ある日突然、我が家に『半ケツの日』という祝日が誕生した。
「なんか面白い話して」
・・・という雑な振りをくらった際に、わりとこすらせてきた話がある。
僕が小学生で、まだ自慰行為が何たるかも知らなかった頃の話だ。
当時からマンガ「ワンピース」は小学校で絶大な人気を誇っていて、『ワンピースの単行本を全巻持っていて最新話まで話を知っているヤツは強い』みたいな風潮がクラスにはあった。
僕は自分でコミックを購入していたわけではなかったが、8つ上の兄は既に大学生でそれなりの財力があったため、新刊が出るたびに即購入していた。
クラスの友達にワンピースの新刊を貸すとそれなりの地位が築けるため、僕は兄に頭を下げては学校にワンピースを持っていく許可を得ていた。今思うと、ボロボロになって返ってくる可能性もあったのによく貸してくれたな~と思う。優しい兄だった。
そんな兄のお話。
ある日、僕は例によってワンピースの新刊を借りようと思い兄の部屋に行った。扉を開ける前に必ずノックするのがルールだったため、その時もしっかり2回、コンコンっと扉を叩いた。
しかし返事がない。
部屋には絶対いるはずだ。多分聞こえなかっただけだろうと思い、僕はさっきよりも大きな音でノックした。けれども返事は聞こえてこない。
「お兄ぃ!いるの?」
僕は部屋の中に向かって話しかけたが、結局最後まで応答はなかった。
「いないのか?」と思いながらも、確認のため部屋に入ることにした。
扉を開けた、その時だった。
ガチャッ!という僕の入室の音に気づいたのか、椅子に座っていた兄は勢い良くズボンを腰まで上げた。操作していたように見えたパソコンをもの凄いスピードで閉じ、繋がれていたヘッドホンのコードもぶち抜いた。
兄「・・っ、おぉ~・・・お前か。なんだ?」
明らかに動揺していた。僕に背中を向ける形で座っていたのだが、急いで履いたズボンはギリギリ間に合わず、ケツのラインが見えていた。
でも僕は兄が何をやっていたのか、見当などさっぱりつかなかった。
僕は兄の焦った様子を特に気に留めることもなく、「ワンピース貸して」と言った。
兄「おう、ワンピースか。ちょっと待ってな・・。」
そう言うも、いつもと全然違うところを探し始める。そこにワンピースは置いてないだろう。あと半ケツのままだけどいつ直すの、それ。
兄「ちょっと、どっかやったみたいだわ(笑)。見つかったら持ってくから待ってて。」
僕はその言葉を疑いもせず、「わかった」と言って兄の部屋を出た。『何かを隠している』という確信は持てなかったが、ただただ“半ケツ”だったことが不思議で、それが一日中僕の頭から離れなかった。
それから数時間後。
夕飯時になり、家族みんなリビングに集まり始めた。
僕も自分の部屋から階段を下りていくと、ある光景に気がついた。
兄が半ケツのままなのだ。
(え・・・なんで?明らかにケツのライン見えてるじゃん。確かに“腰パン”は流行ってるけど、あれは下に履いてるパンツが見えてこそだろ。パンツを正規の位置で履いていて、それが少し見える形でズボンが下に落ちているなら分かる。でも、あなたのそれはただケツが見えてる変態だよ。)
一体、兄に何が起こっているというのだ。
状況をいまいち呑み込めないまま、僕がフラフラと食卓に着こうとしたその時だった。
母がツッコミを入れたのだ。
母「あんた、ケツ出てるわよ?ww」
そうだ、ケツが出ている。それも半日以上も前からだ。午前中からこの夕飯時まで自分のケツが出ていることに気づかないわけがないだろう。兄さん、素直に教えてくれ。なぜあんたのケツは出ているんだっ・・・!!
しかし、満を持して兄の口から放たれたのは、僕の想像の斜め上を行くものだった。
「いや、今日、半ケツの日だから。」
終
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