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~印度紀行【中編】~


ニューデリーのメインストリートを歩いていると、何処からともなくスパイスの香りが漂ってきた。

そういえば、インドに着いてからまだ何も食べていない。インドで最初に口にすべきものと言ったら勿論、カレーだ。

路肩にあふれる屋台の中から、カレー屋を見つけるのに時間はかからなかった。日本のインド料理屋で食べれば安くても500円はするであろうカレーを、なんと70円で食べることができた。

(※日本の美味しいナンなど存在するはずがなく、「チャパティ」というシケった小麦粉が出てくるだけ。お替り1枚につき10円なのでまぁ安い)


腹ごしらえを終えた僕は、とりあえず軽装備になりたいと思い、荷物を一旦ホテルに預けることにした。

今度こそ騙されることなく自力でホテルを目指す。現在地からそう遠くないが、どうやらニューデリーの巨大な駅を跨いだ向こう側にあるらしかった。構図は全然違うけど、イメージは新宿駅西口から東口に出る感じだ。

駅前にはトゥクトゥクというバイクタクシーのキャッチが大量にいて、流暢な英語と日本語で交渉をしてくる。事前に料金を約束したら詐欺られることはないらしいが、徒歩で行けるため無視を完遂した。

駅構内に入り、線路の真上に架かる歩道橋に突入すると、またもやインドおじさんが声をかけてきた。


観光客かい?


「そうですが」


「実は、外国人観光客はこの先許可証がないと通れないんだ。通るためには政府の観光案内所に行って通行許可証を発行する必要がある。それを手に入れたらまたおいでよ」


「でも、他の人は特に何も提示せずに通っていますが」


「彼らはみんな許可証を発行してきたからね、既にチェック済みだよ」


偶然なのか、その瞬間僕の周辺を歩いていた外国人旅行客はほんの数人で、99%はインド人だった。

「(なるほど、このインドおじさんは稀に通る僕みたいな外国人旅行客を親切に案内してくれているんだな。身なりも役所職員っぽい正装だし、言ってることに嘘はないようだ)」


僕はおじさんの指示に従い、政府の観光所を目指すことにした。来た道を引き返すことになるが、許可証がないと通れないというならば仕方ない。

そして駅の出口まで戻ったとき、さっき声をかけてきたトゥクトゥクの運転手が再び僕に近づいてきた。


「おう、兄ちゃん!さては通行許可証がなくて通れなかったんじゃないか?」


「・・・おぉ!実はそうなんですよ、なのでこれから政府の観光所とやらに行こうと思って」


「なるほどな。でも口頭で道のりを説明されただけで地図は貰ってないみたいだな。外も暑いし、トゥクトゥク乗っていきな。安くするぜ」


今思えば、このトゥクトゥクの運転手は非常に営業が上手かった。数分前に声をかけられたとき不愛想な顔で見向きもしなかった僕に対し、微塵も嫌悪感を見せず再度歩み寄ってきてくれたのだ。そんな優しい人をまたもや無下に扱うことなどできるだろうか。いや、できない。


そうして僕はトゥクトゥクの運転手に導かれ、観光所へと到着した。


中へ入ると、オーナーの男がこれまた流暢な日本語で出迎えてくれた。

見た目がパパイヤ鈴木だったので、以下、彼をパパイヤと呼ぶ。


パパイヤは僕が何も説明せずとも状況を察し、「オッケー!許可証が欲しいんだろ?まぁそんなに急がずともこっちに座りなよ!」とソファへ座るよう促した。

パパイヤは長年にわたってこの観光所の所長を務めているらしく、日本人含めその他多くの外国人観光客の旅をサポートしてきたらしい。部屋の壁は「Thank you for the amazing journey!!」などと、世界中の旅行客からのメッセージで埋め尽くされていた。どうやら実績は確かなようだ

僕はパパイヤに3週間インドを旅する予定だと話すと、王道のバックパックルートを教えてくれた。

「まず、ニューデリーからジャイプールという産業が盛んな街へ行き、次にタージマハルのあるアーグラへ行く。その後はガンジス川のあるヴァラナシで数日滞在し、仏教の聖地ブッダガヤヘ行ったら、最後の街コルカタだ。途中の寝台列車の切符や最終日コルカタからデリーまで戻る航空券は全て手配しよう。あぁ、ちなみにジャイプールまでの道のりで、ラクダに乗って砂漠を横断することもできるぞ?クールだろ?・・・象にも乗りたくないか?乗りたいだろう、オーケイ、全て手配してやる


インドならではの魅力的なアドベンチャーの数々に、僕は案内されるもの全てに「楽しそう!やりたい!」と答えていた。信じられないかも知れないが、この時既に「通行許可証をもらう」というミッションは僕の頭から消え去っていた。極めつけにパパイヤは「腹減ってないか?」と、キッチンからビリヤーニーというインド風チャーハンをご馳走してくれた。


こうして胃袋さえもガッチリ掴まれてしまった僕は、パパイヤに推されるがままデリーからアーグラまでの1週間ツアーへ申し込んでしまった。(バックパックは経験したかったので、アーグラ以降の道のりは一人で行くことにした。交通機関のチケットは全部用意してもらったけど)



ツアー料金は、全て込みで7万円。


朝とられたホテル代1万2千円から考えると、

・宿

・移動費

・専属ドライバー

・ラクダ、象に乗れるオプション


これらが全て含まれていて7万だから、僕は不覚にも「なんだ、なかなか良心的な価格じゃないか」と思ってしまった。そして、二度と使うまいと決めたはずのカードをいとも簡単に切ったのである。



決済を終え観光所の外に出ると、既に専属ドライバーのジャイミーがスタンバイしていた。


「いやー、ナイストゥミ―チューね~!これから一週間よろしくね~!」

清潔感のある白シャツにブルーのジーンズを履いた、わりかし小綺麗な男だった。(口癖はチ〇コとマ〇コだったが)おっさんのわりに淀みないカワイイ笑顔をするし、途中途中でチャイを奢ってくれたりなどインド人にしては気前の良い振る舞いをしてくれた。デリーからアーグラまで道のりは長いが、ジャイミーとなら楽しい旅になりそうな気がした。


その日は、途中のジャイサルメールという街のホテルで一泊することになった。マハラジャ級のゴージャスなホテルだ。



ホテルで夕食を済まし床に就こうとしたとき、生存確認のLINEメッセージが親から届いた。



「予定とはだいぶ変わったけど、親切なインド人に巡り合った結果、7万円で色々できるリーズナブルなツアーに申し込んだよ」



その後、親から怒涛の説教メッセージの応酬を受けたことは言うまでもない。


~続く~

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