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1-7.遠近法のウソ

デカルトが、1637年の『方法序説』の中に、ガリレオの異端審問をきっかけに公刊を断念していた『世界論』の一部を『屈折光学』『気象学』『幾何学』として略述していたことはすでに紹介した。後には、こっちの内容の方がよく知られることになったが、『方法序説』は実はそれらの序文のようなものである。
その略述のひとつ、レンズの研究を元にした光学的思考を展開しているのが『屈折光学』だが、そこで問題とされているのがまさに遠近法なのだ。

デカルトは「事物とわれわれの距離を知るためのあらゆる方法が不確かなものだと言わざるを得ない」と書いている。遠近法で描かれた絵を見れば、それがわかるという。遠近法の絵では、そうあるべきだと思っているよりも小さく描いてしまえばモノは実際より遠く見えてしまうし、輪郭をぼんやり描いてしまうことで実際より大きく見えてしまったりすることがあるからだ。

「遠近法の規則では」とデカルトは言う。

円は別の円によってではなく楕円によってこそもっと巧みに表現され、正方形は正方形ではなしに台形によってこそ巧く表現され、他の図形についても全く同じことが言えるからである。つまり、イメージとしてより完璧たらんとし、ある事物をよりよく表現しようとすればするだけ、その事物には似ていてはいけないことになる。

リアルに見えるためには、現実をそのまま描いてはいけないということだ。ギリシアの円柱が直線に見えるように曲線で作られたのと同様に。

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