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アナザー・ラウンド/トマス・ビンターベア監督作品 レビュー@note

最近、たて続けに見たデンマーク人監督トマス・ビンターベアの作品。
なぜこの監督に興味を持ったかと言うと僕の大好きなラース・フォン・トリアーらと共に、「純潔の誓い」と呼ばれる、映画を製作する上で10個の重要なルールを決めるという デンマークにおける映画運動【ドグマ95】を立ち上げた人だから。
 本作は、仕事でも家庭でも倦怠感、無力感の”中年の危機“に直面した4人の男性高校教師が『「人間は血中アルコール濃度が0.05%足りない状態で生まれてきている」というもの。つまり、飲酒によって血中アルコール濃度を0.05%に上げることで、人間は本来的に備わる活力と自信を取り戻し、仕事もプライヴェートもうまくいく......。』というノルウエーの哲学者の理論を実際に行い、その結果を論文にしようと試みます。
 勤務先の学校にアルコールを密かに持ち込み飲酒しながら、授業することで、口にするジョークも面白く、教室は活気に満ち、生徒との関係も良くなり、家族との関係も好転していきます。もちろん、もうちょっと血中アルコール濃度を上げてみようと調子に乗り、だんだんアルコールに溺れ、彼らの人生は、暗転し始めるわけです。近年はハリウッドにも呼ばれるマッツ・ミケルセンを主演に、デンマークの素晴らしい俳優たちの繊細な演技も素晴らしく、彼らが、大量の飲酒で酩酊しながら、北欧の家具に囲まれたスタイリッシュな部屋でレコードをかけ、踊る曲が、ニュー・オリンズのファンクバンドThe Metersの「Cissy Strut」とイカシてます。
また、最近はホモソーシャルとネガティブな表現をされている“男の絆”の描き方もリアル。こんな実験的なコンセプトのもと、人間臭さを描きながら、それをロジカルデータで検証していくなんてところは、“同志”ラース・フォン・トリア―を思い出させてくれます。

「アナザー・ラウンド」とはもちろん“もう一杯”という意味ですが、アルコールの力を借りて、もう一度自分の人生を活力に満ちたものに再生しようとしたという意味合いも込められているかもしれません。でもデンマーク語の原題は「DRUK』で、調べてみると短時間での大量の飲酒 〔宴会などでの〕飲み騒ぎをするという意味のようです。
この映画の面白いところは、お酒を描いた映画にありがちな酔っ払いの純真さを讃えるわけでも、飲酒の負の側面だけを強調するわけでもないところで、教師の友人の一人が、亡くなったにも関わらず、最後は、主人公は高校の教え子ともに、卒業イベントで飲酒します。(デンマークでは飲酒は16歳から可能という、飲酒に対して緩やかな国という背景もあります。)。

僕はよく2月にデンマークに出張に行ったのですが、、その時必ずコペンハーゲンの街中で、見かけたのが、トラックを花で飾り、その荷台に大勢の学生が飲酒しながら、大騒ぎで走り回る光景。これは、高校の卒業時のお祭りのようなもので、この映画の最後にもそれが出て来て、主人公が、今までの苦難を乗り越えたうえで、飲酒しながら、踊るラストシーンは特に素晴らしい。
2020年のカンヌ映画祭で国際長編映画賞受賞を獲得など、ヨーロッパを中心に高い評価を得た作品ですが、日本ではあまり知られてないのが少し残念です。
飲む人、飲まない人、ぞれぞれによって印象は変わると思いますが、状況説明が多すぎたり無理やり一つの方向に感動させられたりと、見る側の入る余地がない映画も多い中、心地よい余韻を残してくれる作品でした。
ただ、予告編の後半に出てくる日本編集部分は、エンターテイメントの方向で、映画を売り出そうという感じでいただけません。
#デンマーク映画 #映画  


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