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「力を抜け」というアドバイスはダメなアドバイス(ランニング改善)

だいぶ前の話ですが、サッカーを習いに行ってたんです。何の経緯か、職場でサッカー部に入ってしまい、周りが上手すぎて自分が下手すぎて、なんとかしなきゃな、という事で、教えてくれる所を探して教わりに行っていました。
そこで、色々な技術を教わって、それは楽しかったのですが、いつからか、自分がもらうアドバイスが「肩の力を抜け」ばかりになってしまったんです。
その教室は良心的で、練習後、一人一人にアドバイスしてくれる時間があったのですが、そこでのアドバイスも毎回「肩の力が入ってしまっているから、抜くように」で固定されてしまって、肩の力が抜けないと、先には進めない感じになっちゃっていました。で、なんとかしようとはしたのですが、どうしようもできなくて、「こりゃダメだ」と思って行かなくなってしまいました。(職場のサッカー部もフェードアウトしてしまいました。)

それで、その後、コーチングを学んだり、自分でもランニングコーチの真似事みたいな事をやってきて、今なら分かります。私は何も悪くなかった。コーチのアドバイスがダメだった。って。
これから、何がダメだったのか、の話を書きます。
(もし、まかり間違って、その時のコーチがこの稿を読む事があったなら、どうか勉強してその後の指導に役立てて、私のような生徒が出ないようにしてください。)

「力を抜け」のアドバイスが有効な場合、無効な場合

もちろん、「力を抜け」のアドバイスが有効な場合はあります。それは、相手が「力を入れなきゃ」と思っている場合です。
力を入れて頑張ってやらなきゃ、と思い込んでいる相手に対してなら、そんな力を入れなくても良いという意味で、「力を抜け」と言ってあげる事で、力を入れようとしなくなり、それで劇的に改善する事はあると思います。
でも、無意識に力が入ってしまっている場合、意識して力を入れているのではないのだから、「力を抜け」と言われたって、どうやって力を抜けば良いか分からないのですから、本人にはどうしようもない訳です。
そんな中、「力を抜け」というアドバイスを送り続ける事は、何の解決にもならない、どころか、相手に「自分はダメだ」という劣等感を植え付けてしまう事になってしまいます。
相手の可能性を開くのがコーチの役割なのに、相手の可能性を閉ざすような指導をしては、全然ダメなアドバイスだったと思います。
(現に私は、サッカーするのが嫌になってしまいましたから。)

では、どういう指導をすべきだったのか。

「コーチング」とは教える事(ティーチング)ではなく、できるように導く事

これ、コーチングの本の最初の方に書いてある事なんですよね。
例として挙げられるのが、テニスでボールを打ち返すコツをコーチする時に、やり方を細かく教えるのではなく、「バウンド・ヒット」といったリズムをとる事で自然と打ち返せるように導く、という事例です。
「教える」のではなく、「やれるように導く」事、そのために色々な事を創意工夫して、結果としてやれるようにする、それがコーチングなんだ、と。
なので、ティーチングで、教えてできるようになるのなら、どんどん教えれば良いんです。でも、教えてもできない時(そういう時は多々あるはず)、そんな時にどうやってできるように導けるか、というのが、コーチの腕の見せ所なんです。
(で、コーチングの原則としては、「答えは自分の中にある」とみなして、自発的に答えを見つけ出せるように支援、とかなんとか、色々あるんですが、話が逸れるんでここでは深く触れません。単に「やれるように工夫する」って事だけで十分なので。)
そのために、例えば練習方法を工夫してみたり(バッティングで色んなティーバッティングをしてボールを捉える感覚を養う、みたいな)、擬音語で伝わる、なんてのも良くあるんですよね。伝わる人にしか伝わらない方法ですが、人によっては劇的に効いたりもします。まぁ色んな事をして、結果としてできるようになったらオッケー、みたいな感じです。
(そういう意味で、コーチングって結果論みたいな所はなきしにもあらず、です。なので、特に日本では結果論で指導するコーチングがまかり通っていたりするんですが。)
なので、コーチングって、相手によってやり方をかえるべきものだと思います。相手を良く見て行わないといけないものなんだろうなって。

肩の力を抜く実践的なアドバイス

ちょっと話がコーチングの話に逸れていったので、「肩の力を抜く」話に戻します。
で、「肩の力を抜く」ためには、どうすれば良いか、なんですが。
これは私の場合だったので、人によって違う場合もあるでしょうが、参考にはなるかもしれないので、一応、読んでみてください。
私の場合ですが、肩の力が入ってしまっている時に、肩が上がってしまっていました。
なので、「肩を下げるにはどうすれば良いか」という事で、肩の力を抜けるようにアプローチしました。
良くマラソンとかで、腕を一時的にダランと下げてリラックスしようとしているのを見た事ないでしょうか。これは多分、肩に力が入っちゃったのを、腕をダランと下げる事で肩を下げて力を抜こうという方法だと思います。(ランニングでは良く使われる方法です。)ただ、この方法だと一時的には肩の力を抜けるかもしれませんが、癖ついちゃってる人は、またすぐ肩が上がって力が入ってしまいます。何度も何度もダランと下げてばかりだと腕が振れずに走りのバランスを崩してしまうこともあるので、そんなに多用できるアプローチじゃないんです。

色々やった中で、一つ有効だったのは、「腕振りを下の方でやる」という方法です。手がお尻くらいの高さを通過するくらい下の方で腕振りをするようにしました。そのような腕振りを練習して走るようにすると、肩が上がりにくくなりました。
少し脱線しますが、最近流行りのケニア人ランナー風の肘を深く曲げて抱え込むように腕振りするやり方は、肩に力が入って肩が上がりがちな人にはおすすめできないです。その人の特性によって、流行りの技術でも逆効果になるので、自分の特徴を良く知って、取り入れるようにしましょう。
もう一つ脱線すると、女子長距離の安藤選手は、腕をダラリと下げてほとんど腕振りをしない「忍者走り」で有名です。これは多分、普通に腕を振ると肩が上がって力が入ってしまい無駄にエネルギーを使ってしまうので、それなら腕を下げてほとんど腕を振らない事を選んでいる、という事だと思います。これは、安藤選手が腕振りをしなくてもバランスを取れる(それであのスピードで走れる)稀有な能力を持っているからこそ成り立つんだと思います。

トレーニングとして有効だったのは次の2つです。
1つ目は、文字通り「肩を下げる」トレーニングです。これはヨガの先生に教えてもらいました。
両手にまぁまぁ重いバーベルを持ちます。そのバーベルをイメージでスーパーの袋だとし、中にいっぱいの食材が、特に卵が入っていると思い込みます。そうすると、ちょっとでも乱暴に扱うと卵が割れてしまうので、そぉっと動かす必要があります。
そのイメージの中で、腕を伸ばしたまま肩を上げ下げする事でバーベルを持ち上げたり下ろしたりします。卵が入っているのでそぉっと、上下に肩だけで動かしていきます。
上げる時は肩が耳に付くくらいのイメージで、下げる時は首の皮が伸びるくらいのイメージで、特に下げる時にバーベルの重みを感じながら、その重みに身を任せる感じで少しずつ力を抜きながら下げていく感じです(重みに身を任せる割合を増やしながらそれによって肩が下に引っ張られていく感覚です)。最終的に首の皮で肩から下(腕、バーベル)がぶら下がってるイメージを、感覚に移していく感じです。
この練習を繰り返す事で、肩が下がる事と力が抜ける事がリンクする感覚を身につける事ができるようになりました。また、肩が上がった状態と下がった状態の違いが判別できるようになり、走っている時に肩が上がってしまっている事に気づけるようになりました。さらに、肩を下げる事も、少しずつですができるようになり、「肩に力が入ってしまう」悪癖がだいぶ改善してきました。

もう一つは、大胸筋の筋トレです。私は胸板が薄く大胸筋が全然なく、腕振りの時に大胸筋が全然使えてなかったんです。そこで筋トレをして少し大胸筋を鍛えて、同時に大胸筋を動かせるようにしました。
それによって、腕振りの時に大腰筋が動いている、使えているのが感じ取れるようになりました。同時に、大腰筋が使える腕振りができる事で、肩甲骨と同時に胸郭も動く、より柔らかい腕振りが、少しですが できるようになったんですね。
そういう腕振りになる事で、より、肩を下げやすくなり、腕振りを上の方で振っていても方だけ下げられるようになりました。
それで、だいぶ、肩に力が入る悪癖が改善できました。

これが、私が「肩の力を抜く」ために行ったアプローチになります。

再現あるコーチングのアプローチのために

上記は、私が色んな人のアドバイスをもらいながら、あと本とかも読みながら、自分なりに考えて分析して改善してきた結果なのですが、そこから学べる手法もあると思います。

まず、「力を抜く」事ができないならば、なぜ力が入ってしまっているか、とか、どうやれば力が入り、どうすれば力が抜けるのか、を分析する事から始める、という事ですね。そうする事で、力を抜くためのアプローチを探す手がかりとします。多分、この考え方が基本となると思います。

次に、「力を抜く」という事に直接アプローチするのではなく、肩に力が入っている時に現れる特徴=「肩が上がる」という現象にアプローチをする、という事です。
「力を抜く」という事が、どうすれば良いか分からない時に、「肩を下げる」という事なら操作可能じゃないか、と考える訳です。意識してできる、動かせる所を動かす事で、どうしようもできない部分をなんとかしよう、という事ですね。

最後に、このアプローチには、参考になった事例として、「マラソンランナーがレース中に力を抜くために腕をダランと下げている」というのがありました。そうやって参考になるものがあれば試してみて、どういうメカニズムでそれが効くかを考えてみると、どうやればできそうか、の着想が出てくるかもしれません。

これらは、他の事項の改善に対しても使える方法論ではないかな、と思っています。何より、結果論だけでなく、再現性のあるアプローチを生み出すために、考える手がかりとなるんじゃないなか、と思ったので、ここに書いておきます。

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