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子供100人と大人100人がペアになって1日過ごして人生を語り合う公立小学校での最高の瞬間


正直ここまでの空間になることを僕はイメージできませんした。
一言で表すなら多様性の日常化であり、可能性の爆発とでも言うべきかもしれません。

公立小学校に100人の大人が来て、100人の子供たちとペアを組んで1日過ごして人生について語り合う。そんな絵空事のようなことをやりたいと思ったのは夏の初め頃でした。

きっかけは総合的な学習の時間で行われている「1000人の大人と出会って、人生設計を考える 3Mプロジェクト」の一貫で、アーティストと子供たちが少人数のグループを作り、共同作業をした後に人生についてインタビューをした様子です。

それまで、インタビューはその場で出会った人としてもらうことがほとんどがだった。そうすると、大人と子供の相性によって子供達のモチベーションに差が生まれることを課題でした。

しかし、アーティストの回は子供たちのインタビューをする時のモチベーションが違っていました。アートの秘めている力の大きさはあるにしても、この違いはどこからくるのか考え、これまでの実践と比較した時に見えてきたことが「少人数」「一緒に過ごして関係性がある」という二つの要素です。

【少人数で共に過ごすことで関係性ができ、関係性ができた上で少人数でインタビューをするからこそ、子供たちは相手のことをより知りたいと思い吸収する。】

この二つの要素のかけ算に可能性を感じ、僕は「100人の大人が学校に来て、子供と1対1で関係性を築いて、1日過ごせば子供の人生設計に大きな影響が出るのではないか」と仮説を立て、実行することにしました。

学年の先生に相談し、学校に相談し、コミュニティスクールに相談し、実現可能性が見えたので、人を集め始めました。これまで参加してくださった方にお伝えしたり、多くの人にお願いしたり、できることは全部やりました。僕の想いに共感して本当にたくさんの人が広げてくれて、その度に嬉しくなったし、ありがたかったし、形にすべきことなんじゃないかと思いました。

正直心が折れそうになった出来事も多々ありました。それでも僕を突き動かしたのは「子供の人生が変わるかもしれない最高のきっかけを届けたい」という想いだけでした。

だからこそ、当日100人の子供の横に、100人の大人が並んで座っている光景を見た時は、形にすることが喜びと同時に、「やっと始まるんだ」と心から安堵したことを覚えています。

今回のコンセプトは日常の中で大人と子供100組のペアが過ごす中で、関係性を作り、その土台があった上で、これからの未来を歩いていく子供に人生を考える材料を大人が届けることでした。だからこそ、日常に拘りました。



特別な授業は一切していません。3時間目は算数の授業で概数をみんなで解きました。一斉授業を希望している子とペアになった大人も、自由進度学習を希望している子とペアになった大人も、子供と一緒に問題を解いたり、時に教え教えられたり、共に学んでいました。「できない」って正直に言ってくれる大人の姿は、人として子供とその場にあることを体現していて素敵だなと感じていました。

4時間目は総合的な学習の時間で、食に関わる仕事について知るということで、子供2人と大人2人の4人組になって理想のお店を作りました。昆虫食の店やデブエット専門店など、大人も子供も夢中になってお店を作っている様子が本当によかったです。大人も子供も体育館で床に寝そべりながら意見を出し合う姿は見ていて素敵でした。

ここまでで、子供と大人という関係から、人と人との関係に変わっていったんだなと思っています。

そして、ここで本当に頭が上がらないのが、保護者の方が参加してくれた大人の方々におもてなしができないか相談して、カレーライスを朝から100人分仕込んでくれました。本当にその心意気に感動したし、大人が子供みたいに「うまい」って言いながら、何回もおかわりに行く姿はどこか給食じゃんけんをしている4年生と重なるところがありました。

食の力って本当にすごくて、200人で食べた給食は、さもこれが日常なんじゃないかと思わせるくらい空間を一体にしていきました。何かを食べて語り合うって尊いんですね。


そして、僕は休み時間の光景を忘れることはないと思います。子供と大人が真剣にドッチボールをして、バレーボールで声を掛け合い、鬼ごっこで全力疾走して、この光景がさも日常であるかのように、みんなが過ごしていました。本当にこれが見たかったんです。大人と子供なんて境界線はそこにはなくて、あるのは人が人として本気で遊ぶ姿だけでした。休み時間終わり、子供と大人が息を切らしながら教室に帰ってくる姿は、いつもの子供だけの休み時間の光景そのものでした。これを日常にしたいなと心から思いました。

5時間目に自分たちの考えたお店を発表し合いました。アイデアの面白さもよかったし、子供があんなにも楽しそうに発表していたのが、本当に嬉しかったです。みんなで給食食べた後だったから尚更良かったんだと思います。ちなさん、本当にありがとうございました。素敵なワークでした。最後の話は大人でも考えさせられる話でした。あの本気があったから、あの後大人も本気で話していいんだと思えたんだと思います。

そして、6時間になり、ペアを組んだ大人に人生設計についてインタビューしました。これまで少ない時でも4人以上でインタビューをしていた子が2人で2人の大人にインタビューするという挑戦は正直心配しかなかったです。でも、そんな心配を簡単に捨て去るくらい子供たちがすごかったんです。関係性があるからこそ、相手のことを聞こうとするし、なんとか知ろうとして質問を考える。こんなにも真剣にメモをして、相手を引き出そうとする姿を見たことがなかったです。ここまで半年間積み上げてきたものが、あの時に形になっていて、本当に泣きそうになりました。大人の人が子供に伝わるように、資料や作品を用意するなど工夫してくださっていて、それも本当に素敵でした。
そして、最後に1分間の大人からペアを組んだ子に向けてメッセージを送ってもらいました。その一言一言が本当に子供に浸み込んでいっていきました。ただただ大人の熱意がかっこよかったし、それを子供なりに受け取る姿に胸が熱くなっていました。

1日が終わり、去り際を名残おしそうにする子供たちの姿から、この時間がどれほど貴重だったのか伝わってきました。そして、教員として、1日での子供の頑張りと成長を目の当たりにして、ただただ嬉しく、幸せでした。

いつもは算数を投げ出したくなる子が大人と一緒に最後まで問題を解こうと頑張ったり、緊張して大人とインタビューできない子が関係性ができて、安心したからこそインタビューを最後までやり切ったり、いつもはみんなを引っ張る子が子供らしくいられて、無邪気に声を出していたり、意見を出すのが苦手な子がペアの子と一緒になんとか意見を出してお店を形にしたり、台本を大人と考えて、お店の発表をやり切っていたり、もう語り尽くせないくらい素敵な姿が溢れていました。

そして、子供たちの多様性を受け止める土台ができてきたことも感じました。全盲の方に初めて触れあった子が、1日で名ガイドに変わったり、車椅子をまるでレーシングカーのように「かっこいい!」って言ったり、1学期の最初は大人と出会ったことがなくて、色んな人と出会ったことがなくて、大人を傷つけてしまうこともあったのに、人として大きく成長したんだなと心から思いました。

この学びの場を形にしてくれた100人以上の大人の皆さん。本当にありがとうございました。皆さんがいなければ、この学びは形になりませんでした。ご予定をわざわざ空けてくださったこと、無理をしてくださったこと、本当に感謝の言葉を尽くしても足りないです。子供に真摯に向き合ってくれて、人として子供と関わってくれて、本当にありがとうございました。かっこいい大人を見せてくれてありがとうございました。

この学びの場は、僕1人でカタチにできませんでした。臨機応変に当日ボランティアとしてサポートに回ってくれた人、本当にみんながいてくれたからとても安心しました。無茶ぶりに応えてくれてありがとう。大好きです。学年の先生が小泉さんがやりたいならって協力してくれたのが本当に嬉しかったです。いつも細かいところまで生き届かないのを助けてもらって本当に感謝しています。二人とじゃなきゃできなかったと思っています。事務さん、主事さんにもたくさん協力してもらいました。うちの学年以外にも大きなイベントが当日3つもあったにも関わらず、受付やインターン等の対応ありがとうございました。いつもたくさん人を呼んでも受け入れてくださる皆さんに甘えてます。他の学年の先生達から「すごいことやってるんだよ」「がんばってね!」って言ってもらえて本当に嬉しかったです。迷惑かけてしまうことも少なくないのに、一緒に子供のために皆さんと働けているのが幸せです。塚本さん、娘さんまで連れてきてくれて俺のやりたいに寄り添ってくれてありがとう。いつも頼りにしてるし、感謝なんて言葉じゃ足りないくらい信頼しているよ。管理職の器の大きさに圧倒されている時間でもあります。お二人の背中を押してくれる姿があるからここまでやれています。僕にできるカタチでこれからも学校に貢献させてください。学校経営方針「学校と社会をつなぎ、板十小の子どもたちの未来を拓く」の実現に向けてできることを最大限やっていきます。これからもよろしくお願いします。

そして、最後にこの話だけはどうしてもさせてください。今回僕の中で「僕が子供に素敵な機会を届けるんだ」と思っていました。なんだけど、助けてもらっていたのは僕でした。

僕が1時間目の途中で大人の皆さんが来る前に、印刷物を取りに職員室に行ったタイミングで、うちのクラスの子達は社会のプロジェクト学習の一貫でそれぞれ自然災害について調べてまとめていました。教室を空けた数分間の出来事を、たまたまクラスにいた大学生ボランティアの人が教えてくれました。

クラスの子たちが、今日僕が教室をあけたタイミングでなんども、「小泉先生頑張ってるから〇〇しよう」と言っていました。落ち着かない状況とテンション感なりに、周りに声をかけて、コントロールしきれないなりに踏ん張ろうとしていた。

周りの子に対して今やることを促そうとする時も、僕を探していて見つけられなかった子が、「先生が、がんばってる」と自分で納得して、自分で友達に聞いて踏ん張る姿も、周りが助ける姿も、自分で踏ん張る姿もあったそうです。

なんで?どうして?そうしたのと大学生の子が聞いたときに「小泉先生がぁ〜今日は〜」っていう子がいたってこっそり教えてくれました。このことを知ったとき涙が止まらなかったことは子供たちにが内緒です。

たぶん、この実践を「小泉志信を含めた板橋第十小学校の教職員と100人の大人が子供に届けた授業」と捉え大人が多いと思います。でも、違うんです。板橋第十小学校の「子供100人」と「教職員」と「大人100人」でカタチにした授業だったんです。誰しもが学び手で、誰しもが作り手だったんだと思います。

今回の授業は一つのイベントではありません。1年間かけて子供たちが人生設計を考えていく探究学習のまだ土台作りにしか過ぎません。多様な人生を知り、これから大人と本気のプロジェクトをカタチにする中で、自己効力感を高めて、そこまでして初めて自分が生きたいと思う人生を歩けると信じて、人生設計を作ることができると考えています。

これからも皆さんのお力をお借りすることがあるかと思いますが、その時はもしよろしければ力を貸してください。本当に最高の1日でした。ありがとうございました。

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