについて考えてみると、父・朱雀院がいざ出家を願う女三の宮の話を聞いた時、出家そのものは悪いことではないし、と言ったように、むしろ六条御息所は女三の宮を救ったように思えてきます。

女三の宮には罪の意識もあるのではと思いました。罪の意識がある人にとって出家はむしろ罪を償うための第一歩なのではないでしょうか。今のどん底から上へ向かうための切り替えポイントのような気がします。

女三の宮を出家させ源氏を苦しめてやる、という六条御息所の物の怪の動機もそれとなく見えてくるものの、反面取り憑いた女性を救うことにもなっている。六条御息所は源氏によって執念を残してしまったのだから、源氏に関わる女性たちが同じ目に合わないようにしているとも見えてくるから不思議です。こうなると六条御息所が抑えきれない恨みを抱いた女性って葵の上しかいないのでは、と思いました。

自ら得たものではないから捨てられる

女三の宮の出家については潔いなと思ったのですが、考えてみれば女三の宮は周囲にすべて与えられてきた女性でした。父・朱雀院からの余りある愛情によって、過剰なほどに庇護されていたように見えます。

ゲームでいうと、装備品でしょうか。ゲーム(RPG)をプレイしていて装備品って基本的にプレイヤーが"自分で"手に入れます。ランクの高い強い装備を手に入れるとなると、苦労するんですよ。お金がたくさん必要だったり、行くのにものすごい時間かかるダンジョンの奥で手に入れたり、強い敵を倒してご褒美に獲得したりと、強い装備品ってそういうもんです。

女三の宮はそんな装備品を周囲から次々と与えられて、拒むことなく身につけていたということになります。その重すぎる装備は女三の宮に似合っていたのか、必要だったのか、と考えさせられます。そうして、それを苦労せず手に入れていた女三の宮はそれをあっさりと捨てられたということになりますね。苦労して手に入れていたら葛藤があったことでしょう。しかしそんなものは彼女にはないのです。

重すぎる装備を捨てた後の女三の宮のこれからに少しだけ注目してみようと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
岩波文庫 黄15-14『源氏物語』(五)梅枝ー若菜下 
岩波文庫 黄15-15『源氏物語』(六)柏木ー幻

続き。次のヒロインが登場します。






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