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【子育てにかかわる人たちへ】人間理解のために読むべき一冊

1ページ、1ページにとても重要な情報が詰まっていた。

『虐待が脳を変える―脳科学者からのメッセージ』。小児発達学や小児精神神経学などを専門とする脳科学者の友田明美さんの研究を、一般読者向けに分かりやすくまとめた一冊だ。

端的に言えば、虐待は脳を変えてしまうほどの恐ろしい行為だという話なのだけど、重要なのはここでいう「虐待」は、その言葉から多くの人が連想するような身体的暴力に限らないということだ。

「虐待」というと強烈なイメージを与えがちだが、実際には親や子どもが自覚しておらず、周囲も気づかないようなものも含まれる。そのため、筆者は「マルトリートメント」(不適切な養育)という言葉のほうが適切だと指摘している。

本書には虐待の種類や、その影響について書かれているので、決して「楽しい」本ではない。

だけれども、どのような言動がどのような影響を引き起こすのかを、具体的に、ファクトベースで知っておくことは、人間理解という点で万人に役に立つはずだ。

「児童虐待」が社会問題として取り沙汰される今、この問題が社会にとっていかに重要な課題なのかを理解するのにも良い。

花園大学・和田一郎教授らによる試算(2012年)では、子ども虐待によって生じる社会的な経費や損失は、少なくとも年間1兆6千億円にのぼるという。つまり、「国がお金をかけて防止に取り組む価値のある問題」なのだと。

(もちろん、その損失額にかかわらず解決すべきことだとは思うけれども。)

印象的だったのは、虐待に対する解決策として「虐待親からの隔離はほとんどの場合、解決策とはならない」という言葉だ。筆者はこう続ける。

子どもの多くはそんな親でも一緒に生活することを選ぶ。
だから、悪(虐待をする親)を倒せば正義が勝つ(子どもが守られる)は成り立たない。不幸な子どもを減らすためにしなければならないことは、親を罰することではなく、親子の関係を改善して、子どものこころや身体を傷つける可能性のある行為を正していくことである。

この事実が、家庭内における虐待問題の苦しさ、複雑さを表していると思う。

そして、数々の被虐待経験のある人びとの治療に携わってきた筆者は、「罰則や治療よりも、予防を」と強調する。

ちなみにちょうどここ数日にわたって、米国の児童虐待の予防に関する取り組みを朝日新聞が連載している。妊娠期も含めた子育て支援の重要性について説いた、とても良い連載だと思うのでご関心のある方はどうぞ。

本書は友田さんの語り口調で、母親としての自身のエピソードも交えながら、比較的読みやすく書かれているので、一人でも多くの方に手に取っていただきたい。180ページほどだが、濃密な情報が詰まっている。

とくに、これから親になる人、絶賛子育て中の人、生きづらさを感じている人、虐待を受けた経験のある人、医療・保健・福祉などの対人支援スキルを必要とする職業についている人はぜひ(専門家の方々にはもう常識かもしれないが)。

花を買って生活に彩りを…