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日本語教育プログラムPCリハビリプログラムあのころ描きたかったことを書きますあなたの作る冊子の1ページ空いてたらください。

最近の記事

【すみれのうごき】

【すみれのうごき】 全てを捨てることでしか生き延びて来れなかったその男は すみれの花の姿形を知らない 他の者がおのれの心と歴史を後生大事に抱えながら 男にはそれらを捨てたり傷つけたりしろとがなり立てるのに 男は抵抗できなかった 言うことを聞けば生かしてくれる、そう信じた 全てを捨てることでしか生き延びて来れなかったその男は すみれの花の姿形を知らない どんな秀才も勉強家も いますぐ世界の全てを救うことができない どんなに意識が高くても いますぐ男の心と

    • Wriggling in miniature garden

      「いいかあ、時代は異世界なんだよ。つるぺたエルフに巨乳の僧侶。これよぉ」 そう大声で叫びながら東は五杯目の生中ビールを煽った。 くたびれたスーツにネクタイを緩ませたこの男は大学時代の友人だ。 東は都会で弱小小説雑誌の編集をしていた。会うのは10年ぶりになる。ササヤイッターでちょくちょく連絡を取り合っていたものの、お互いに住んでる場所が遠いのでなんとなく疎遠になっていた。 今回会えたのは、東の気まぐれに過ぎない。彼の方から俺に、会えないか、とリプが来たのでそれに応じることにした

      • HUMAN BEINGS③

        ライブハウスに着くと長蛇の列ができていた。ファラオズTシャツ、ファラオズタオル、ファラオズリストバンドのオンパレードだった。 僕だけが愛していると思っていたバンド。しかし真相は違ったのだ。 少し考えればわかることだ。彼らの音楽は主要レーベルから出ており、流通に乗り、全国に発送される。それを支えるファンは全国にいるはずなのだ。その一部とはいえ、こうして目の当たりにすると、新しい世界に入った気分になった。 ドキドキして列に加わり、チケットを確認する。ドリンク代500円も握りしめた

        • HUMAN BEINGS②

          スマートフォンの電池がなくなったので、急遽モコモショップに入った。 内装は地元のショップとあまり変わらないが、店員が少し違う。 肌も綺麗だし、姿勢正しく構えている。あ、化粧か、と思った次の瞬間に若い女性の店員がこちらに甲高い声をあげてやってきた。 「いらっしゃいませー!どのようなご用件ですか?」 僕は声と迫力にビクついてしまった。くそ、都会めぇ。ビビらせんなよ。 「あ、その、電源を借りたくて」 「さようでございますか。こちらです」 流れるように店員に促され、電源コーナーへ。プ

        【すみれのうごき】

          HUMAN BEINGS①

          友達なんかいらない。 僕の高校3年間は暗黒、の一言に尽きた。 弁護士の父親を見返すために、僕はずっと勉強に明け暮れていた。両親は僕を学習塾に釘付けにし、学校も気鋭の進学校だったので課題づけ。朝から晩まで勉強を強いられていたのだ。 親父の口癖は「公序良俗に反することはやるな」 勉強、勉学が至上であり、その他はナンセンス。余裕のある他の学生がカラオケや合コン(ちょっとよく意味がわからないが)なんかにいっている間、僕は学習机に噛り付いているしかなかったのだ。 恋も青春も捨て去って、

          HUMAN BEINGS①

          Phantom after the rain

          「もうよそう、お互い大人になったんだ。 僕は先に行く」 そう言われたのは2年前。出張から帰って自宅最寄りのバス停を降りて携帯電話に出た時だった。 電話の相手は大学時代の友人だ。 彼とは、ずっと温め続けた物語があった。 大学一回生の時に彼と出会った。彼は開口一番自信満々にこう言った。 「俺は在学中に小説家になる。大学に入ったのは実家を出るためであって、Fランだろうが構いやしなかった。力技で獲得したモラトリアムをフルに使ってやる」 彼は何でも書いた。SF、冒険小説、恋愛もの。毎

          Phantom after the rain

          再放送④終

          2025年8月。 依頼があった介護カンファレンスが終わって帰宅。もう午後10時。夏とは言えあたりは真っ暗に。後輩にタクシーで送ってもらって家の前へ。タクシー代も奢ってもらえるって言うからそこは後輩といはいえ遠慮なく。代わりに、今度は食事でも奢ろうか、と先輩風をちゃんとふかしておく。 タクシーを見送って、家の中へ。 リビングでお茶を淹れて一息つく。旦那も娘ももう寝てしまったようだ。 そう言えば、今日は娘の課題でどこか二人で遠出するっていってたっけ。 私は、今日の分の1日日記を書

          再放送④終

          再放送③

          次の取材先は山の中。うちは海沿いの片田舎だが、ここは針葉樹林の生い茂る見渡す限り緑・緑・緑の片田舎。 その山中。山頂へ登る急カーブの道路の脇にひらけた空間がある。そこに小さいログハウスとプレハブ製の離れが立っていた。その前にキャンプセットを広げ、バーベキューパーティーを開いたのが親父の友人、大館だった。 「とりあえず肉を食いなさい。バーベキューの真価は肉だ。肉・肉・野菜・肉の順で肉を食いなさい」 そういって彼はこんがり焼けた肉汁たっぷりの肉を皿に盛り、奥さんに言われてしぶしぶ

          再放送③

          再放送②

          2025年8月。 あたしは居間で寝転んでいる。今日も朝から蒸し暑いが、お母さんから冷房の使用は控えろとのお達しが出ているので扇風機を回している。 ガリガリ君をかじりながら、テレビをなんとなくつけ、自治会の広報誌を眺める。 小学校は夏休みだけど、あっちゃんは家族と海外旅行に行くって言ってたし、みいはイベントに友達と行くって言ってたから、向こう一週間は遊び相手がいない。 やがて自治会の広報誌の巻末にたどり着いた。そこにはある漫画が5ページほ載っている。 「希望戦士ウィンガム」 主

          再放送②

          再放送①

          2025年8月。 「親父、あたしにビジネス教えて」 「ああ?」 居間で寝ていると、長女が声を掛けてきた。 今年で小学五年生。あちらこちら女子から女性へと変貌を遂げつつある。お父さんは嬉しいぞ。 しかし、そんなお父さんの気持ちとは裏腹に、長女・晴子の顔はひん曲がっている。俺とはあまり喋りたくないらしい。それもそのはず思春期真っ只中に入ってしまっていて、親の常識は子の非常識。すでに晴子は自分の世界を作り始めるお年頃であり、旧世代たるべき、しかも旧世代特有の匂いが蔓延するオヤジなる

          再放送①

          ふたごぼし

          99年2月。午後20時。 駅から少し離れたビルとビルの隙間。中央には地下街に続く階段がある。その階段の手前には昼間は路上イベントなどが催されるひらけた空間がある。日中はサラリーマンやビルに入っている百貨店の客でごった返すが、この時間は皆帰途についていていたり、ビルの中で残業していたりと人通りは少ない。 俺はその一画でエレキベースとアンプを広げた。電源はビルのものを拝借する。 子供達は未来に焦がれて歌ってる 彼らに主人はいらない ただ小さな挑戦者達が叫んでいるんだ イエーイエ

          ふたごぼし

          この惑星に住む全ての、愛すべき愚者たちへ

          1998年3月。  卒業式も終わり、友人たちももう帰ってしまっていた。 僕はもう少しだけここにいようと教室に残っていた。 39ホームルーム。36人のクラスメイト。正直交流がそんなにあったわけじゃない。話をするのは数人だけで、他の奴らのことは詳しくは知らない。 3年間の高校時代。親たちが羨むハイティーン最後の青春時代を僕は演劇部で過ごしたけれど、演劇部の存在意義は6月の文化祭での舞台発表くらいのもので、その他の時期は部活の連中と部室でおかし食べたりトランプやったりして過ごしてい

          この惑星に住む全ての、愛すべき愚者たちへ