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『謝肉祭』髙木竜馬氏のピアノと村上春樹氏の本と

2024年2月11日、浜離宮朝日ホールにて開催された髙木竜馬さんのピアノリサイタルへ行ってきました。竜馬さんの音色に惹かれて何度かコンサートへ足を運んでいます。今回初めて竜馬さんのソロピアノリサイタルへ行くのに、もうズキズキワクワク(東京ヴギウギ調 笑)
しかも演目にシューマン「謝肉祭」があるのです。村上春樹氏の同名小説を読んでいたので尚更楽しみでした。そこに至るまで重なる連鎖的な繋がりがあり、これはもう全て必然だったのだと感じてます。

シューマン「謝肉祭」

この曲のことは知らなかった。私はクラッシック音楽は好きだが、詳しくはない。2月のピアノリサイタルで竜馬さんがこの曲を弾くと知り、予習のためにYouTubeでこの曲を聴き始めたのが最初だ。そしてリサイタルに向けての竜馬さんの記事を読み、「謝肉祭」のことをもっと知りたいと思った。

この曲の私の最初の感想は、なんだろう、私の好きな感じではないなぁ、というのが正直な感想だった。

『一人称単数』をインスタで見かける

そんなある日、その頃インスタでフォローし始めた竜馬さん推しの方の投稿写真で、村上春樹氏の『一人称単数』の表紙がパッと現れたのだ!「あれ?」と思って投稿を読むと、その中に竜馬さんが今度のリサイタルで弾く「謝肉祭」と同名小説があるというではないか。この本は私も持っている。『謝肉祭』なんてあったかしら?私、忘れている?
兎にも角にもこの投稿に出会えたことと繋がりに感謝!

慌てて本棚から『一人称単数』の単行本を探し出す。

8作それぞれに個性的なストーリーがある

村上春樹氏の本

村上春樹氏の作品はわりと読んでいる。村上氏の描く独特の世界が嫌いじゃない。村上氏作品には多くの音楽が流れている。クラッシックからジャズ、洋楽など知っている曲もあれば名前も知らない聴いたこともない曲も多い。読んでいて調べて聴くこともあればそのままにして読み進めてしまうこともある。

閉店してしまう本屋で購入

昨年(2023年)の春頃だろうか。(この頃はまだ髙木竜馬さんのコンサートへは行っていない)8作からなる短編小説集『一人称単数』の文庫本を、近々閉店してしまう昔ながらの書店で購入した。

その書店は昔からある街の本屋で、昭和感漂う感じが好きだった。こうした書店が閉店してまうは寂しい。

最後に村上氏の新刊を買おうと思ったのだが、扱っていないとのこと。まだ未読の文庫本『一人称単数』があったのでそれを買った。これもまた繋がりだったのか。

8作の中の6作目に、小説『謝肉祭』があった。

しかし、私はそれを読んでいなかった。別の本を読み出してそちらに気を取られているうちに『一人称単数』の短編小説5作目にとりかかるかその手前で、その本を棚に置いてしまっていた。そしてそのままに。例えるなら、後でお菓子を食べようと取っておいたのに、そのお菓子の存在を忘れてしまったかのように。

しかし、お菓子を思い出す日がきたのだ!本を手にとる時が。そうよ、そうよ、この本を読まなきゃ。読みたい、はやる気持ちを抑えつつ、ちゃんと順番通り5作目を読み終え、6作目の『謝肉祭』を読んだ。

小説『謝肉祭』

その話の中で、外見の醜い女性が「ピアノ曲でたった一曲だけ残すとしたら、言うなれば無人島に持って行くたった一曲のピアノ音楽とは何か」と主人公の「僕」に問う。「僕」はシューマンの「謝肉祭」と答えているのだ。なるほど、そうなのか。そんなに惹きつけてやまない魅力がある曲なのか。

小説を読みつつ、シューマンの生涯を調べたり、「謝肉祭」の解説を読んで曲を何回も聴くうちに、なんだか癖になるというか、仮面を被ったキャラクターが出てくる劇を観ているような感じになってきた。聴けば聴くほどに奥が深いというか、、、。

小説の方は、終盤事件が起こり思わぬ展開となる。人は誰しも仮面と素顔の両方を持ち合わせて生きている、また過去の出来事の記憶は、あるときふと自分の元に訪れて心を揺さぶることがある、という下りで終わるストーリー。私は面白いと感じたし、やっぱり村上ワールドが好きなようだ。

ピアノリサイタルへ


浜離宮朝日ホール

そして迎えたピアノリサイタルの日。一部二部と分かれていて、謝肉祭は二部プログラムの一番最後。

一部の演奏も素晴らしく胸に迫るものがあった。曲解説も冒頭にしてくれるので、分かりやすい。ラフマニノフの前奏曲や変奏曲では涙ぐんでしまうくらい。私が感じるに、竜馬さんの弾き方はための部分がありつつ、ここぞのところでは迫力がすごいのだ。この音に魅了されてしまう。

いよいよ二部。静と動のテーマ。私の大好きなドビュッシー。それは静かな白い雪の上の足跡や神秘的なカノーブ(古代エジプトの壺)が目に浮かぶよう。

そしていよいよ謝肉祭へ。

最初から耳に響く和音で始まるこの曲は文学的な要素が含まれている。仮面舞踏会の情景が描かれており、舞踏会には様々なキャラクターが現れる。21曲からなるこの作品はそのキャラクターごとの表現だけでなく、村上氏の小説の引用になるが

だから演奏者は登場人物たちの、仮面とその下にある顔の双方を、音楽的に表現しなくてはならない

『謝肉祭』より


私はただのピアノ好きの一般素人なので、芸術的表現の解釈に長けてない。ただそれでも竜馬さんのピアノってすごいんじゃないかと、感じた。聴いて鳥肌が立つ感覚こそ真実であって、難しいことは置いて、ただただ感動した、それだけでもう良いのではないか、と思う。

素晴らしかった。いろんな音に溢れていた。背中を丸めながら細やかに弾いてるとき、堂々と立ち上がるような弾き方のとき、腕を最後に振り上げる箇所、どれも竜馬さんだけど、違う竜馬さんがいたような。登場人物を追いかけて集中して聴いているうちにあっという間に最後の華やかなフィナーレになってしまった。すごかった。もう一度聴きたい。

アンコールも静と動の二曲。トロイメライとキエフの大門。最初から最後のアンコールまで本当に心に響く演奏をありがとうございました!

サイン会

というわけでリサイタルは盛況のうちに終演。その後は、お楽しみのサイン会!初めての直接サイン会に並びましたよ。この歳にしてサインをいただくために並ぶのは初めて。息子と変わらない年の青年を応援する母のような気持ちです笑

サインは村上春樹氏単行本の謝肉祭の文字があるページにしてもらった。もし可能であるなら、ここに書いてもらう、と決めて持ってきた。スタッフさんに聞いたらOKだったので良かった。

竜馬さんと直接言葉を交わすのも初めて。ありきたりな言葉とお礼だけ言うのみで終わってしまった。語彙力の無さを痛感。でも嬉しかった。

こんなに楽しませてもらえたのは、村上氏の小説のおかげも大きい。竜馬さんのピアノと村上氏の小説が私の中で混ざりあって「謝肉祭」を堪能できた、いや、まだ堪能中、理解しきれていないが、しようとしている途中だ。

まだまだ書き足りない部分もあるが、長くなるのでこの辺で。

サインを頂きました!

おわりに

竜馬さんの生演奏を聴くのは、昨年の8月徳島県阿南市4台ピアノコンサートから始まって、12月江戸川区のホールでの室内楽コンサート、東京オペラシティの第九2台ピアノ、1月は静岡交響楽団とのピアノ協奏曲に続いて今回5回目。どれも素晴らしくそれぞれに思い出がある。今回も感慨深い思い出が増えた。

今年は竜馬さんはじめ、他のピアニストの方たちのコンサートへも行く予定だ。楽しみだなぁ。同じ曲でも別の人が弾くと別のバージョンになるのが面白い。

そして私の願いは、あの四人の4台ピアノ演奏をまた聴きに行きたいということ。どうか叶いますように。

最後までお付き合いくださりありがとうございました。

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