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激論!朝まで東京ディズニーシー【ここがへんだよディズニーシー①】

「東京ディズニーシーは、世界最高のテーマパークである」

そう聞いてあなたはどう思うだろうか。「過剰じゃね?」と思ったあなた、実はそんなことはないのである。

YouTubeで“disneysea”と検索してみよう。
多くの海外YouTuberが東京ディズニーシーに関する動画を作成しており、その動画には“Disney's Best Park”とか“the Best Disney Park in the World"という文言が並んでいる。

サムネイルには太字で“THE BEST"「最高」の文字。タイトルは“DisneySea Changed Theme Parks Forever.”「ディズニーシーがテーマパークを変えてしまった」である。この動画はパークの歴史を解説しているが、いやはや思想が強くておもしろい。

10 Reasons Tokyo DisneySea Is Disney’s Best Park”「東京ディズニーシーがディズニー史上最高のパークである10の理由」という記事では、「世界一のテーマパークは東京ディズニーシーかディズニーランドか」という議論が扱われる。
ここでいうディズニーランドとは、カリフォルニア州に作られた初代ディズニーランドのことだ。東京ディズニーシーはどうやら、世界のディズニーパーク(どころかテーマパークそのもの)の開祖と比較対象になるようなシロモノだというのである。
ブログの筆者は、ディズニーランドは「世界最高のテーマパーク」論において「懐かしさ」と「先駆的な地位」によって過大評価されていると考えているようだ。ウォルト・ディズニーが関わったということをディズニーランドのファンは何かと自慢するが、それはいまのパークのクオリティと直接関係がない……というのが主張の要旨だ。文章はこのあと「スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックが関わったからといって、MacBook Pro RetinaよりもApple-1の方がより優れていると言う人は流石にいないだろう」と続く。

では、東京ディズニーシーがこれほどまでに世界最高と目されるのは何故だろうか?
それは、東京ディズニーシーと他のディズニーパークの間に圧倒的な違いがあるからであろう。その違いとは一体なんだろうか?

この記事では、その謎を解く鍵を「テーマエリア」というディズニーテーマパーク独自の思想に求める。
これから我々は、ディズニーパークのテーマエリアという概念を理解する中で、東京ディズニーシーがいかに世界唯一・世界最高のパークであったか・・・・ということを捉える。

なお、本格的に「激論!」が始まるのは第3話から。
その前に、この記事で簡単に事前準備を済ませてしまおう。


人生に全く必要のないムダな知識“テーマエリア研究”

アメリカ社会に対してディズニーテーマパークの諸原理が適用されていく現象を「ディズニー化」と定義して研究したアラン・ブライマンは、ディズニー化のひとつの側面として「テーマ化」を設定している。

テーマ化は対象となる物体に見せかけの意味と象徴性を与えている。現実の姿を超えた意味、または少なくともそれ以上の意味をその対象に与えているのである。テーマ化によって対象の物体に意味を吹き込むことで、実際よりも魅力的で興味深いものに変えると考えられる。

アラン・ブライマン[著]/能登路雅子[監訳]/森岡洋二[訳]『ディズニー化する社会─文化・消費・労働とグローバリゼーション』40ページ

ディズニーランドに隠された「テーマ化」とはいったいどのようなものなのか。
彼の書籍を読み進めていくと、ディズニーテーマパークは大きく分けて三つのテーマ化が行われていることがわかる。

まず、ディズニー社そのものが夢や魔法のイメージで自らをテーマ化している。これはいわばブランディングのような具合である。
また、ディズニーランドというテーマパーク全体も、「過去を懐かしみ、未来に挑戦する場所」としてテーマ化されている。東京ディズニーシーの場合、オリエンタルランドの加賀見俊夫社長(パーク開業当時)の言葉がそれにあたるといえるだろう。

私たちは 水の惑星 地球と
海から誕生したすべての生命をたたえて
東京ディズニーシーをつくりました。

目前に広がる大海原を越えて
たどりつく世界には
勇気と発見、想像とロマンスにあふれた冒険が
あなたを待っています。
さあ 夢と感動と喜びの帆を揚げて
出港しましょう!

2001年9月4日
株式会社オリエンタルランド
代表取締役社長
加賀見 俊夫

そして、彼が最も重要なものとして挙げるのが「ランド」の概念である。
「各ランドまたは地区のテーマは、建築、装飾、環境設定、キャスト(従業員)の衣装、音響、販売用の商品と食べ物に表現されている。アトラクション、つまりライドとショーも同様にそのランドに合わせてあつらえてある」のだ(ブライマン2008, P47)。

ちなみに東京ディズニーシーの場合、「テーマランド」に対応するのが「テーマポート」であり、パークを7つの寄港地に分けて考えている。

【公式】7つのテーマポート | 東京ディズニーリゾート

ディズニーランドの魅力は“論理的整合性”である

さて、それでは、この「テーマエリア」というものは具体的にどのように機能するのだろうか?
より具体的な説明を、新井克弥の『ディズニーランドの社会学─脱ディズニー化するTDR』(2016、青弓社)に求める。

彼は、テーマパークの構造を紐解く上で「範列」(ジャンル)と「統辞」(物語)をキーワードとして設定する。そして、その例として東京ディズニーランドのトゥモローランドを挙げている。
「ジャンル」の側面から、トゥモローランドは「トゥモロー」すなわち「未来」をテーマとしている。そのためこのエリアでは、ブライマン(2008)の言葉でいうところの「建築、装飾、環境設定、キャスト(従業員)の衣装、音響、販売用の商品と食べ物」といったありとあらゆるものに、宇宙技術と最新の科学技術をモチーフとしたデザインが施されている。
「物語」の側面から、例えばアトラクション「スター・ツアーズ」には具体的に、「観光客として宇宙旅行のパッケージツアーに参加しよう」という物語が設定されている。このアトラクションは。映画シリーズ「スター・ウォーズ」をモチーフとしている。

スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー

ここで、「すべての施設がテーマに則っていて、物語を持っているってマジか?」「流石にそれは無理ではないか?」という疑問が生まれるのは必然だろう。
確かに、そういった設計上の無理はどうしても生じるようだ。

「スター・ツアーズ」の話を続けよう。
このアトラクションの出口には「パン・ギャラクティック・ピザ・ポート」というレストランが隣接しており、名前のとおりピザを販売している。「太陽系のどこにでも一土星日以内にピザを届ける」「もし間に合わなかったらタダ」がウリの宇宙展開ピザチェーン店という設定だ。
ここで新井(2016)は、「確かに店自体は未来という範列=ジャンルに従って構成されているようだが、それでもどうして売っているものがピザなのかがやはりしっくりこない」と前置きしている。
そしてそのことを「パン・ギャラクティック・ピザ・ポートは宅配ピザ屋の範列的要素=ピザの提供とスター・ツアーズの範列的要素=惑星間の運搬をそれぞれ併せ持つことによってスター・ツアーズと宅配ピザを関連させ、トゥモローランドでのピザ販売が範列的にそぐわなくなることを担保している」のだと説明する。何を言っているんだ?

ここで肝となるのは、どのストーリーにも「運ぶ」という共通点があること。
ピザを販売することは「未来」というテーマにそぐわないため、トゥモローランド的には本当はNGを出したい。そこで、「デリバリー・ピザ」という要素を利用してインチキをするわけである。「デリバリー・ピザ」の持つ「デリバリー」的要素と「スター・ツアーズ」の持つ「宇宙」的要素を合わせることで、「パン・ギャラクティック・ピザ・ポート」のピザ×宇宙のストーリーが生まれているのだ。ここで、「ピザを運ぶ」+「惑星間を運ぶ」=「惑星間でピザを運ぶ」という式を成り立たせることにより「テーマからの逸脱が免罪され」ているのである(新井2016, P74-76)。

パン・ギャラクティック・ピザ・ポート

The Pan Galactic Pizza Guarantee:
If you don't get your pizza in less than a Saturn Day, Its free!!

以上をまとめると、「テーマエリア」とは以下のように形成されるものであると考えられる。

  1. テーマエリア内の全ての施設は、同一のテーマに従ってデザインされている

  2. 施設がテーマに従ってデザインされる際、特定のストーリーを持つ

  3. 施設がテーマに従ってデザインされていても、施設の内容がテーマにそぐわない場合がある。その際、その施設の内容と別の施設のストーリーの間に共通項を作れば、テーマからの逸脱も許される場合がある

ここで注意して欲しいのは、それぞれの施設は全くの別世界であり、あくまでテーマ(または統辞=物語を軸とした免罪符的テーマ)上のつながりがあるのみである……ということだ。

「ストーリーが凝ってる」を言語化する

ここまで、ディズニーパークの「テーマエリア」という概念がどうやってできているのかをみてきた。
しかし、東京ディズニーシーが世界最高だと言われることの説明にはならない。これまで見てきたテーマエリアと、東京ディズニーシーのそれとでは、何か決定的な違いがあるのではないか……と、思う。

「東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの違いは何か」と聞かれたとき、あなたは答えられるだろうか?
一度でも訪れたことがあれば──あるいはパークに関心を持ったことがあれば──「ディズニーシーの方が大人向けだ」とか「ディズニーシーの方がストーリーが凝っている」というような言い方をご存知なのではなかろうか。個人的な感覚としても、それはまあ事実であると思う。
仮にそれが事実だとして、「大人向けだ」「ストーリーが凝っている」とは、具体的にどういったことを指すのだろうか?

そう、「ストーリーが凝っている」とは、アトラクションやレストランの問題ではなく、実はテーマエリアの問題なのだと私は思う。「ストーリーが凝っている」とは、「テーマエリアの構成として別のシステムを採用している」ことなのだ。

では、具体的にはどう違うのだろう──ある意味では東京ディズニーシーも、これから見ていく「別のシステム」を採用しているといえる。その違いこそ正しく、「東京ディズニーシーが世界最高と言われる理由」を紐解く鍵となるはずである。

B.Sea(東京ディズニーシー以前)

「ストーリーが凝っているエリア」は、厳密には東京ディズニーシーが最初ではないと私は考える。そこで、最も基本的なテーマエリアの構造が、その後どのように進化していったのか見てみよう。

例えば東京ディズニーランドの「ウエスタンランド」は、西部劇の巨大なセット……すなわち一つの西部の町として設計されている。金鉱山「ビッグサンダー・マウンテン」、商店「ゼネラルストア」「トレーディングポスト」、酒場「ザ・ダイヤモンド・ホースシュー」、劇場「グリズリー・ベア・ホール」、そのほかに町役場や保安所などの建物も見られ、すべての施設の集合体が「西部の町」を再現している。この点で、未来をテーマにする施設をただ集めただけの「トゥモローランド」とはしくみが異なっているのだ。ただし、あくまで各施設のストーリーは独立しており、交わっていなかった。

1992年にオープンしたユーロ・ディズニーランドの「フロンティアランド」では、アトラクション「ビッグサンダー・マウンテン」を廃鉱山とした地震の物語が、別のアトラクション「ファントムマナー」に登場する町の大地主の物語と結びつけられていた。(ちなみに東京ディズニーランドの「ウエスタンランド」は、世界のディズニーパークに存在する「フロンティアランド」の別名。また、「ファントムマナー」は「ホーンテッドマンション」の変奏版である)

ウエスタンランド

1993年にはカリフォルニア州ディズニーランドに、後の1996年には東京に、「トゥーンタウン」がオープンした。ミッキーマウスをはじめ、カートゥーン(漫画)のキャラクターが住む町がテーマである。エリア内の複数の施設では共通の内容を含む「W.A.C.K.Y.ラジオ」が放送されており、このラジオ内では、エリア内の複数の施設がかわりばんこで触れられている。

以上のように、東京ディズニーシー以前のディズニーパークにも、複数の施設のストーリーを紐付けてひとつの世界に溶け込ませようという発想は存在した。
こうしたエリアを、新井克也(2016)の説明した「テーマ」と「物語」によるテーマエリアからもう一歩踏み込んで考えたい。

「トゥモローランド」などと異なり、「ウエスタンランド」や「トゥーンタウン」の施設はすべて全く同じ世界に属し、テーマ以上のつながりを持っている。言うなれば、そのエリアのストーリーの一員となったとき、どこに泊まってどこで食事を買って、どこで仕事をして……ということが思い描けるような構成でなければならないのだ。

  1. テーマエリア内の全ての施設が、そのテーマ=特定のストーリーに従ってデザインされている

  2. 施設がテーマ=ストーリーに従ってデザインされる際、特定の役割を持つ

  3. 施設がテーマ=ストーリーに従ってデザインされていても、施設の内容がストーリーにそぐわない場合がある。その際、その施設の内容とその施設の役割の間に共通項を作れば、ストーリーからの逸脱も許される場合がある

これは、例えるならば「ディズニー映画」と「スター・ウォーズ」シリーズの違いのようなものである。
ディズニーが製作する『白雪姫』や『シンデレラ』や『アラジン』は、すべて別の世界の物語であるが「ディズニー」という括りで同じ棚に入れられてしまう。一方、「スター・ウォーズ」の9作品やアニメ・ドラマフランチャイズはすべて一つの世界の出来事で、繋がっている。前者が「トゥモローランド」、後者が「ウエスタンランド」の特徴を持っていると言えるだろう。

何故、東京ディズニーシーじゃなきゃダメなのか?

ここで一つの疑問がある。
こうしたエリアが既に存在したのなら、何故、東京ディズニーシーだけがもてはやされるのだろう?

その理由を、私は次のように分析する。

  1. 施設同士の関連付けを高い質で行ったこと

  2. 施設同士の関連付けに中心が存在しないこと

  3. すべてのエリアにおいて施設同士の関連付けが行われたこと

このうちの特に1と2を、2つの例とともに検証していきたい。

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『ディズニーシーがテーマパークを完全に変えてしまった。でも、どうやって?【ここがへんだよディズニーシー②】』


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