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かる読み『源氏物語』 【紅葉賀】 葵の上は意地を張っているのか?

どうも、流-ながる-です。『源氏物語』をもう一度しっかり読んでみようとチャレンジしています。今回は【紅葉賀もみじのが】を読み、葵の上と源氏はなぜうまくいかないのかについて考えてみたいと思います。

読んだのは、岩波文庫 黄15-11『源氏物語』(二) 紅葉賀もみじのがになります。【紅葉賀】だけ読んだ感想と思って頂ければと思います。専門家でもなく古文を読む力もないので、雰囲気読みですね。

美しく端正なレディ・あおいの上

これは勝手な推測ですが、源氏とあまり良好な夫婦とはいえないあおいの上について、好きじゃないと思う読者は少ないように思います。後の彼女の運命から同情的な見方をしてしまいますね。
葵の上の情報を整理します。葵の上は源氏の正式な妻です。元服(成人)してすぐに結婚しました。これはあらかじめ決まっていたことで、親同士が決めた結婚ということですね。貴族の子ともなると結婚相手はそれ相応の相手が決まっているというのはわりとあることで、葵の上の兄弟で源氏のライバルとされる頭中将とうのちゅうじょうも右大臣の姫と結婚しているので、特別珍しいというわけではないということですね。

【桐壺】から【紅葉賀】に至るまで葵の上は度々登場して読者にちら見せ状態なのですが、情報を寄せ集めるとこんな感じです。

  • 父は左大臣、兄弟に頭中将

  • 母は桐壺帝の姉妹である大宮(源氏とは従姉弟になる)

  • 源氏より4つほど年上

  • 父母に大切にされている

  • 源氏の兄にあたる東宮(後の朱雀帝)の相手としてかつては右大臣側から望まれていた

左大臣というのは政治のトップであるので、いわゆる権力者の娘ということになります。血筋については桐壺帝の姉妹の大宮が母親なのでそちらでも非の打ち所がないといった感じですね。源氏の浮気に対して冷たく応酬するものの、あからさまにそれについて言及することもなく、怒り狂うこともなく、静かな怒気を漂わせるといいますか、生まれながらの貴婦人といった印象です。

源氏の好みの女性の型は葵の上が影響か

ひとつ自分の中のおさらいになりますが、源氏の好みの女性に近いのは夕顔で実際にそれを実現したのが紫の上であるという認識でいます。《素直で従順な女性》が好きになってしまうという源氏の癖というものは、藤壺ふじつぼの宮というよりは元服(成人)後の結婚相手である葵の上が要因な感じがします。
夕顔、紫の上の共通点として後見があまり強くないというのがあります。末摘花すえつむはなに興味を抱いたのも親と死別して頼りない身の上であることが理由のひとつかなと。

葵の上は世間の評判も良い左大臣の姫で、母も健在で高貴な血筋、周囲の人たちに大切扱われています。お仕えしている女房たちも、良いところのお嬢さんである雰囲気がプンプンと漂っているのです。

源氏は母親の身分や後見人が有力でないために、親王ではなく臣下として、源氏として生きていくことを決定づけられたという過去があります。帝の御子とはいえ、葵の上のような非の打ち所がない出自、周囲に大切にされている人というものはどこか眩しく見えたのではないかと思いました。左大臣が源氏を大切な婿として扱っている描写は多々あります。しかし、それの根本は娘が大好きで大切だからというのがあると。

平安時代の婿入り婚は男性が女性の家に婿入りします。女性の家にお世話になり、経済的にも援助を受けるわけですね。源氏は別になにもかもお世話になるというわけではないですが、葵の上の一家の権威というものを元服してまもなく意識づけられたかと思われます。それがどうにもプライドを刺激しているのではないかと考えました。

婿として大切にされているのはわかるけども、妻の家の威勢というものを思い知らされることで、どこか引け目を感じる、そんな瞬間もあったのかもしれない。そうして浮気沙汰にも見苦しいところは一切みせずに端正なままで弱みを見せない。なんともいえない苛立ちを感じても不思議じゃないなと思いました。

葵の上は源氏のことをどう思っているのかわからない

【紅葉賀】までを読んだ感想としては、葵の上は源氏の浮気沙汰に冷たい目を向けているといった印象しかなく、一体彼女は”源氏のことをどう思っているのかわからないな”と思っています。
葵の上のような深窓の姫は結婚相手を自分で決めるという概念はないと思われますし、帝の決めた縁談ともなればそれに対して不満を抱くということもないかと思われます。おそらくプライマイゼロ、源氏のことは好きでも嫌いでもないところからスタートしている。源氏にしてもおそらく同じ。

この夫婦はお互いに大切にされちやほやされてきた者同士、というのが難しいところで、とにかく大事にされてきた葵の上からしたら、源氏の浮気沙汰は心外だったとも考えられるなと。ここで一人の人物がキーだと思いました。彼女の父親の左大臣です。

父・左大臣の言動も含めて嫌だったのでは?

左大臣は娘婿の源氏をそれはもう大切にしていて、その立場の重々しさを取り払ったかのような態度で源氏をもてなしする様子が度々出てきます。それは娘の葵の上を大事に思っているがゆえのことだなんてふうです。

しかし左大臣の気苦労についてもあるわけですね、大事な娘であるのに婿の浮気沙汰は聞こえてくるし、それは嫌なわけです。

ここからは想像です。左大臣が源氏の浮気について面白くないと不満を普段は隠さずにいたとしましょう。でも、源氏がくると気分よくもてなしてしまう。娘だけがいる時は婿への不平を口にしていて、婿が来るところっと変化していたのではないのかなということです。
葵の上からすれば、普段父は自分の味方なのにいざ源氏がきたら機嫌良くこれでもかともてなすとなると、なんだかあまり気分良くありませんね。婿の機嫌をとり、「さあさあお前も出てきて」と促されれば、そんな素直にはなれないような心地がします。

この時代は一夫多妻で、源氏が他の女性のもとへいくことはルール違反ではありませんが、父親の気持ちとしてはあまりにご無沙汰だと複雑で「どうして来てくれないんだ」とうらみに思うわけですね、だけど本人がきたらニコニコでいそいそとお世話する。
葵の上からしたら「どうして自分の味方をしてくれないの?」ということではないでしょうか。いざ、源氏が訪れたら他の人たちはいそいそと源氏をもてなして、無沙汰だったことのうらみを、口にしたり、態度で示すことができるのは葵の上だけということになります。

それまでは左大臣の愛娘として邸内で大事にされ一番に扱われていたのに、源氏がくると婿としていくら無沙汰だったとしても、父が大事に扱ってしまうのを見てしまうというのもつらいなと思いました。しかし父の心としては今まで無沙汰だったからこそ、大事にもてなしてまたすぐ来てほしいという気持ちもあったのでは、と思わせてくるので、なんとも切ないですね。

葵の上は『源氏物語』において絶対的にヒロインになれない立場ではあるんですが、その育ちの良さや端正な美しさ、気品が漂ってきます。それが魅力的で気になってしまう。はじめて読んだ時から好きな人物です。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

参考文献
岩波文庫 黄15-11『源氏物語』(二)紅葉賀ー明石 紅葉賀もみじのが

続きはこちら。源氏のライバルと説明されやすい彼についてです。

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