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第2章 会社の「安全性」を見るポイント


1.「貸借対照表」を読みこなすステップ



貸借対照表を構成する5つのグループ

 貸借対照表(Balance Sheet、B/S)は、財産を報告する日(=貸借対照表日)の資産・負債・純資産を一覧にした財産の残高(Balance)表であり、つねに貸借が一致(Balance)するお金の貸し借りの明細書でもあります。
 さらに、資産と負債を流動グループと固定グループに区分表示するので、貸借対照表は「流動資産」「固定資産」「流動負債」「固定負債」「純資産」の5つのグループで構成されます。

 そして、左側のお金の使い方である資産合計を「総資産」といい、右側のお金の集め方である負債および純資産の合計を「総資本」といいます。
 私たちも「体が資本!」と言ったりしますよね。
 資本とは商売を継続するうえでの原資、お金の集め方を意味します。
 もちろんバランスシートなので、つねに総資産と総資本は同額です。ただ経営分析においても「現在ビジネスで使用している資産の総額」を表現するときは総資産、「現在ビジネスに投入しているお金の総額」を表現するときは総資産という具合に、2つの用語を使い分けすることもあります。


流動・固定資産、流動・固定負債、純資産の5つの要素


 お金を集めたとは、誰かが会社にお金を出してくれたということですね。この世でお金を出してくれる人は、他人と自分のいずれかとなります。
 そこで経営分析では、他人から集めたお金である負債を「他人資本」、自分で調達したお金である純資産を「自己資本」と呼び変えています。会計、会社法では、「会社の所有者は株主」と考えていますので、株主が拠出した資本金は会社のもの!利益の蓄積も会社のもの!ということになります。


流動性の高い科目から表示される

 貸借対照表の左側(お金の使い方)は「流動資産」→「固定資産」の順に表示し、右側(お金の集め方)は「流動負債」→「固定負債」→「純資産」の順に表示します。電力会社、ガス会社などの業種を除き、流動グループを上に表示するルールです。左右ともに流動性の高い項目を最初に表示するため「流動性配列法」と呼ばれています。

 流動性配列法では、左側はお金の使い方のうち資金化が容易な資産から、右側はお金の集め方のうち返済期限が早く到来する負債から表示します。
 結果として、左側は換金しやすい資産から順に配列するため一番上は現金そのもの、下にいくほど換金が難しく値下がりリスクも抱える資産であり、一番下には「投資その他の資産」が表示されます。

 一方で、右側は返済義務に追われて、流出しやすい負債から順に配列し、下にいくほど返済を猶予してもらえるお金の集め方が表示されます。
 そのため一番上には支払手形が表示されます。手形については受け取り側を堅く保護しています。もしも不渡りとなったときは、振出人が電子交換所の取引停止処分などの経済的な制裁を受けます。カラ手形を切ることなく、何としても支払わなければならない負債であるため、一番上に表示します。
 そして、右側の一番下には、返済不要の「利益剰余金」が表示されます。利益剰余金こそが「努力は必要だが、コストは無用」であり、返済する必要がない最も理想的なお金の集め方です。

 貸借対照表は、左上のほうの金額が大きければ資金繰りの悩みが少なく、右下のほうの金額が大きいほど財政状態が健全ということになります。

貸借対照表の表示ルールと読みこなすステップ


流動と固定を区分する2つの基準

 資産と負債は、いずれも(1)正常営業循環基準と(2)1年基準という2つの基準に従って流動または固定に区分表示されます。

(1)正常営業循環基準
 「正常営業循環基準」とは、正常な営業活動循環内にある資産と負債を流動資産および流動負債に計上するルールです。
 正常な営業活動とは、「仕入れた商品または工場で製造した製品を在庫として保管し、出荷することで売上計上する」という業務の流れをいいます。

 たとえば、商売のタネである商品や製品などの棚卸資産、商品や製品をツケで売ったときの受取手形売掛金が流動資産に表示されます。
 ただし、回収できないことが明らかな受取手形や売掛金は、「破産更生債権等」と科目名称を変えて、固定資産の「投資その他の資産」へ表示場所を移動させます。得意先の経営状態悪化により貸倒リスクが高い売上債権は、すでに正常な営業活動の循環からはずれているためです。

 負債側についても同じように正常な営業活動において商品や原材料をツケで仕入れたときの支払手形買掛金が流動負債に表示されます。

(2)1年基準
 「1年基準」は1年を基準として、流動と固定に区分するルールです。  
 1年基準では、貸借対照表日の翌日から1年以内に資金化・換金できる資産を「流動資産」へ、 1年以内に返済期限が到来する負債を「流動負債」へ表示します。反対に、貸借対照表日の翌日から1年を超えて資金が固定化する資産を「固定資産」、1年を超えて調達が可能である負債を「固定負債」に表示します。

 この結果、おおむね1年以内に換金される流動性の高い資産は流動資産、1年を超えてビジネスに使用する土地や建物などの有形固定資産、権利などの無形固定資産、投資目的の有価証券などは固定資産に表示されます。
 同じく負債についても、1年以内に返済する義務のある短期借入金や預り金、未払法人税等、未払消費税等などは流動負債に、1年を超えて調達が可能な長期借入金や社債などは固定負債に表示されます。
 なお、長期借入金のうち翌期1年以内に返済しなければならない元金部分も「翌期1年以内返済予定の長期借入金」あるいは「短期借入金」として、流動負債に表示します。


流動しない「流動資産」には注意!

 流動資産とは、基本的に1年以内に資金化できる資産です。
 経営分析では、流動資産を「当座資産」「棚卸資産」「その他の流動資産」の3つに区分して考えます。

 「当座資産」とは、現金、預金のほか、受取手形、売掛金、価格変動リスクの低い有価証券など、容易に資金化できる資産の総称です。

 「棚卸資産」は商品、製品、仕掛品、原材料など商売のタネの総称です。倉る売れ残りという意味で日常用語では「在庫」と俗称されます。
 棚卸資産という字のごとく、決算作業のときには倉庫や店頭の陳列からして、数と品質をチェックすべき資産です。
 棚卸資産は商売のために必要不可欠な資産ですが、油断をすると過剰在庫を抱えやすいものです。月々の売上高と在庫の金額を比較することにより、適正在庫であるかをチェックすることも大切です。
 もしも月商が伸び悩んでいるのに在庫金額が増加しているならば、滞留在庫や死蔵在庫が増えているおそれがあります。

 「その他の流動資産」には、未収入金、前払費用、短期貸付金、繰延税金資産などが含まれます。未収入金とは棚卸資産以外の未回収のツケ、前払費用は保険料や地代家賃などの前払部分です。この他に、出張旅費の未精算である仮払金などの資産性が不確かな科目が紛れていないか注意します。
 前払費用や仮払金は、すでに金銭の支出は済んでおり、基本的に、お金が戻ってくる性質の資産ではありません。
 流動資産といっても、1年以内に資金化できる資産ばかりではないことに注意が必要です。

「固定資産」はお金が寝る

 固定資産は、1年を超えて長期の運用を予定している資産であり、売却や処分をするまで回収できないお金の使い方です。
 固定資産へ投下したお金を回収するには時間を要するとともに、購入価額よりも値下がりするリスクを抱えています。そのため、固定資産へ計上されている資産がビジネスに必要なものであるかどうか、貸借対照表に計上されている資産価額が適正な評価額であるかなどに注目します。

 貸借対照表では、固定資産を「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つに区分して表示します。
 有形固定資産は、土地、建物、機械及び装置、車両などの事業活動に使用している形のある資産であり、無形固定資産は特許権や借地権、のれんなど形のない資産です。有形固定資産と無形固定資産には、基本的に、収益獲得に貢献している資産が計上されます。
 固定資産のうち、建物や、機械及び装置、車両、器具備品など時間の経過や使用により価値が減少する資産を、「減価償却資産」といいます。

 投資その他の資産は、投資目的の上場有価証券や関係会社株式、回収期限が1年を超える長期貸付金などです。投資その他の資産については、ビジネスに直接必要でない資産が含まれていないか、帳簿価額よりも時価が大幅に下がっていないかどうかを注意します。
 また、焦げ付く可能性が高い「破産更生債権等」は、固定資産に計上されていても回収は困難と考えられます。破産更生債権等の残高と、これらの回収不能に備えている貸倒引当金の残高とのバランスにも注意しましょう。



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