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ワクワクリベンジ読書のすすめ~『ワンダフル・ライフ』丸山正樹著~

「創作のあり方」「障害のとらえ方」について深く学ぶことができた。
そもそもこの作品は、頸椎損傷の妻の介護・DINKS夫婦の子づくり・不倫相手の父親が認知症で入院・障害者とのネットとリアルでのコミュニケーション、という4つの話から構成されている。
まったく関係のない話が独立した形で書かれていると思っていたが、実はそれぞれの話の女性主人公(妻・摂・岩子・GANCO)が同一人物であることが最後に判明する。村上春樹ばりのパラレルワールドである。巻末の年表から彼女たち(?)が同一人物であることをあらわしているが、「エンドロール」の記載から考えると、著者にとってパラレルワールドは一つの仮説であり、読者なりの考えでもって読み進めることを期待しているようにも感じた。
著者の創造力の鋭さを感じるとともに、創作の奥深さを味わうことができた。
 
構成上の特徴は上記の通りだが、4つの話を横ぐしで突き刺しているキーワードがある。「障害」である。頸椎損傷の障害を抱える奥様を日々介護している著者だけに、介護者にとっての心の機微、さらには「障害」に対する当事者や支援者、一般の人たちとの見方の違いが、より具体的にわかりやすくあらわされていた。著者の主張を強く感じるところである。
つまり、障害者も社会人であるということ。そして、ひとりの人間としての尊厳が守られなければならないということ。
当たり前のことのようであっても、現実の世界では往々にして見落とされがちである。また一方で当事者を取り巻く関係性の中から複雑な問題も多々出てくる。
作品の中でも、「障害を持った子どもと向き合えるか」「重度障害者と普通の恋愛ができるか」というものから「障害当事者の支援者に対するセクハラは許されるか」「当事者と家族それぞれの思いや葛藤は共有されているか」などの問題が提起されていたように思う。
 
まだまだブラックボックスが多いのも障害の世界の特徴。
決してきれいごとを言うつもりはない。ただもっと「障害者の社会性」についてディスクローズすることが必要ではないだろうか。その過程で困惑することも多いに違いない。しかし、ひとりの人間として、社会人として当事者を見つめ支えるとともに、時に優しく時に厳しく接しながら、家族・地域を含めた社会との関係性について真剣に議論することが求められているように思う。
重度の高次脳機能障害を患う家内を日夜介護するわが身としても、深く考えさせられた。
とても強い刺激を受けた作品である。

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