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見えないもののデザイン

見えないものをデザインすること。
見えないというか、とりわけ人間のやることのデザイン。しかも、いわゆるUXとかをデザインすることではなく、ルーティンなオペレーションのデザインでもなく、多くは一度きり実行されることのデザイン。

例えば、プロジェクトのデザインであり、その中の小さなタスクのデザインだったり、はたまたワークショップのデザインだとか。

そういうもののデザインも結局はデザインだから、うまく考えてデザインしないと、どれも良い感じには動かない。機能しない。これぞという目的を生みだすようには機能しない。

だから、ちゃんとデザインしてあげる必要があるんだと思う。
と同時に、こういう対象をデザインすることがどういうことなのかを考えると、逆にデザインとはどのように行うとよいかの初歩的なヒントが得られるのではないかと思ったりもする。

だから、ちょっと見えないもののデザインについて、書いてみようと思ったのだ。

デザインをはじめる前に考えた方がいいと思うのは、本当に、それ、デザインした方がいいの?ということだ。
いや、もっとシンプルにいうと、いまデザインしようとしてるそれ、本当にやる必要あるの?だ。それくらい、やる意味がないことをしてたり、やる意味を問わずに進めて、やる意味がなかったねとなってしまう結果しか出ないことが多いのではないだろうか。

なんでやる必要があるのか?を問うことからデザインははじまるのだと思う。

誰かに言われたからやります、ではいけない。
そうなのだとしたら、なぜ相手はそれをやるように言ったか理解する必要がある。それをしなければ、それをやる目的がわからず、どうしたら、それができたかになるかも想像しようがない。

そう。ここでは目的と実施後の評価基準(目標)を問うている。目的や目標が不明確なら、何をやるべきかも不明瞭だ。

何をやるべきかがわからないのに、適切なデザインは考えようがない。目的や目標が不明確ならどこを目指して機能するようなものをデザインすればよいのか。だから、まず考えるべきことは、やる目的が何で、何を達成すればやったことになるのかの目標を明確にすることだ。どうすれば、その目的や目標を明らかにできるかを考え、実行したい。

目的をや目標を探るのと同時に、それが目的になるに至った背景や経緯も知っておくとよい。それを知ることで、スタート地点がどこかがわかる。ゴールだけでなくスタートも明らかにならないと、何をやろうとしているのかわからない。両方がわかってはじめて、チャレンジすべきことが何かが見えてくる。
また背景や経緯を探るとよいのは、実はもっとよい目的の定義の仕方があることにも気づくことができるからだ。背景や経緯を聞いていくことで、相手が言ってる目的ではなく、本当は何が目的なのかも見えてくることは少なくないから。もちろん、背景情報は人に聞いて知るだけでなく、自分自身で自分の知識の不足を埋めるべく進めることが不可欠なのは言うまでもない。

目的や目標が定義するのと同時に、知っておきたいのは、いまからやろうとしていることは誰のためにやるものなのか、あるいは、誰がやれるようにしてあげるべきものなのかだ。
モノのデザインならユーザーは誰か?を明らかにすることに相当する。

その人はそれをやることで何を得ようとしてるのか、具体的に達成したい状態はどういうものか、やるにあたってどういう気持ちになりたいか/なりたくないかといったことを知っておきたい。

やる人が自分なら、自分について同様のことを問うてみればいい。
その場合、やることの目標とやる自分の目指すものは同じになるかもしれないし、微妙に違う場合もある。違うのは、例えば、仕事で何かをやらなくてはいけない場合、やる目標は仕事上達成すべきことで、自分の目指すものにはもうすこしパーソナルな事情が加わったものになる可能性もあるからだ。

だが、この両者が異なっていることを気にする必要はない。そもそもやってほしい人とやる人が違うことは、よくあることだし。違うなら違うで、双方の目的を達成するにはどうすれば良いかを考えればよい。

目的が何か。具体的なゴールをどう設定し、現状どこからのスタートになるのか。そして、それは誰が行なうことでその人はどんなこと(成果としてだけでなく、感情的な面においても)を得たいのか。
このあたりの情報が整理され、仮説が組み上がってくると、じゃあ、何が取り組むべき課題(チャレンジ)なのかも見えてくる。課題をどのようにして解くかをようやくデザインできる。

そう。ここまではやることのデザインのための準備だ。
最初に、こういうやることのデザインについて考えると、デザイン一般にもヒントになることが見えてくる旨を書いたが、まさにこれがそのひとつ。デザインの前には準備がいるということだ。
背景、目的、目標、現状、対象者などの情報を集めてなんのためにデザインを行うかを明らかにした上で、具体的にデザインによって取り組むべき課題は何かの方針をしぼりこむ。ここまで揃えて、ようやくデザイン本体がはじまるイメージ。まあ、ここまで揃えるといっても時間をやたらとかけるという話ではない。短期間にぎゅっと情報が集めて整理する方が大事。ここに長い時間をかけていいことなどない。それよりもデザイン本体だ。ただデザインするにもここまでの準備を怠るなら、繰り返しにはなるが、そんなデザインは無駄にしかならないというだけだ。

さて、デザインとして取り組むべき課題が何かが見えたら、どうすればスタートからゴールまで線を引けるかを考えればよい。

大事なのは一筆書きで考えるないことだ。逆にできるだけ、分解してみるとよい。

紙を三角に半分に折る→さらに半分の大きさに三角に折る→袋になっているところを四角に折り返し→反対側も同様に折り返す→四角の端の部分を内側に谷折り→裏面も同様に折る→いま折った面をもう一度開いて→折スジに沿って上へと折り返す→裏面も同様→続く続く……。

お分かりのように、これは折り鶴の折り方を分解して言葉にしたものだ。ここで大事なのは手順があるよねーということにとどまらない。大事なのは前の作業が次の作業の前提になっているという作業間の関係性である。

最初に、見えないもののデザインには、プロジェクトのデザインもあれば、各タスクのデザインもあると書いたが、各小さなタスクも実は目的は何で、具体的なゴールは何? そして、スタート地点はどこ?がわからずにデザインしてはいけないのだ。
折り鶴の場合なら、「袋になっているところを四角に折り返し」を行うのは、後に羽根や首、尾などの突出した部分と胴体の部分に分かれるはずの土台を作るためであり、その具体的なゴールは、四角に折り返した状態を裏表両面完了することだ。それにはスタート地点として、折り紙が4分の1の大きさになるよう、三角に2回折っておく必要がある。そして、この「袋になっているところを四角に折り返し」という作業自宅が「四角の端の部分を内側に谷折る」ことを両面行うことのスタート地点となり、さらにそれは、折った面をもう一度開いて「折スジに沿って上へと折り返す」作業ができる状態にするためのスタート地点を用意することにつながる。

このインプットとアウトプットがきれいにつながった連鎖がデザインできてはじめて、「鶴を折る」ことをゴールと設定した一連のタスクのデザインができるわけだ。

ようするに、個々のタスクをインプットとアウトプットというスタートとゴールの設定を元に、その間をどのような作業で埋めると、スタートからゴールへの移行が実現できるかをデザインすること、その積み重ねがプロジェクト全体のデザインにつながっているということになる。
逆に、小さなタスクさえデザインできなければ、そして、そのつながりを考えていないと、プロジェクト全体がうまく進むかたちにはなりにくい。きれいな鶴という結果は、プロジェクト全体のデザインが考えられてはじめて到達できる。

デザインと結果の関係がこうした「目に見えないデザイン」、人がやることのデザインという観点から見ると、すこし違って見えてくるのではないだろうか。
当然、ここには見た目の美しさや面白さなどを狙う視点は入りようがない。前提として「見に見えない」ものが対象なのだから。視覚的なものを調整するということだけがデザインではないことは明らかになる。

このデザインに求められるのは、目的に合った結果が生じるよう、どうデザインすればよいかを考えることだ。
しかも、モノがうまく機能してことを目指すのではなく、人がどのように動けばよいかなので、完全に仕組み化できない。オペレーションの設計ですらないので、手順化だけでも済まない。人の感情やモチベーションにつながる各人のミッションや役割りも考慮する必要がある。
そういうことをシーンごと、各作業単位で考慮してあげること、そのつながりを大切に考えることでデザインが成立する。
「ユーザー中心」などと言ったりするが、ここで提示したような観点でちゃんと考えられているだろうか?

まとめると、こうなる。
・なぜ行うのか?という目的(とスタート地点としての現状)が明らかになってはじめて、デザインがチャレンジすべき課題が明確になる
・デザインは定義された課題に対して、どのようにすれぱスタートからゴールへの道筋をつけられるかを示すことである
・道筋は一本道にはなりにくい。分解して、どのような順番なら辿り着けそうかを、人の観点から考え、整理と組み立てをする
・分解した作業同士は互いにインプット/アウトプットの関係でつながっているよう、組み立てなくてはならない

こうした思考が「目に見えないデザイン」には必要だが、それは他のもののデザインでも似ているところがあるのではないだろうか?
こういう風に考えて、整理して組み立てるということで、自分が何のために何を目指してデザインをどうしようとしているかを、ちゃんと見えるようにすることが。無自覚なデザインほど、デザイン的でないものはない。

デザインが視覚に関連するものだとしたら、むしろ、こんな風に、自分にとって見えるようにするという側面のほうが強いのではないかと思うのだ。

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