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NPOの発信に関わって10年の振り返りと、”共感”では助けがたい人たちのこと

1995年の神戸の震災、そして2011年の東北の震災、2020年のコロナ。市民活動・NPO活動は、災害を契機に活動を進化させてきた歴史があると思う。

1995年はボランティア元年と言われ、2011年は寄付元年と言われている。東北大震災では6000億円の寄付が集まり、「寄付文化」が広まる契機になった。そのタイミングで積極的なファンドレイジングを行い、事業規模を引き上げた団体もいくつかあるはずだ。

私は神戸の震災の時は7歳でニュースで見た以上の記憶を持たないのだけど、2011年の震災のタイミングでETICという社会起業家支援NPO(中間支援NPO)の東北復興チームに入った。大きな災害に対して、どういう風にリソースが集まるか・そのリソースをどう配分するか。そのタイミングでそこにいたからこそ見れたものがいろいろある。その後も広報・情報発信などを活かしてファンドレイズ等に関わり、トータルで10億近い寄付とその運用を見てきたと思う。



少し話は変わり、私は子どものころは自分が困り事の当事者だったけど、20歳を超えてからは”当事者”に直接相対するような現場の仕事はしばらくしていなかった。ファーストキャリアがニュース編集で、セカンドキャリアが中間支援NPO。マネジメントや数字に多少強くはなったが、「誰のための仕事なのか?」が直接的に見えづらかった。

2015年に独立し、広報等の仕事のかたわら”マッサージ屋さん”に擬態しながら、個人でのソーシャルワークをするようになった。パートナーからの暴力、レイプ被害、若年妊娠、あるいは統合失調症など、多様な人たちのからだに本当に生身で触れつつ、彼らの人生に少しだけ関わらせてもらった。

数年間、広報と現場を両方やりながらわかったことの1つは、”共感されやすい属性の当事者の支援”へのリソースを集めるには広報やファンドレイズは有用だけれど、そうじゃない層が確かにいる、ということだった。

たとえば「子ども支援」の寄付は集まりやすいけど、「保護者支援」の寄付ハードルは少し上がる。「10代妊婦のキャリア支援」だともっとだ。多くの個人や企業は、「応援するに足る共感性がある(応援することで他者に認められる/客観的納得がある)」事業を応援したいのだ。「その人がそうなるのは自己責任でしょ?」という言説に近づくほどファンドレイズは難しくなる。

私がテーマとして「若年妊婦・若年母親」や「虐待にいたった親の支援」「更生保護(元受刑者のキャリア支援)」などにずうっと関心を持ち続けているのは、彼らが”制度”からも、そしてさらには”共感”からも取り残されてしまった人々だからなのだと思う。



共感では助けがたい層をどう助けうるのか? 彼らの背景を丁寧に伝える情報発信はもちろん必要である一方、人の意識を変えるには長い時間がかかるし、一人一人のリテラシー向上が全てとばかりには夢を見ていられない。

残念だが経済格差とリテラシー格差は拡大方向に向かっているし、「良識」にだけは頼れないのだ(著書「家出ファミリー」を出した際に、本一冊を通読したことのない人が多数いることを痛感したし、皮肉だがオールドタイプの発信の限界も感じた。なので著書をドラマや映像にしたいのだ…)。そんな中でインパクトのある解の1つは、制度や政策を変えることなのだろう。

社会的包摂に関わっていくと、経済的メリットのない(「ソーシャルビジネス」ではカバーできない)支援、共感しがたい課題や属性というものはどうしても存在する。そうした人の支援は、個人や企業など民間にまかせるのでなく、公共が(国ないしは地方公共団体が)支えるべきものだと思う。

NPOは自らが規模拡大するというよりは、社会の中のR&D部門として彼らをケアできる仕組みを試行錯誤してつくり、成果が出る型が見えたら、それを制度として公共に導入・展開していくのがいいような気がしている。

※なお、こういう風に制度をつくる側になりうるしなるべきと思えるのは、ETIC.の仕事の中で川北秀人さんや石川治江さんを知ることができたからな気がする(川北さんは日本のNPO活動を牽引してきた方で、はるえさんは日本の介護保険制度の基盤をつくったロックな方である。お2人の凄さをこの文章内で私が一言で語るのは難しいため、せめてブログや記事を貼ります…。川北さんの社会事業家100人インタビューはるえさんインタビュー記事)。



共感では助けがたい層がいる、制度づくりが必要であるとは書いたが、どのように問題のコアとなっている制度や構造を見つけ、そこを切り崩していくかは、私も正直まだ試行錯誤中といったところ。ファンドレイズや広報については、ある程度「こうやればできる」というパターンが見えているが、制度の新設・改善についてはまだ見えきっておらず。

啓発キャンペーンと政策アプローチ両輪で回していく必要があるだろうなと考えていて、5年以内に1~2個は何かケースがつくれればなと思っている…くらいの段階。

で、こういうことが議論できる場があったらすごくいいなあ…そういう仲間が欲しいなあ…と思った。一緒のチームで働くほど密接な関係じゃなくても、1年に1回でも各自がケースを持ち寄り、「あー、その課題は厚労省にアプローチして新設予算を組んでもらったのね、なるほどー」「すでにあるこの制度をこうハックしたら公設機関で受け皿をつくれるね」みたいな話ができたら、すごくいいなあと。やる気のある首長とか政治家、官僚、メディア記者などが議論に入っても面白いかもしれないし。

トップクラスのNPOの代表はこういう話をする集合研修がある気もするのだが、私みたいにNPO業界の側面支援を担うポジションにはそういう機会はあまりない。でもやっぱりそれくらいの視座を持って動きたいなあと思っている(そもそもそういう知識がないと、NPOの経営者にうまく伴走できないし、「こうしたら団体として1歩先に進むね」という適切な介入もできない)。

NPOの代表や事業運営者じゃなくても(現場を持たない側面支援領域、メディア等含め)、制度変革まで見据えたような若手プレイヤーがNPOや社会的包摂に関わる分野に増えたら、とてもいいなあ…と思うのだ。

広報・編集というのは、私にとっての得意分野で最初にNPOと接するツールなのだが(人に信頼・信用してもらうためには何かの特技で貢献する必要があるので)、それは目的でなく手段の1つであって、そのプロセスの中で団体の強みを理解しながら、新規サービスの立案や制度改善を含めて、本当に社会を変えていくことが一緒にできたらいいなあと思っている。NPOにとってそういうパートナーでありたいし、そういうことができる若手プレイヤーを増やしていきたい。

ありがたいことに先日アシスタントを募集したところ、来年からアシスタント2名体制で働かせてもらえそうなので、いわゆる”広報編集”業務については徐々に移管しながら、上記のようなことにも時間を使えたらいいな~~と思っている。



最近同世代のプレイヤーと「次にどういうテロを社会にしかけるのがいいかね?」とZoomで話す機会があったり、20代アシスタントとの採用面談でキャリアの変遷(のもととなる考え方)を聞かれたので、その応答のようなつもりで、NPO業界に入ってから10年のまとめとして、この文章を書いた。

でもまだようやく、多少は役に立てるプレイヤーの入り口に着いたかな…くらいなので(道半ばというか道は始まったばかり…)、10年後にはもっと実践的な報告をしたい…!

”市民活動”というとリベラルな匂いがして嫌いな人もいると思うのだけど、言葉を変えると「社会は変えられる」と信じてきた人たちの歩みで、自分が所与のものとしている女性参政権なども誰かの活動によって勝ち取り、制度化してきたもの。先輩方の取り組みをもっときちんと学ばないとだし、それを進化させながら若い人にも伝えていかないとなあと思う。

次の世代の子どもたちが「制度やルールは自分で作れる、変えられるんだ」と思えるように、できることをやっていきたい。「社会の変え方」を有形化することに興味のある方は、ぜひ一緒にやりましょ〜。



*Facebookより転記しました。普段Facebookで投稿することが多いので、よかったらフォローをぜひ。


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