射場悠人

2000/東京

射場悠人

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最近の記事

魅入る少年の存在

歩く田舎道は半宵(はんしょう)。 峠の先の地平線。 鈴虫が消える。 僕が消える。 鈴虫がみんな、僕を見ている。 散瞳した眼球には、光源のない光。 知能などは、海底に捨てた。  サンダルも、捨てた。

    • 具現化される贖罪の対象.良心による窒息

      SF小説を原作に持ちながら、限りなく内省的で、人間的な作品だったと思う。 「すべてのシーンを地上で成立させるつもりだった」と語るタルコフスキー監督の言う通り、SFの要素は確かに美術的な観点からみれば芸術的とは言い難く、単に機械的で,ハイテクではあった。しかし、その冷徹で無機質な非人間的環境下は、そこで起こる人間的な葛藤や苦悩の輪郭を鏡のように映し出す素晴らしいコントラストとして機能していた。 『惑星ソラリス』1972年 旧ソ連 監督:アンドレイ・タルコフスキー 脚本:アン

      • 嘔吐

        携帯で文章を打ちながら、車道を横断しようとする。 左右から車の気配があるが、立ち止まるのも面倒だし、顔を上げるのも気だるい。このまま轢かれたとしてもまぁ、と考えながらも、車道の中央あたりで顔を上げた。視界の端にネズミが現れたということは、確かに顔を上げた理由のひとつかもしれない。 あり得ないくらい無防備なネズミ。 両足で跳ねながら車道の中央に向かう。 普段見かける俊敏な奴とは別物の、どちらかといえば肥えたネズミ。模様なのか単に汚れているのか、腹が変に白くて気持ち悪い奴だと思

        • 無条件に生を肯定する『HANA-BI』

          エンドロールが聞こえる中、身体が静かな興奮に脈打っていた。 ”映画”は、北野武という存在に喜んだだろうと思う。 男、女、孤独、寂、瓦礫、東京、血、拳銃、雪、海、花火、人生。彼の映した「物語にあるもの全て」が幸福を感じたに違いない。彼の映した物語にあるあらゆるものが、美と邂逅していた。 『HANA-BI』1997 日本 監督:北野武 脚本:北野武 音楽:久石譲 総合評価:4.9/5.0 エンドロールが聞こえる中、身体が静かな興奮に脈打っていた。 ”映画”は、北野武という

        魅入る少年の存在

          記憶に焼きつく美しきモノクロの世界。映画『ダムネーション/天罰』

          『ダムネーション/天罰』1988 ハンガリー 監督:タル・ベーラ 脚本:タル・ベーラ/クラスナホルカイ・ラースロー 総合評価:4.9/5.0 作品詳細 「サタンタンゴ」「ニーチェの馬」などで知られるハンガリーの映画作家タル・ベーラが、罪に絡みとられ破滅していく人々をリアルに描いた人間ドラマ。以降ほとんどのタル・ベーラ作品で脚本を担当する作家クラスナホルカイ・ラースローや音楽のビーグ・ミハーイが初めてそろい、独自のスタイルを確立させた記念碑的作品。荒廃した鉱山の町。夫のいる

          記憶に焼きつく美しきモノクロの世界。映画『ダムネーション/天罰』

          芸術的思索を呼び起こす実験的耽美映画『ざくろの色』

          セルゲイ・パラジャーノフ『ざくろの色』 総合評価:4.7/5.0 作品詳細 監督、脚本はセルゲイ・パラジャーノフ。この映画は、18世紀のアルメニア人の詩人とトルバドゥールの人生を詩的に描いたものです。ーwikiー 本作は暗喩、比喩、儀式の積み重ねで物語が進行してゆく。 殆ど台詞が無く、人間に表情が無い。感情表現はモチーフを操る事で示し、モチーフを操る事でそれを受け取る。 登場する人々は“表現の媒体”でしかなく、そこには人間性が皆無であった。 構図は平面的で、役者は動きを

          芸術的思索を呼び起こす実験的耽美映画『ざくろの色』

          アンドレイ・タルコフスキー『ノスタルジア』を”読む”

          映画で何が成せるのか。どんな世界を、どのような手段で表現できるのか。映画の秘める可能性を強く感じた作品であった。 知覚しうる限りの全てに感服する。 純粋にそれだけの技術と完成度があるが、何より空気、気配が素晴らしい。 観るものを魅惑し陶酔させ、感覚に浸透してゆく。 タイトルを「『ノスタルジア』を”読む”」としたが、実際のところ、芸術の真の価値は読解不可能な”イメージ”にあると考えている。しかし、読解可能な意匠についてはできうる限り読解し、感覚のみが浸透可能なイメージの

          アンドレイ・タルコフスキー『ノスタルジア』を”読む”