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台湾ひとり研究室:翻訳編「#12陳柔縉さんの著作を振り返る『台湾と日本のはざまを生きて〜世界人、羅福全の回想』」

台湾書籍《大港的女兒》 の翻訳者が、日本版の刊行前後の進捗をリポートしていくnote連載。第12回は、著者である陳柔縉さんが日本で出した3冊目の著作をご紹介します。

山のような相手への取材

本書は、台湾の駐日大使だった羅福全の回顧録です。同書については第4回であとがきの一節を紹介しました。

「他人の回顧録を書くというのは、話を聞いてそれを書き留めるコピー作業ではない。私の考えでは、どちらかと言えば庭園を造るのに似ている」

実はこのあとに続きがあります。

「正式に訪問インタビューを始めると、羅福全元代表は一つまた一つという感じに、驚く様な話をしてくれた。あわて始めた私はフォローしきれなくなった。羅福全元代表の人生は庭園どころではない、私は山に入り込んだのだ」

読み終えて脳裏に浮かんだのは、山というより広い海でした。副題に「世界人」とある意味が今なら理解できます。一方で、陳さんが山と称したのも書き手の端くれとして納得でした。時間軸、世界観、いずれも明らかにスケールが違う方に取材し、最初はどこから手をつけたらいいのか途方に暮れたのではないか——そんな気がしています。

日本、アメリカ、フィリピン、韓国、中国、イラン、ネパール、インドネシア、マレーシア……世界各地を渡り歩く様子が、陳さんの筆を通じて伝わってきました。

アメリカで受けた民主主義の洗礼

1935年生まれの羅福全の来し方で非常におもしろかったのは、やはり国連職員になって歴史的事件の起きた地で実際に見聞きするエピソードの数々です。

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