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【東京の夜】01 #さよならは足音を立てない

わたしたちは、夜が暗いことを知っている。

わたしたちは、夜が深いことを知っている。

わたしたちは、夜に孤独を感じやすいことを知っている。

夜の孤独はまぁ、まだいい。慣れている。

大勢が、見て見ぬフリをしながら生きている。

しかし、朝の孤独はどうだろう。

夜の孤独に対して、朝の孤独は、心をえぐる勢いが比べ物にならない。

〝それ〟をわたしは知っている。


その時のわたしと言ったら、

全ての事がどうでもいい、と真剣に思っていた。

愛おしい人と一緒にいても、

「孤独を感じるような相手なら一緒にいない方がマシじゃないか」

と思うような始末。

壊れていたのはわたしの方だったのに。

たくさん寄り添ってくれて、あたたかい言葉をかけてくれたのに、

いつもわたしの意識はうわの空だった。


わたしは忘れない。

缶のダカラをお湯で割ったものを作ってくれた時、

自然と涙が頬を伝った夜を。


わたしは忘れない。

知らない街の、雨が降った後の公園で、

ぬかるみながら歩いていたわたしをおんぶしてくれた真夜中を。


わたしは忘れない。

人生で初めて、嗚咽しながら泣いた朝を。


いつものように、わたしの家の玄関で、

履きにくそうな靴を履いていた。

いつものように、ハグをした。

そのままいつものように「行ってきます」と言ってほしかった。

言うわけがない。

わたしから別れを告げたのだ。

またねと言って閉める扉を見送った後、

急いでベランダへ出た。

振り返るはずないと思っていた。

だけど、キミは振り返って大きく手を振っていた。

つられてわたしも大きく手を振った。

またね、ではなくサヨナラだなぁ。

今年の梅雨は長かったのに、

空は快晴だった。

それがどうしても気に食わなかった。


その日の朝、ぬくもりのないベッドで感じた〝孤独な朝〟を

わたしはまだ忘れることができない。






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