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「受け入れる側から送り出す側への転身」(前編)

1.技能実習教育拠点のメッカ「バクニン」

ベトナムの首都ハノイから北東へ車で1時間半ほどに位置するバクニン市周辺は、田園風景の広がるのどかな田舎町だ。かつては絹織物業で栄えていたが、今では農産物の集積地として国内外の企業から注目を集めている。紅河が運んだ肥沃な土が堆積し、保水性や通気性の優れる土壌が広がっているため、野菜生産に適しているそうだ。
そして、最近、この地域は技能実習教育拠点のメッカにもなりつつある。
多くのベトナム送出機関の日本語学校や訓練センターが、バクニンに集中する流れが強まってきている。ハノイ中心部から40km程度と、程近い距離にあり、不動産賃料が割安な上、都会のような遊びの誘惑もないため、実習生が日本語学習に熱中するのには打ってつけの場所なのだ。
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2.ベトナム人技能実習生との出会い

そんなバクニンの某日本語学校で、一人の日本語教師 穴沢啓太さん(39歳)と出会った。
穴沢さんは、昨年まで群馬県の縫製関係の会社に勤めていた。その会社にはオーダーメードのカーテンを縫製する工場があり、裁断、ミシン、検査等、一連の作業工程は機械化が困難で、人の手を要するものが多く、仕事を覚えるには、最低でも3年程度はかかるという。当時、年中人手不足の状態がつづいており、工場を取り仕切る管理職として、一日も早い人員補充を会社に求めていた。
そんな中、待ちに待っていた新入社員が外国人であったことに最初にかなり困惑したそうだ。

「想像していたよりも日本語をしゃべれなくて、こりゃ困ったぞって、相当焦りましたね」

と、当時のことを振り返る。

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ミシンはある程度扱えるものの、即戦力というほどのスキルではない。作業に関する重要な指示を出しても、細かいニュアンスがなかなか伝わらない。結果的にやり直しが増え、想定通りに作業が進まない日々が続いた。一方、実習生たちは、皆、真面目で、粘り強く、一日も早く仕事を覚えようという必死さだけは、ひしひしと伝わってきたという。

さて、日本の縫製業界といえば、ここ20年来、外国人技能実習制度に依存してきた業界のひとつといえる。「縫い子」と言われる人手は、以前は中国の実習生が、最近ではベトナム、カンボジアからの実習生が担っている。日本のアパレル業界は、大手メーカーの商品を受注して作る下請け工場で成り立っており、近年はより安く作れる海外に生産が奪われてきた。安い加工料しかもらえない工場では、低賃金で働く実習生がいるのが当たり前とされてきたのかもしれない。
業界団体の資料によれば、繊維産業において、実習生を受入れている会社は、平成29年末実績で、約6千社、3万1千人にものぼる。(平成30年6月19日:「繊維産業技能実習事業協議会」資料より)
穴沢さんの務めていた会社も、そんな人で不足にあえぐ一社だったのかもしれない。

3.日本語教師への分岐点

そんなある日、一人の実習生から

「日本のことをもっといろいろと知りたい。日本語も教えて欲しい。」

と頼まれた。
これをキッカケに、休憩時間や就業後に、日本語を教えるようになり、それが穴沢さんを日本語教師へと導く人生の分岐点となった。
最初は仕事がうまく進むようにとの思いからだったが、始めてみると、仕事以前の問題を抱えていることが分かってきた。
普段の生活を送るために必要な、日本の一般常識や基本ルールの理解が欠けていた。そして、皆それぞれ、生活面で何かしら困ったことや苦い経験をしていることもよくわかってきた。
そこで、対話形式の授業で、実習生の疑問や知りたいことに一つひとつ丁寧に答えていった。回を重ねるごとに、互いの距離が縮まっていくのを感じたそうだ。こうして、「日本語」を教える時間は「日本」を教える時間となり、生活上の悩みや疑問を解決する場となっていったのだった。
元々真面目で粘り強い実習生たちは、新しい知識をドンドン吸収し、中には日本語能力検定二級を取得する者も出てきたほどだった。なにより、日中の仕事が円滑に進むようになり、穴沢さん自身確かな手ごたえを感じるようになったそうだ。

「仕事でクタクタに疲れていても、就業後のこの授業時間はとにかく楽しくてやりがいを感じましたね。」

と、それまで日本語教育どころか外国人と接する機会も殆どなかった穴沢さんにとって、大きな自信となっていった。
そして週末には、実習生たちを連れて出かけるようにもなった。地元のショッピングモールやアウトレットストアで買い物に付き合ったり、時にはフラワーパークや富士山など、遠出の日帰り旅行に行ったこともあるそうだ。

そんな生活を4年ほど続けた後に、穴沢さんは一身上の事情でその縫製工場を退社することになる。
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(※このnoteは、ビル新聞2019年9月23日号掲載「リアルタイム外国人技能実習24時」Vol.12を加筆転載したものです。)

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