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I believe Indian. 信じることで全てが始まる気がするの。~印度紀行【前編】~



インドに行ったけど、騙されることなく帰ってきました――――



と、色んな人に嘘をついてきたことをこの場で謝罪したい。

『外国でカモられた人』というダサいレッテルを貼られたくなかったのだ。この気持ちをわかってほしい。


インターネットにありふれている、インド旅行を経験した人たちのブログはどれもこぞって、「こんな切り口でインド人が騙そうとしてきたけど、その手には乗らねーよ!笑」みたいなツッコミが多いんだけど、同じくインドを経験した僕から言わせてもらえば、「いや、もっと騙されるやついても良くね!?なに変なプライド持っちゃってんの?ほんとうは盛大にカモられたでしょ、正直になりなよ?」と言いたい。そのくらいにインド人が仕掛ける罠は巧みだった。みんながみんな躱せるものだとは到底思えない。


実際、インドで騙されないためには念入りな予習が必要だ。最近のガイドブックには、現地の観光スポットごとに分かれて詐欺師の出現情報が掲載されていたりするし、ネットのブログ記事にはそれこそ数多くの体験談が書かれている。


でも当時22歳の僕は、それらの予習を一切せずにインドへと旅立った。

だって、新作のRPGをやっていて、初めて突入するダンジョンを攻略サイト見ながら進みますか?って話だよ。そんなことをしたら何の面白味もない。学校のテストを受けている最中に「あ!これ進研ゼミでやった問題だ!」ってなるのがそんなに気持ち良いですか?僕は嫌だね。突如現れた強敵には、色んな攻撃を仕掛けてあーでもないこーでもないと言いながら瀕死状態に追い込まれ、投げやりになった末の「えぇい!回復魔法ならどうだ!」といってケアルガを発動したら効果抜群!みたいな発見が一番興奮するわけ。



話が脱線したので本題に戻る。

今回は2年前に訪れたインドについて書こうと思う。



先にも述べたように、僕がインドに初めて訪れたのは、22歳のときだった。

(※Tシャツが異様にダサいのは「インドに行くから要らなくなった服をくれ」と言って友人からタダで集めたから)



学生生活最後の卒業旅行、僕は当然いつもの同期仲良し三人組で海のキレイなリゾート地へ行き、まったり過ごすのだろうと思っていた。

しかし、僕以外の二人は最後まで就職先が決まらず、「就職先も決まってないのに旅行は行けない」と卒業旅行を断り、僕は一人取り残された。旅行のための資金は貯めていたし、社会人になったら次いつ海外に行けるチャンスが来るかわからない。一緒に行く友達はいなくなったが、旅行自体を断念するのは何だかもったいない気がした。


『一人旅にはなるが、この際どこか未開の地へ赴いて、学生生活最後の旅を思い出深いものにしよう。そうだ、インドがいい。体力がある若いうちでないと行けなさそうだし、一般的に「人生観を変える場所」とも言われている。物価も安そうだし、3週間ほどインドへ“プチ”バックパックをしに行こう』


こうして、僕はインドへ飛び立った。


僕の両親は僕が生まれる前、夫婦でインド旅行の経験があったため、

「ぼったくりには気をつけろ」

「99%腹を壊すから覚悟していけ」

など、渡印の前に色々とアドバイスをくれた。


多くの旅行客はやはりインドで騙されて帰ってくるようだったが、実際にどんな手口で騙してくるのかまで僕は予習をして行かなかった(めんどくさかったので)。そして、結果としてこの怠慢な行動がインドで僕を苦しめることになった。


羽田から北京を経由し、インドの首都・ニューデリーに到着したのは深夜3時過ぎだった。初日と2日目に泊まる宿は事前に予約していたが、あと数時間で夜も明けるので、ホテルに行くのは諦めて空港の中で時間をつぶそうと考えた。深夜の人気のない空港の片隅でガイドブックを読んでいると、インド人のおっちゃんが声をかけてきた。


「悪いが、明け方までここにいることは出来ないぞ。空港はもう閉まるからな」

おっちゃんの言葉を鵜呑みにする前に、僕は辺りを見回した。確かに人は少なくなっているが、誰もいないわけではない。こいつは恐らく詐欺師だと見切り、無視することにした。

しかし、おっちゃんは一旦は離れたものの、常に視線の片隅に僕を捉えたままずっと傍をウロチョロしていた。無視を貫いた僕に痺れを切らしたのか、おっちゃんはまた話しかけてきた。


「行っておくが、俺はこの空港の見回りをしている警官だ。俺の着ている制服を見ればわかるだろう?とにかく、この空港で寝泊まりすることは出来ないから、俺がタクシーを手配してお前を宿に連れて行ってやるよ」


確かに、おっちゃんは警官ぽい身なりをしていた。腕章にも『POLICE』の文字が縫い付けられているし、嘘じゃないのかもしれない。もし本当に警官だとしたら、ここで彼の忠告を無視し続けるのは野暮だ。一番良い手は周りの人に「このおっちゃんは本当に警官なのか!?」と確かめることだが、如何せん人が少ないので聞きづらい。それに本当に警官だった場合、僕は善意で近づいてきた人に対し疑いを吹っ掛けた最低な野郎になってしまう・・・。


「わかりました。ホテルへ連れて行ってください」


こうして僕はおっちゃんの言うことに従い、彼の手配してくれたタクシーでホテルへ向かうことにした。エクスペディアで事前予約したホテルのマップと住所を運転手に渡し、タクシーは夜のインドの街を走り出した。


ニューデリーは夜中だろうが騒音などお構いなしに、大量の車とバイクがクラクションを鳴らしながらビュンビュン走っていた。原付を4~5人乗りは当たり前だし、今にも振り落とされそうになりながらもトラックの荷台にしがみ付いて乗っている奴もいた。

日本では考えられない狂った光景に、僕は「これがインドか!!」と興奮した。


暫くして、車内が不可解な状況にあることに気づいた。

警察のおっちゃんと、知らない乗客が一人相席しているのである。通常僕と運転手の二人きりの空間であるはずだが、今この車内には4人の男がいる。なぜなのか・・・尋ねようにも尋ねられない。僕以外の3人は初対面な雰囲気すらもなく、まるで以前から顔見知りのようにヒンドゥー語で楽しそうに話している。警官のおっちゃんに関しては、靴を脱いだ裸足を運転席の背もたれにドカッと乗せていた。こいつも本当に警官なのだろうか・・・?


疑念が徐々に深まっていきながらも、タクシーはホテルへと到着した。

不思議なことに辺りには街頭一つない。予約したホテルはニューデリーの中心部、日本でいう渋谷に相当する“コンノートプレイス”から徒歩すぐの、ドミトリーだったはずだ。絶対にこんな静かな場所であるはずがない。

警官のおっちゃんと相席の乗客に「ここは本当に俺が指示したホテルか?」と問いただすも、「イエス」としか答えない。タクシーの運転手に関しては僕を降ろした後、間髪入れずに車を走らせていった。現在地は分からないうえに、引き返す交通手段も失ってしまった。


「(かなり怪しい事態になってきたが、まぁ殺される雰囲気じゃないので大丈夫だろう・・・それよりもスマホの充電がしたい。経由の北京で便を待っている間いじりすぎて、電池が切れる寸前だ。とりあえずはこのホテルに入ることにしよう)」


そうして、自分が予約したものとは全く違うホテルに泊まることにした。警官のおっちゃんはホテルの中まで付いてきた挙句、受付のおばさんと何か耳打ちしている。タクシーで相席した男はどうやら宿泊客だったらしく、さっさと自分の部屋に戻っていった。


警官のおっちゃんは受付のおばさんと話し終えると、笑顔で僕に「エンジョイ」と言って出ていった。一応、僕もそれに「センキュー」と返した。

受付のおばちゃんがルームキーを渡しに来たので、「ちなみにいくらですか?」と聞いてみた。するとおばさんは「支払いは明日の朝貰うから気にしないで」と言った。いや質問に答えろよ、気にしないわけがないだろ。


部屋に入ってみると、想像以上に快適な空間だった。ベッドはダブルだし、トイレもシャワーも付いている。予約していたホテルは一泊500円だが、ここは少なくとも倍以上の値段はするに違いない。まぁしかしインドの価格だ。日本のビジネスホテル一泊よりは安く収まるだろうと思った。

(※便器に備え付けられていた手動ウォシュレット。インドでウォシュレットを使えたのはこれが最初で最後であり、滞在後半からは自分の手で直にウンコを拭き取ることになる)



冷えっ冷えのシャワーで身体を洗い流し、僕はベッドに横たわった。

不安は拭い切れないままだったが、それでもインドという未知の世界で過ごす3週間にワクワクした。明日はどんなことが起こるのだろう、どんな景色が見れるのだろう―――そんなことを考えながら眠りについた。



翌朝、信じられないくらいの騒音で目が覚めた。鳴り止むことのない車とバイクのクラクションだ。どうやらニューデリーの街から出ていないことは確からしい。昨日の夜とは打って変わって雰囲気が違う。



「これがインドの朝か!なんと爽やかな!!」


気分はまさに『ロマンスドーン -冒険の夜明け-』という感じだ。

外の景色が早く見たくなって、すぐさま支度を済ませホテルを出た。気がつかない間に10時間近くも眠っていたらしい。部屋の窓から見える空は雲一つない青空で、窓越しにギラギラムンムンのインドの熱気が伝わってくる。


さぁ、ここから俺のグレイトジャーニーの始まりだ!おばさん、チェックアウトだ!お代はいくらだ?インド宿の一泊だから、せいぜい2000円くらいで足りるよな?


しかし、電卓に表示された数字を見て寒気が走った。




・・・1万2千円!?!?


いや、おかしい。インドでこんな料金を取られるはずがない。部屋は確かに良かったが、「インドにしては」というレベルだ。シャワーはお湯が出ないし、Wi-Fiだって接続が悪すぎる。ベッドは広かったが、使い古された畳と同じくらいクッション性に欠けていた。そんなクオリティのホテルで、なんで日本より圧倒的に高い値段なんだ・・・。払わない!俺は払わないぞ!!


受付のおばちゃんに抗議していると、昨日の警官のおっちゃんが脇から現れた。


「悪いが、このホテルの正規の値段だよ。払うまで君はここから出られないからね」



いや、帰ってなかったのかよあんた!!

ていうか、こいつ・・・完全にグルだった!警官ていうのも嘘だ!なんて巧妙な手口だ!


今思えばもう少し戦っても良かったのかもしれないが、初めて訪れた発展途上国で現地民の気性も分からぬまま抵抗し続けたら、最悪の場合殺される可能性もある。ましてやこっちは一人身なので肉弾戦になっても勝てる気がしない。


諦めて、僕は提示された金額を払うことにした。何という大誤算だ。

(ちなみに、この時の僕はインドにおける1万2千円がどれだけの大金かを知らなかった。今振り返れば、インドで1万2千円あれば余裕で10日間は滞在できる)


使わないつもりで持ってきたはずクレジットカードを切り、泣く泣くホテルを出た。初日にしてインドの洗礼を受けた僕は、きっと路上の物乞いさえも哀れむような表情をしていたに違いない。

沈んだ気持ちのまま、僕はニューデリーのセンター街『コンノートプレイス』へと歩を進めた。



「しばらくは近寄ってきたインド人全員無視しよう」


そう心に決めたはずだったが、この時すでにフラグはビンビンに立てられていた。





~続く~

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